58.皇女殿下の対応
入学式から帰って、皇女殿下は皇帝と皇后に不満をぶちまけた。
「なんなの、あの魔道具、宮廷の魔法士が自信を込めた作だと聞いていたのに、全然効かないじゃないの。入学式ではフェアフュアングを見ただけで倒れる女生徒もいたし、入学式の後のガイダンスでは私は『フェアフュアング様を独り占めするのはよくない』って言われたんですよ。
これじゃ、まるで私が完全に悪役令嬢じゃないですか。どうなっているのよ、この国のモラルは。だいたいフェアフュアングは私の婚約者よ。婚約者のいる男性を狙う方が悪いと思うのよ。そう思いませんか」
「たしかに、婚約者のいる男性に言い寄るなんてことは、貴族令嬢としてはあるまじきことだ。わかった、明日宰相とも協議して、風紀の徹底ということで通達を出す」
「そうしてください」
すると、皇后が
「でもね。私あの小説「白馬の浮気男」次回の発刊楽しみしているのだけれど、通達には小説は別物としてほしいわ」
これを聞いた皇帝と皇女殿下は震え上がった。
「母上、そんなこと言っていたら、通達が骨抜きにされるじゃないですか。大体あの小説が悪いのよ。人の婚約者を取ってもいいだなんて、こんなに帝国の風紀が乱れたのはあの小説が元凶よ。あの小説は発刊禁止にすべきよ」
「それはダメ、私の楽しみがなくなるから」
「母上は娘の将来と自分の楽しみのどちらが大事なのですか」
「どちらも大事、何かいい方法ないかしら」
結局、皇后の反対で、小説の発刊禁止は見送りとなった。不満たらたらの皇女殿下であった。
離宮に戻った皇女殿下は、前世の妻たちの生まれ変わりと猫1匹を集めて、急遽対策会を開催した。そこで、Aクラス以外の生徒に教室に戻ってからのことを話した。とにかくAクラスにはフェアフュアングに治療してもらった令嬢が多数いるのである。
すると、BクラスとCクラスの生徒から、BクラスやCクラスでも同様ということであった。どうも、これまでは顔に痘痕があるということで、学院の入学を諦めた令嬢が多数いたようである。そのような令嬢が今年は大挙して学院に入学してきたようである。そのため、学院もそのような令嬢のために入学枠を増やしたそうである。つまり少なくとも増えた入学枠の分だけ、フェアフュアングを狙う令嬢がいるということである。実際はもっと多いかもしれない。
現状は、最悪と行かないまでも、かなり悪い状況であることが判明した。ぼやいていても仕方がないので、今後の対応を協議した。決まったことは以下のようである。
1.フェアフュアングをとにかく1人にしない。必ず近くに誰かがいるようにする。
2.皇女殿下たちAクラスの前世の妻の生まれ変わりはフェアフュアングと同じ科目を履修する。そして、フェアフュアングの履修する科目は他の令嬢に知られないようにする。
3.フェアフュアングに来る手紙は検閲をして問題のない物だけフェアフュアングに渡す。これは、フェアフュアングが離宮にいることから可能である。
4.お茶会やパーティーは王宮で開催されるもの以外は断る。フェアフュアングにも、これを徹底させる。やむを得ないものは皇女殿下同席とする。
5.フェアフュアングに、浮気した場合は生まれた村の税金を10倍にするという話を再度徹底する。
次の日の学院に行く馬車の中で、皇女殿下はフェアフュアングに
「旦那様、学院では、必ず私たちの1人といるようにしてください、絶対に1人になるようなことはないように」
「トイレも一緒か」
「それは……、わかりました。トイレは許します。しかしトイレの前までは私たちの誰かと一緒です」
「なんか厳しいな。俺には選択の余地はなしか」
「なしです」
「もし破ったら」
「フェアフュアング様の生まれた村の税金を10倍にします」
「それはきついな」
「それから、学院で履修する科目は私たちと同じにしてもらいます」
「それはかまない。どうせなら俺の履修届もお前が書いて出しといてくれ」
「わかりました。私が書いて出しておきます」
「それから、お茶会やパーティーは、私がご一緒する時以外は欠席にしてください」
「いいぜ、前世は貴族だったけど、今世は平民、あまりそういうのは行きたくない」
「それから、旦那様に来た手紙は王宮の官吏が事前に確認します。念のため、再度私も確認します。いいですか」
「いいぜ、今世は平民、難しいことは分からないから、お前が適当にしてくれ」
こうして、昨日決めた対策はフェアフュアングの了解を得たのであった。




