33.最後の訪問国トリスタント王国
シャルルランス王国での公式行事も終わり、特使一行は次の訪問国トリスタント王国に向かった。トリスタント王国はシャルルランス王国の南に位置する国である。帝国よりもかなり南に位置することからもうこの国は春である。馬車の窓から暖かい風が流れてくる。
「アリーナさん。もう春ですね。1月に帝都を出会たはずなのに、もう3月、帝都でももう春ですかね」
「帝国はここより北にあるから、まだ寒いだろう」
「ここはいい国ですね。暖かくて」
「そうでもないぞ。暖かいということは、すぐ物が腐る。腐りかけの物を食べると、腹を壊す。だからこの国では食べ物に気を付けないといけない。それに、王都の悪臭がひどい。私は外務部にいるが、ここの悪臭だけは鼻をつまむ」
「そうですか。長所と短所は裏表なんですね」
「しかし、ヘレーネちゃんは本当に7歳か。よくそんな難しい言葉がしれっと出るな」
「おませなんです」
「そうか、それだけでもないみたいだが」
話せば話すほどぼろが出るヘレーネであった。そんな旅が数日続いて王都に着いた。確かに悪臭が鼻を突く。こんな国は速攻で終わらせてと、次の日からまた貴族年鑑の閲覧と転生者探しに明け暮れた。国が小さいことと早く帰りたいと思うようになったことから1日で転生者探しは終わった。対象者はなしであった。
いつものようにヘレーネ以外の特使一行は歓迎パーティーへ行っている間に、魔力結晶の包蔵容器のふたを開けて、皇女殿下を呼び出した。
「トリスタント王国の貴族には転生者らしき人はいませんでした。これで、5か国訪問の旅は終わりです。あとは帝国に帰還するだけです」
「報告ご苦労。無事の帰還を待っている」
「温かいお言葉、恐悦至極にございます」
「お前も一皮むけたな」
「その言い方、少し卑猥です」
「何を言っている純粋に感想を述べただけだ、今回の旅で一回り大きくなったと言っただけだ」
「そうですか。なんか違う意味を込めていたように思うのですが」
とても7歳児の会話ではない。さすが、前世では何人も子供を産んでおばさんと言われる年齢まで生きただけはある。
「私は少し用事を思い出したので、この王都で用事を済ましてから帝都へ帰る」
「変なことはしないでくださいよ」
「わかっている。私はいつも冷静沈着だ」
そう言って皇女殿下は転移していった。
皇女殿下は、今回も奴隷商のところである。もう、マッチョな奴隷を買うなんて変な気を起こさずに、元商人の女奴隷を数人購入した。何回もやっているとルーチンのようになって機械的に作業を進めていく。そして宿をとる。そして、その日の作業は終了。
次の日、帝都から転移してきて、商業ギルドで適当な店舗兼住居を購入し、商品を並べ看板を作る。そして前回同様木彫りのライム人形をならべた。これで作業終了。後はうまくやれと奴隷に命令して帝都に帰った。
一方、特使一行は王宮での会議終了後、王都郊外の山岳地帯にある夏の離宮を訪れていた。この離宮は冬は王都の宮殿で過ごす王族が、夏は避暑を兼ねてここで政務をとるとのことである。離宮と聞いてこれまでは別行動だったアリーナとヘレーネも同行した。王都を離れると、王都の悪臭も漂ってこない。暖かい風が吹き抜ける街道は芽吹き始めた新緑が瑞々しい。まさに早春〇である。
王宮間の広場に立つと、前方に荘厳な王宮が見える。王宮は白を基調とした左右対称の4階建てで、中に入るとホールがあり天井が高いことから、その壮大さに圧倒される。しかし、これを建てるのに一体いくらかかったのだろうと考えるのは、いつも金に困っていた貧乏貴族の世知辛さである。
トリスタント王国の担当者の説明に耳を傾けながら、優雅なひと時を過ごした後、また悪臭漂う王都へ戻るのであった。
このようにして、特使一行の友好の旅は当初の目的を達成して帝国へ帰還の途についたのであった。




