45.国王との取引
皇女殿下を特使とする一行がブレンブルグ王国の王都に着いたのは、皇女殿下が流させた噂が王都中に蔓延している頃であった。
皇女殿下一行は王宮の宿舎にあてられた部屋に通された。国王以下国の重鎮との会談は明日からである。今日は王都に着いたばかりで何もない。食事も部屋でとると言った。部屋にはブレンブルグ王国のメイドがいたが、ネレーネに鑑定してもらったらスパイとのこと。スパイなんかいらない。こちらのメイドがすると言って追い出した。当然部屋には結界を張った。屋根裏に潜んでいたスパイは眠らせた。
どうも王都に流れる噂を気にしているようである。こちらが誰とも接触しないようにしているようである。しかし、ここは明日の会談のためにも誰かに接触したという既成事実がいる。そこで、王女殿下は、庭を散歩すると言って、部屋を抜けだした。そして、腹が減ったと言って、厨房に行った。そこで、調理人たちに混じって
「ここへ来る途中変な噂を聞いたのだけど、なんでも、『第2王子と第3王女は国王の子供ではない。王妃が浮気して作った子供だ』というのだけ、聞いたことあるか」
「ひい、そんな話、口が裂けても言えません。私も命が惜しいですから」
「そうか、殺されるということは真実ということか」
「私は何も言っていません。どうかご容赦を」
「私はなにも、お前を殺したりしないぞ。第2王子と第3王女が誰の子供であろうと私には関係ないからな」
かわいそうになったので、今度は王城の事務官の部屋へ行った。普通だったら、こんなにふらふら王城を歩き回れば衛兵に止められるのだけど、衛兵が近づくと皇女殿下の眠り魔法で眠らされるのと、索敵でわざと衛兵を避けて動き回っているので、神出鬼没である。
ここでも、第2王子と第3王女のうわさ話を聞いた。そのようにして既成事実をいっぱい作って部屋に戻った。
次の日、国王と宰相は浮かない顔だった。前日に皇女殿下一行が城内をいろいろ歩き回って、いろいろな人と接触したからである。会談には第1王子と第2王子も出席している。皇女殿下がどのような話をするのか非常に興味がある。そもそも何の目的で皇女殿下がこの国を訪問したのか、帝国からは「皇女殿下の実績作り」とだけ聞かされている。つまり目的がはっきりしないのだ。
「今日は遠路はるばるブレンブルグ王国にお越しいただいてありがとうございます。この国を代表して歓迎の式辞を述べさせてもらいます」
このようにして国王の挨拶が始まった。
「先ほどは国王陛下から、身にあまる歓迎のお言葉を頂いて恐縮しております。今後とも帝国とブレンブルグ王国の友好の輪が広がることを期待しております」
何となく無難な挨拶である。
「この国は牧畜の国と聞いておりましたが、昨日の夕食の肉も大変美味しくいただきました」
このように会談が進んでいく中で、皇女殿下はふと他人事のように
「こうやって見ると、国王陛下と第1王子は似ているのに、第2王子とは似ていませんね」
これを聞いた、国王と宰相は青ざめた。しかし、
「第2王子は王妃似なのですよ」
「そうですか、ここへ来る途中、色々な噂を聞きました。それと昨日、城内でなんか非常に貴重なものを頂きまして、何なのか後で部屋に戻って、スタッフ一同で見たのですが、なんか触れてはいけないもののようで、ここでお見せするわけにはいかないので、後で、国王陛下と宰相にだけお見せしようと思います」
会談終了後、国王と宰相が皇女殿下のいる部屋を訪れた。お供の護衛騎士もいたので、皇女殿下は
「いいのですか。壁に耳あり、障子に目あり。護衛騎士から秘密が漏れてもいいのですか」
すると、国王が
「壁に耳あり、障子に目あり。とはどういい意味ですか」
これを聞いて、皇女殿下は「いけない、これはライムの口癖だった。そもそもこの世界に障子はない」割としょうもないことを思った。
「秘密は、どこから漏れるかわからないということです」
と答えた。
すると国王は護衛騎士を退席させた。
その後、天井のスパイを眠らせて、問題の魔道具の音と映像を再生させた。すると、国王と宰相の顔が引きつった。
それを見て皇女殿下が
「どうも、第2王子と第3王女は国王の子供でないという噂は本当のようですね」
国王と宰相は「もうどうしていいのかわからない」といった顔をしている。茫然自失である。皇女殿下は「勝った」と思った。
「私も、今回の訪問は友好の輪をつなぐためなので、これを公にしようとは思いません。しかし、ただというわけにはいきません。念のためこれは複製を取らせてもらいました」
「私の望むことは、私を、この国の小さいところでいいので、そこの領主にしてほしいのです。そうしてもらえれば、この魔道具は、国王陛下に進呈します。私には複製がありますから」
「本当にそれだけでいいのですか」
「はい、私も帝国皇女、嘘は言いません。私が領主にしてもらうところは、明日から王国の北の町の国内視察で行くことになっているところで気に行ったところがあればとしておきます」
これを聞いて、国王と宰相は、不思議そうな顔をしていたが、皇女殿下を見ても、優しく微笑むだけなので、それ以上詮索するのをやめて、
「わかりました。明日から行く視察で気にいったところがあれば、おっしゃってもらえれば、そこの領主にさせてもらいます」
次の日から、皇女殿下一行のブレンブルグ王国の国内視察が始まった。そして、何日目にか訪れた、タールブッケン町とその南のフェアフュアングの生まれた村を気にいったので、そこの領主にしてほしいと言った。その願いは国王陛下と宰相に了承された。そして、皇女殿下はブレンブルグ王国でタールブッケン町とその南のフェアフュアングの生まれた村を含む一帯の領主、男爵位を授かったのであった。
皇女殿下は国王へ感謝の意を込めて
「それから、渡すのを忘れていたのですが、王城ではこのような物も手渡されました」
と言って、反国王派貴族の裏帳簿の写しを渡した。
これを見た国王と宰相は、
「どうか、ご内密に」
と言うのが精一杯であった。
このようにして、皇女殿下は、フェアフュアングの生まれた村の領主になることに成功したのであった。そして、意気揚々と帝国に帰っていった。




