34.魔獣の襲撃
近隣5か国の訪問を終えた特使一行は帰還の途についた。行は北周りに、周回してきたが、帰りはこのまま北の山岳地帯を通って帰る予定である。距離は短いが、山岳地帯には魔獣も多くいる。幸い護衛の騎士も多く、途中まではトリスタント王国の騎士団も同行するため安全と思われた。
平野を抜けて、山間部に入っていくと、道はひたすら上っていく。馬は元気である。私だとこんな上り坂すぐにばててしまう。この道は1000年以上も前に作られた街道で、中央を少し高くして両側を低めにして、雨水が流れるようにしてある。路面は砂利を固めてある。表面には馬車の車輪でも凹まないように大きな石をはめ込んである。うまく作ってあると思う。
でも途中まで来たら、がけ崩れで、この先は通行不能とのこと。現在領主が復旧工事をしているので、復旧は1週間後とのこと。仕方がないので近くの宿で待つことになった。この街道は北と南をつなぐ主要街道のようで、行きかう商人も多い。宿はいっぱいの人である。私たちは宿を空けてもらったが、そう泊めてもらったのではなく、金にいうことを言わせて無理やり空けさせたようである。追い出された商人にはなんとも申し訳ない。このため、兵士の人はテントで野営とのことである。
することないし、これまでと違って、特使一行は1つの部屋で、すし詰状態なので、部屋にいると息が詰まる。
「しばらく、辺りを見てくる」
と言ったら危険だということで護衛の騎士が2人ついてきた。うっとうしい。正直言って邪魔。しかし、無下にもできないので、ほっておく。大根か人参と思うことにした。
宿から少し歩くと、湖が見えた。
「きれい」
山間の湖ということで、水もきれい。手で水をすくってみると、
「冷たい」
しばらくぼうっとしていたが、暇なので、索敵で上から見てみることにした。視点をだんだん上にあげていく湖がだんだん広がっていく。このあたりは風光明媚なようで、春先の新緑と溶け出した雪から流れる小川がキラキラして眩しいくらい。
そうやって、空中散歩を楽しんでいたら、変なものを見つけた。なんか以前見たような。視点を拡大していったら、ワイバーンだった。それも顔に火傷の跡がある。間違いない、私がシャルルランス王国に来るときに途中で撃退したワイバーンだ。今でも私を狙っているなんて、なんて執念深いワイバーンだこと。
ここで、もう一発今度は強力な魔法をぶちかましたいが、護衛に見られると面倒である。そこで、皇女殿下ではないが、私も護衛には少し眠ってもらうことにした。
「護衛よ眠れ」
と唱えたら、護衛が眠りだした。護衛が眠ったら、不安になった。生きているよね。死んでいないよね。護衛の側に行ってみたら寝息が聞こえる。よかった。死んでない。皇女殿下のことあまり悪く言えないなと思った。
これで、準備は整った。遠慮なく魔法をぶちかませる。やはり、ワイバーンは私を狙っていたようで、私に向けて急降下してきた。私はありったけの魔力を込めて
「ワイバーンよ爆ぜよ」
と唱えた。
すると、ワイバーンが爆散した。それはいいのだけど、上からワイバーンの破片、そう、もうこの時はワイバーンは死んでいたので、ちぎれた体の破片である。が降ってきた。こんなのが体に降りかかったら体中血まみれである。たまったものじゃない。そこで
「風よ吹け、ワイバーンの死体をすべて吹き飛ばせ」
と唱えた。
するとワイバーンの死体が湖の方へ飛んでいった。
幸い誰も見ていないようだし、ワイバーンの死体もかなり遠くへ飛んでいったから、私は知らないことにしよう。何もなかった。魔獣の襲撃はなかった。そうすることにした。
その後、護衛を起こして、何食わぬ顔で宿に戻った。帰るとアリーナさんに
「何かいいところあった」
「湖がきれいだった」
「そう、それにしては何か変ね。ほんとに何もなかった」
「何もなかった。湖を眺めてぼうとしていただけ」
最近アリーナさんが鋭くて困る。私も、皇女殿下みたいに、とぼけるのをもっとうまくならないといけないなと思った。
それから1週間して街道が復旧して、帰りの旅が再開された。




