8.セルフホーフェン商会親子の来訪
皇女殿下はセルフホーフェン商会の娘マリアンヌを助けたが、その日は伯爵邸へ行く途中で時間がなかったことから、後始末はメイドに任せてそれっきりであった。その後も、転生者探しで頭の中はいっぱいで、助けた商会の娘のことはすっかり忘れていたのである。
しかし、助けてもらった商会としては、「皇女殿下にお礼も言っていない」ということで、気が気でなかった。そこで、娘の捜索にあたってくれた騎士団長を通じて、メイドから皇女殿下の予定を聞いてもらうことにした。
メイドが、
「姫様、姫様のご予定ですが、メイド長に聞いたら来週の月曜日の午前中は空いていると聞いたのですが、予定を入れてもいいですか」
「誰か私に会いたい人でもいるの」
「はい、以前助けたセルフホーフェン商会の親子が姫様にお礼を言いたいと」
「セルフホーフェン商会、よくわからない」
「マリアンヌさんの親が経営している商会です」
「そう、マリアンヌはセルフホーフェン商会の娘だったの」
「はいそうです」
「それで誘拐犯は捕まったの」
「いいえ、それが、まだ、捕まっていないそうです」
「あの、護衛、とろいのよね。私が、『あの男は怪しい』と言っているのに、話しかけるのだもの。いきなり騎士に話しかけられたら、悪人は逃げるのが当然よね。最初から捕まえに行けばよかったのよ」
地雷を踏んだメイドであった。
「まあ、いいわ。どうせ、時間は空いているのでしょ。会うわ。それと、『手土産は不要。手土産を持ってくるなら会わない。お金をもらうために助けた訳じゃない』と言っておいて」
「わかりました」
ということで、セルフホーフェン商会の親子は皇女殿下に謁見を許されたのであった。
その夜皇女殿下は今後の転生者探しに展望を巡らせていた。貴族はあと、ヘレーネとズザンナのどちらかが転生者か調べるだけである。しかし、フランツィスカはその後、何も言ってこない。
「あの、あんぽんたん、何しているのだ。ズザンナのところへ行って聞くだけなのに。もう一度、フランツィスカの部屋へ転移して催促するか。ほんとに使えないやつだ」
「まあ、いいか、しばらくは任せてみるか。少しは自分で考えてもらわないと。私も一から十まで面倒を見切れない。今後は平民からも探してみるか。今度の商会、うまく使えないかな」
そこで、前世で皇女が作っていた、陶磁器をこの商会で販売してもらい、そこにやってくる客の子供の特徴を報告してもらうことにした。そのため、皇女殿下は陶磁器を500個ほど作った。販売価格は銀貨1枚とした。
この世界にはまだ陶磁器はない。お城の料理でも見たことはない。前世でもこの商品は公爵家の専売品であった。最初はライムが作っていたが、ライムは急にいなくなるといつ戻ってくるかわからない。それで陶磁器はレムが作るようになった。
秘密の話をしたかったので、客間でなく庭園の東屋で会うことにした。ここだと茶器として陶磁器を添えても違和感がない。
「ここは私が気にいっている場所なんですよ。楽にしてください。発言を許します」
「この度は、娘を救ってくださり、誠に感謝の念に堪えません」
「当たり前のことをしただけです。馬車の中から路地を見たら男が私を睨んでいたので、これは犯罪の香りがすると思ったのですよ。それで、護衛に馬車の積み荷を確認するように言ったのですが、男に逃げられたのは私の不徳の致すところです」
「いいえ、そのようなことは、娘を救ってくれただけで十分です」
「何かお礼をと思ったのですが、お礼は不要とのことなので、何か私にできることがあれば何なりと申しつけください」
「それでは、娘さんはマリアンヌさんでしたけ、聞けば私と同じ5歳とか、ぜひお友達になってください。私はこの痘痕のせいで、友人が少ないので、また気楽に宮殿にも来てください」
「よろしいのですか、私たちのような平民がお尋ねしても」
「構いません」
「それでは、いいな、マリアンヌ」
「皇女殿下、こちらこそよろしくお願いします」
「これで私たちはお友達ね」
「それから、折り入ってお願いしたいこともありまして、この茶器なんですが、すごくきれいだと思うのですが、これを売ってほしいのです。そしてこれを買いに来た人の特徴をお知らせしてほしいのです。特に5歳の子供がいるような場合はその子供の特徴と誕生日を教えてください」
「初めて見る茶器ですね。これは何というのですか」
「これは陶磁器と言います」
「どうして、これを買いに来た人の特徴を報告するのですか」
「私はこの茶器をどのような人が求めるのか知りたいのです。将来的にはこの茶器を帝国中に広めたいと思っているのです。それには、この茶器がどのような人に好まれるのか、市場のニーズを知る必要があると思っています。そして5歳というのは私の立てた仮説を検証するためです。これ以上はまだはっきりしないので言えません。
ここに、この茶器が500個あります。これを、セルフホーフェン商会に小銀貨5枚で下ろします。そして商会で銀貨1枚で売ってください。それとお願いなのですが、私は税金の計算とか面倒なので、税金関係はすべてそちらで対応してほしいのですが。よろしいですか。それと私の名前はあまり出さないようにお願いします。絶対ではありませんので、貴族に絡まれたときは私の名前を出しても構いませんが、なるべくなら言わないでほしいのです。どうですか」
「この茶器ですが、銀貨1枚では安すぎて買った人が高く転売すると思うので、もう少し高くした方がいいと思うのですか」
「私としては帝国中に広めるという野望があるのであまり高くしたくないのですが」
「それでは銀貨2枚で、転売禁止としてはどうですか」
「わかりました。それでいいです。すると私がセルフホーフェン商会に卸すお金は銀貨1枚となりますが、それで商会は損をしたりはしませんか」
「それはありません。それだけあれば、殿下の分の税金を払っても十分もうけがあります。それに殿下の商品を扱っているというだけで、十分な宣伝になりますから」
「あ、それは困る、私の名前は出さないように」
「すいません、殿下の名前は出さないようにします」
「ほんとですよ。くれぐれも私を宣伝に使うようなことはしないように」
「わかりました。肝に銘じます」
「それから、これを買いに来た人から伝言を言付かった場合も報告してください」
「わかりました」
「お金は商業ギルドに口座を作って、そこに入金してください。陶磁器は、在庫が無くなったら言ってください、追加で渡します。その時に報告もお願いします。私がいないときはそこのメイドに預けておきます」
「わかりました」
「これからもセルフホーフェン商会とは良い商売相手となるようにと思っています」
「ありがたきお言葉、感謝します」
その後セルフホーフェン商会の親子は帰っていった。
ライムの妻たちは私が陶磁器を作っていたのを知っているから、市中でこれを見れば何か言ってくると思う。しかし、ライムが陶磁器を見たら、私から逃げる恐れもあるので、これは諸刃の剣なのよね。でも、ほかに方法が思いつかなかったのでしかたがない。いろいろ思案する皇女殿下であった。
このようにして、皇女殿下は商人を使って、転生者を探すことにしたのである。




