68.公聴会での意見陳述人の決定とヘレーネ子爵令嬢の意見書の検証
魔獣騒ぎからしばらくして、公聴会で意見を述べる陳述人が帝国の法務局から発表された。
さすがに、公聴会1日目の午後の陳述人には、浮気肯定派貴族はいなかった。議題が「綱紀粛正の通達の、細目作成における参考意見」ということで、綱紀粛正の通達を補完するのであり、ここで意見を述べるということは、この通達を肯定することになり、反対派貴族として受け入れられない物であったためである。そのため、浮気肯定派貴族は意見書を出さなかったようである。
この陳述人8人の枠には、浮気否定派貴族夫人と教会関係者が多く選ばれた。皇女殿下の推すヘレーネ子爵令嬢も選ばれた。皇女殿下はほっと胸をなでおろすのであった。
問題は次の日の議題である「綱紀粛正の通達の今後の展開について」であるが、これについてはかなり多数の意見書が寄せられて、選定は難航したようである。意見を述べられる陳述人は16人であるが、あまりにも多くの意見書が出されたため、2日目は時間を延長して午前中の8人はそのままとして、午後は1時間延長して10人とすることになった。18人の内訳は浮気否定派貴族夫人が5人、教会関係者が4人、浮気肯定派貴族が5人、中立派が3人、マリア伯爵令嬢であった。ここでも皇女殿下の推すマリア伯爵令嬢が選ばれたことで、皇女殿下は安堵するのであった。
次は公聴会へ向けて、内容の詰めと否定的な質問が出た場合の回答を用意しないといけない。むしろ、これからが本番である。
まず、公聴会1日目の午後の「綱紀粛正の通達の、細目作成における参考意見」の陳述人のヘレーネ子爵令嬢の意見書である。
いつもように皇女殿下以下前世の妻たちが全員集合である。今回は特別ゲストとしてフェアフュアングとタマが出席している。
フェアフュアングは
「そんなことお前たちで勝手にしろ」
と言っていたが、
「今回の騒動の原因は旦那様なのだから、ちゃんと責任取って」
と無理やり出席させた。
とにかくライムは頭がいい。矛盾点があれば鋭く指摘できる。やる気があればの話であるが。これは皇女殿下以下前世の妻たちの共通認識である。
タマは11番目の妻になるのなら知っておく必要があるということで出席させた。
皇女殿下が
「それはヘレーネ、貴方の出した意見書を説明して」
「はい、皇女殿下。それでは内容を説明します。今回私は、この通達の具体例として、婚約中の男女はどうあるべきか。次に結婚してからはどうあるべきかと2つの観点に分けて意見書をまとめました。
まず、婚約中の男女ですが、
1.他の令嬢あるいは男性に色目を使ったり、口説いたりすることを禁止する。
2.他の令嬢あるいは男性に言い寄られたときはきっぱりと断る。
3.他の令嬢あるいは男性が体に触わるとか、押し倒すとかの実力行使に出た時は、複数の目撃証言などの証拠がある場合は帝国の法務局にも事実として伝える。ない場合は帝国の法務局の人が立会いの下で、教会で懺悔してもらう。そして、神に誓ってその様なことはしていないと言い張った場合は無罪、教会の懺悔を拒んだ場合は有罪とする。
4.もし他の令嬢あるいは男性が、既成事実を作ろうと実力行使に出た場合も3.と同様教会で懺悔してもらう。
次に結婚している夫婦についてですが。
1.夫婦は結婚後子供を作る。白い結婚は、始めから結婚する気がないとの同じで、神への冒涜であり、絶対に行ってはならない。
2.結婚後、夫婦は同居を基本とする。理由なき別居は、婚姻の契約違反とみなす。
3.夫婦は家の存続に向けて、家の仕事を共同で行う。一方に押し付けるような場合は契約違反とする。
4.もし、家の当主が、家の仕事を第1夫人に押し付けて、家の仕事をしない場合は、その家の当主への資金の提供を第1夫人の裁量で停止できる。
5.結婚後夫婦が倦怠期になった場合あるいは政治的な理由がある場合は、第1夫人の了解の基、側室を取ることができる。ただし、家の管理は第1夫人が行う。
6.将来離婚する場合は、それまでの貢献度に応じて、十分な金銭補償をする。もし、その補償に不満のある場合は帝国の法務局に申し出て裁定を受けることが出来る。
これが私の意見書です」
「皆さん、この意見書の内容について何か意見はありませんか」
「異議なし」
活発な議論はないようである。本当にこれでいいのか。疑問の残るところである。それで、皇女殿下はこの中で1番頭のいいフェアフュアングに
「旦那様、何か問題点はないかしら」
すると、フェアフュアングは
「概ね、問題はないと思うが、婚約中の男女の契約違反に対する罰則と結婚後の夫婦の契約違反の罰則は分けて考えるべきだと思う。だから意見書を述べるときはこのあたりも言及した方がいい」
「そうですね、婚約中だと、婚約解消で金銭補償、それでやり直しが効きますものね。結婚後は子供をどうするか家をどうするか難しい判断が必要になりますものね」
「わかりました、公聴会で意見書を述べるときはそのあたりにも言及するようにします」
このようにして公聴会に向けての意見書の検証が始まったのであった。




