71.浮気の是非を問う公聴会(2日目)
公聴会2日目、今日は波乱が予想される。会場には騎士団も後ろに控えている。なんせ議題が「綱紀粛正の通達の今後の展開について」である。浮気肯定派貴族とすれば、この通達を例えば、実施時期をしばらく見合わせるとか罰則規定をなしにするといった修正を加えれば、ある意味浮気し放題である。
これに対し、浮気否定派貴族夫人とすれば、即時実施が希望である。現在この通達は公聴会で周知後実施となっている。つまりこの公聴会が終われば明日からこの通達が適用となる。ただし、細目がこの公聴会で出た意見を参考にして策定予定なので、罰則規定は、その細目の中で規定される予定である。つまり通達は適用されるが罰則規定がないため、現状は精神論でしかないのである。そのため、浮気否定派貴族夫人とすれば、早期の罰則規定の制定を求めるものと思われる。
教会関係者にしても、昨今の帝国の風紀の乱れは看過しがたいものがあるため、この通達の実施により帝国の風紀の正常化を望んでいる。まかり間違っても浮気自由などというある意味神への冒涜にも等しい考え方は修正すべきと考えている。
多くの人々の思惑を秘めながら公聴会の2日目の議論が始まった。
まず最初は教会の司祭である。この司祭、説明の中で昨日のヘレーネ子爵令嬢の教会での懺悔ということが気に入っているようで、昨日の説明を引用しながら、
「私も昨日のヘレーネ子爵令嬢の教会での懺悔という意見には大賛成です。神は広く人々を見ています。善い行いをした人には祝福を、悪い行いをした人には罰を与えます。だから早期の罰則規定の制定を求めます。
しかし、神は更生の機会も与えてくれています。そのため、教会で懺悔した場合、刑の執行を猶予してもよいと考えています。しかし、これは猶予であって、その後また同じ過ちを犯した場合は今度は厳罰に処すべきです。そして悔い改めたような態度を取って神を欺いた人にも厳罰を与えるべきです」
質問の時間になった。浮気肯定派貴族としては厳罰は避けたいようで
「神がお許しになるときに、情状酌量の余地はないのですか」
「時と場合によります」
「そんな曖昧なことでいいのですか」
すると司祭は少し考えて、
「そうですね、曖昧な表現は避けるべきですね。それでは法律の適用に猶予はなし。としてください。神が罰を与える時のみ猶予がある。ということにしておきます」
浮気肯定派貴族の質問は墓穴を掘ったようである。かえって法律が厳しくなってしまった。
次は浮気肯定派貴族の意見書である。アンネリース侯爵令嬢の「白馬の浮気男」の小説の一説を引用しながら、浮気は帝国の文化だという説明を始めた。これには皇女殿下以下、これを聞いていた公聴会のご婦人たちはあっけに取られた。浮気が文化ならそれで泣く妻はどうなるのだと言いたくなる。
会場からご婦人たちのヤジが飛ぶ。
皇帝が
「静粛に、意見は質問の時間になってからしてください」
と言って、やっと収まった。
質問の時間になった。浮気否定派貴族夫人の多くが手を挙げた。
「先ほどの、浮気は帝国の文化というのは、いささか問題ではありませんか。少なくとも浮気は結婚時の教会の誓いに反する訳ですし、こんな低俗な文化が広まったら、帝国の文化的水準を下げると言わざるを得ません」
「浮気は自由恋愛の延長、老若男女、幾つの年になっても恋をするものです。その延長が浮気です。だから文化と言ったまでのこと」
「それ泣く妻のことは考えないのですか」
「1人の女性を喜ばせれば、それに泣く女性がいるのもわかります。何事もすべてがうまくいくというわけにはいきません」
なんか議論が変な方向へ行ってしまっているように思う、最後はけんかしているようである。
皇帝が、
「時間となりましたので、この意見者の質問は終了とします。次の意見者、意見を述べてください」
皇帝も無理やり終わらせてしまった。
その後、教会関係者、浮気肯定派貴族、浮気否定派貴族夫人、中立派などが順次意見を述べていった。そのうち、アンネリース侯爵令嬢の順番となった。
「私は、優秀な人間からは優秀な子供が生まれます。だから優秀な人間は多くの妻をめとって優秀な子供をたくさん産むべきだと思います。そうすれば帝国が繁栄します。だから優秀な人間はこの通達の適用の範囲外とすべきです」
質問の時間となった。浮気否定派貴族夫人が
「優秀な人間の線引きはどうするのですか」
「それは、フェアフュアング様の様な素敵な方ですわ」
「それでは線引きになっていなと思うのですが」
「そう言われても、それ以外の方が思い浮かばないので」
ああ、これも墓穴を掘ったと思った。確かに優秀な人間は大事だが、その線引きが曖昧過ぎる。それに何をもって優秀かもはっきりしない。その後、アンネリース侯爵令嬢は、浮気否定派貴族夫人の質問にも、教会関係者の質問にもたじたじになっていた。なぜかいつも冷静沈着なアンネリース侯爵令嬢にしては不思議である。
会場の隅を見ると、深いフードをかぶっているがフェアフュアングの姿が見える。どうも、アンネリース侯爵令嬢はフェアフュアングの姿を見て、頭の中が真っ白になったようである。
最後は、マリア伯爵令嬢の番となった。マリア伯爵令嬢は淡々と内容の説明をしていく。
質問の時間となった。当然、浮気肯定派貴族からの質問である。
「教会での祈りなのに、声に出すとはおかしいのではありませんか。通常祈りとは声に出さずに、頭の中で唱えるもの、それに声に出したら周りの人に迷惑ではありませんか」
「しかし、頭の中で唱えたのでは、何を祈ったかを確認している司祭に聞こえませんので」
「教会としてはこのようなことを許すのですか」
「教会として、祈りは頭の中で唱えても、声に出しても構わないと思っています。要はその思いが神に届けばいいと考えています。唯周りの迷惑も考えると、そばにいる司祭に聞こえる程度にしてほしいと思います」
その後、質問の時間は終わった。心配していたアンネリース侯爵令嬢は頭の中が真っ白で役に立たないようである。
こうして公聴会2日目は終わった。今日の議論の内容を見ると全体的には皇女殿下に有利に働きそうである。ほっと胸をなでおろす皇女殿下であった。




