80.馬車の旅は続く(北の町、疑似温泉)
次の日は南はもういいということで北へ行くことにした。
「旦那様、北の町で思い出に残っているところってあります」
「北の町か。そうだな、北の町だと白夜と言って夏に一日中太陽が沈まない日があるのだ。その日にはみんな屋外で太陽の光に当たるような活動をするのだ」
「でも夜がないと寝る時間がありませんね」
「その代わり冬になると極夜と言って一日中太陽が見えない日がる」
「一日中夜だと、ずっと寝てばかりですか」
「あのな、おまえ、暗くなったら寝る。明るくなったら起きる。健康的でいいが、暗くても明るくても屋内でできる活動もあるだろう」
「でもそれだと、蝋燭代がもったいないです」
「そうだな、蝋燭代はかかるな」
「そのかわり、極夜にはオーロラと言って、空に光のカーテンが現れるんだ」
「光のカーテン。見てみたい」
ということで、北の町でオーロラを見に行くことになった。参加者は前回と同様、同じローテーションで行くことになった。まず最初は皇女殿下とフェアフュアングとヘレーネとフランツィスカとタマである。
フェアフュアングが
「転移」
と唱えると、一瞬で景色が切りまわる。しかし、今は3月もうすぐ春分の日である。当然昼と夜は同じ長さである。帝国の昼間は当然北の町でも昼間である。
「旦那様、空を見ても、光のカーテンは見えませんね」
「当たり前だ、オーロラは夜に見えるのだ、昼間は見えない」
「そんなー。せっかく北の町まできたのに。ここで何か見るものはないのですか」
「ここで、昼間に見る物、俺は知らない。寒いだけだ」
「そうですね、すごく寒い。ここでの名物料理とか、何か歴史のある建物とか」
「前世と今世同じだと思うか」
「思いませんね」
せっかく来たのだとしばらく粘ってみたが、あまりの寒さに早々に馬車に戻った。馬車に戻ると
「ずいぶん早ですね。オーロラは見えたのですか」
「見えなかった。寒かった」
「はい次の人」
「あれ皇女殿下とタマはいかないのですか」
「行かない。寒すぎる」
「にゃあー」
結局オーロラ観光は成果が出ないまま半日で終了となった。夜に抜け出すのはリスクがあり過ぎるということで次の機会となった。
午後はどうするか。馬車の中で議論が続いた。
「旦那様、北の町で何か見るものはないのですか」
「俺は知らん。北へ行くと人も少ない」
「旦那様は女がいないと興味がないみたいですね」
「そんなこともないぞ。自然とか見る物は多いぞ」
「でも、あんな雪と氷の世界を見ても、寒いだけだし」
「北の魔獣狩りは。北に行くと変わった魔獣がいると思うのですが」
「でもね、誰もいないところの魔獣を狩っても空しいだけだし」
「そうですね、誰にも迷惑をかけていなところの魔獣を狩っても魔獣が可哀そうですね」
「温泉とかはどうですか。温泉だったら、寒くないし、雄大な自然の中でゆったりと湯につかる」
「そうだな、前世には雄大な自然を見ながら温泉につかるところがあった」
「でも、誰かに裸を見られるのは少し恥ずかしい」
「だったら、服を着たまま入ればいい。そして湯から上がったら着替えればいい」
「そうですね」
「でも、旦那様、前世と今世では同じところに温泉があるとは限らないのでしょう」
「そうだな、多分違うと思う。その場合は、そこに穴を掘って水を張って、火魔法で湯にすれば即席の温泉の出来上がりだ」
「それはいい。それなら午前中に行ったところにしますか。あそこだと誰もいなかったし」
ということで、再度誰もいない北の地に転移して、穴を掘ってお湯を張った。最初はいつものローテーション皇女殿下とフェアフュアングとヘレーネとフランツィスカとタマである。
「雄大な自然を見ながら、お湯につかる。いいもんですね。心があらわれるような気がします」
「だろう。俺も北の町の温泉は好きだった。湯につかりながら一杯、最高だった。おい、レム、酒はないのか」
「ありません。私たちはまだ未成年です」
「ちぇ、前世は成人していたのに」
「今世は、まだ成人してません。お酒はご法度です」
「しかたがない、ジュースでいい、レム、ミリー、セリーナこっちへ来て酌をしろ」
3人がフェアフュアングの側で酌を始めると、なぜかタマも人化して酌を始めた。
北の町の疑似温泉はフェアフュアングへの接待で終わってしまった。




