67.魔獣討伐実習
学院では冬が近づく頃になると森での魔獣討伐の実習が行われる。といっても学生が強い魔獣を狩れるはずもなく、内容は屋外でテントを張って1泊する。その間に魔獣に出くわせば討伐する。といったものである。大体貴族が主体の学院生が魔獣に出くわして、もし怪我でもしたら責任論になる。だから、魔獣討伐と銘打っているが、実際はゴブリンなど弱い魔獣しかいない森の浅いところで教師が監視のもとテントを張る訓練の様な物である。それも1クラス50人が同時である。魔獣の方が気後れして出てこないことの方が多い。
皇女殿下たちは、いつものようにフェアフュアングのテントを中央にして、その周りにテント張ったが、いかんせんAクラスには皇女殿下を含めても前世の妻たちは4人しかいない。どうしてもすきまができる。その間隙を縫って、アンネリース侯爵令嬢たちフェアフュアングを狙う令嬢たちがテントを張った。この状況にAクラスの担任のハンスはあきれた。場所はこのあたりで好きなところとは言ったが、まさか一人の男の周りに複数の令嬢のテントが並ぶとは思っていなかったのである。
しかし年頃の男女が1か所に固まっているということで、ハンスもここにテントを張ることにした。今回は皇女殿下が実習に参加ということで、近衛師団からも護衛が3人来ているが彼らもここにテントを張った。そのようして、フェアフュアングの周りにはいくつもテントが並び、一種異様な雰囲気になった。
夕食はフェアフュアングと皇女殿下たちは一緒に取った。近くで、アンネリース侯爵令嬢たちの恨めしそうな目がにらんでいる。皇女殿下が
「フェアフュアング様、今日はお気をつけてださいね」
「わかっている。他の令嬢に言い寄られても、何もしなければいいのだろう」
「そうしないと、わかっていますよね。あなたのご両親の村の税のこと」
「わかっている。両親からも言われている。お前は執着心の強い女だと」
「私は執着心が強いのではなく、旦那様にぞっこんなのです」
「そうか、なんか軌道を逸しているように思うが」
「何とでも、おっしゃってください」
その様にして夜は更けていった。
「キャー」
夜も更けた頃、中央のフェアフュアングのテントから女性の悲鳴が聞こえた。みんなが、そのテントに集まると、そこには髪の毛を逆立たせた、獣の目のような目をした1人の幼女がいた。口は耳まで裂け、爪は長く伸びている。そして長いしっぽまである。彼女は裸である。そして、そのそばには事の発端になった貴族令嬢が尻もちをついておびえている。そして、このテントとの主であるはずのフェアフュアングの姿は見えない。
人が集まってくると、この幼女は、すばやくテントから出ると、近くの木の上に飛び上がった。そして
「主様の貞操を狙う女は私が排除する」
そう言うと闇夜の中に消えていった。
しばらくするとフェアフュアングが1匹の猫を抱えて戻ってきた。ハンスが
「フェアフュアング、どこへ行っていたんだ」
「トイレ。用を足しに行ったのだけど、さすがにテントの近くでするわけにもいかないので時間がかかった」
「その猫は」
「途中で拾った。何かあったのか」
「今、そこにいる女学生が魔物に出会った。人間の言葉を話す魔物だ」
「そうか、それはかなり知能の高い魔物だな。さすが魔獣討伐実習だ。それで、その魔獣はどうした」
「わからない、闇に消えていった」
「そうか、それだと、また襲ってくるかもしれないな、今日は寝ずに俺が番をしてようか」
「そうだな、2人1組として1人は起きて番をすることにしよう」
こうして、魔獣対策として、必ず誰かが番をすることになった。大体魔獣討伐実習と言いながら誰も夜起きていないというのもどうかしていたのである。
皇女殿下は
「よかった、タマを連れてきて、危なくフェアフュアング様の貞操が奪われるところだった」
魔獣が出たということで、今回の魔獣討伐実習は、次の日の日程を取りやめて帰ることになった。
次の日、ここには騎士団が入って、魔獣討伐を行うことになったが、人の言葉を話す魔獣ということで、宮廷からも魔法士が派遣されたが、これを聞いた皇帝は何故かあまり乗り気でなく
「適当でいいぞ」
と何とも心無い命令を発したのであった。
結局、魔獣は発見されず、今後の魔獣討伐実習は場所を見直すことになった。




