83.学院祭(1日目午前)
学院祭の日になった。あてがわれた場所は皇女殿下が「あまり人が通らないところ」と言った関係上、校舎裏の通りとなった。そこにシートを敷いて皇女殿下たちとフェアフュアングの作ったアクセサリーを並べた。
フェアフュアングは
「風鈴は音を聞いてなんぼ」
と凝ったことを言い出した。
そこで、ござの上に綱を張ってそこに風鈴を吊るした。風が吹くと、チリン、チリンと心地よい音が聞こえる。
「この風鈴、なんか音色がすごくいい。聞いていると気持ちよくなる。なんか心が無になるというか。いやなことを忘れさせてくれるというか。前世の公爵邸にもあったはずなのに、今聞いてみると、すごくいいものだと再度実感されます」
「そうね、公爵邸ではライムは、ほとんどいなかったから、風鈴の音を聞くとライムに対する怒りが爆発して、風鈴を壊してしまうこともあったものね」
「それで、俺がたまに公爵邸に帰ると風鈴が壊れていたのか」
「そうです、旦那様が、外へ女を口説きに行っているから悪いのです。風鈴が壊れるのは身から出たさびです」
「女を口説きに行っていただけではないぞ、まだ見ぬ秘境にも行っていたのだ」
「それは、ようございましたね、仕事もせずに遊び歩けて」
「それが結婚の条件だろう」
「皇女殿下、前世のライム様の浮気を責めるのはもうやめにしましょう。それよりお客さんが来たみたいですよ」
向こうからクラスの男子がやって来る。
「皇女殿下は、模擬店と聞いたのですが、何を売っているのですか」
「これは私たちが作ったアクセサリーです」
「この綱から吊るしてあるのは何ですか」
「これは、風鈴と言ってフェアフュアング様が作りました」
「フェアフュアング、風鈴とはどのようなものだ」
「これは音を聞く物だ。風が吹くと気持ちいい音がするだろう」
「音はするが、それだけか。何か変わったこととか、効果とかはないのか」
「何もない、ただ音がするだけだ」
「何かよくわからないな」
「そうか」
「それからこの人形は何だ」
「それはヘレーネとフランツィスカが作った人形です」
「人形、おままごとでもするのか」
「そうですね、小さい子供にプレゼントするといいかもしれませんね」
「名前は何というのだ」
「ライム人形、私たちはそう言っています」
「そうか、それなら、妹に1つ買っていくかな」
「ありがとうございます。小銀貨7枚です」
「高いな」
「服が高いのです」
「もっと安くならないか」
「服を除けば安くなります」
「おいお前、裸の人形を妹に送ったら、妹から変態扱いされるのじゃないか」
「そうだな、それじゃ小銀貨7枚」
「ありがとうございます。妹さんによろしく」
「皇女殿下は何を作ったのですか」
「私、私はマリアといっしょにブローチと髪飾りを作ったの。ブローチが小銀貨3枚、髪飾りが小銀貨5枚です」
「それじゃ、ブローチをください」
「ブローチは小銀貨3枚です」
「はい、小銀貨3枚」
「ありがとうございます」
「このブローチすごくキラキラしているのですが、本当にこれで小銀貨3枚でいいのですか」
「はい、会心の出来ですから」
すると、フェアフュアングとマリアが驚いた顔をしている。
先ほどの学生が行ったあと、フェアフュアングとマリアが同時に
「皇女殿下、何を売ったのですか」
「何って、ただのブローチ」
「ブローチの石はガラスじゃなくてダイヤでしたよ」
「ええー。ダイヤが混ざっていたの」
「そうです」
「でも売っちゃったのだから仕方ないじゃない」
「あれはガラス」
「私が言えばダイヤもガラスになるの」
「そうですか、それはようございましたね」
あまり人の通らない所ということで、午前中はほかに男子学生が数人来ただけで静かなものであった。
そう、皇女殿下たちの模擬店はクラスでも秘密にしていたのである。言えばフェアフュアング狙いの女子が大挙して押し寄せるのが火を見るより明らかなのである。そのため、アンネリース侯爵令嬢たちには聞かれても未定とはぐらかしていたのである。
それに場所も皇女殿下がまさか人がほとんど通らない場所をあてがわれるとは誰も思っていなかったのである。それで午前中は平穏に過ごすことが出来た。
そうやって、午前中は過ぎていった。昼食はシートの上でお弁当を食べた。食堂に行けば誰かに会う。危険は可能な限り排除しているのである。




