18.ブレンブルグ王国訪問
特使一行は最初の訪問国ブレンブルグ王国に到着した。ブレンブルグ王国は帝国の北西に位置する国で、国土は平たんで、中央に大きな川が流れている。牧畜が盛んで、羊の飼育で得られた良質の羊毛を用いた毛織物工業が盛んである。帝国にも輸出されている。帝国からは小麦や各種農産物が輸出されている。最近は帝国で生産される魔道具も貿易品の一つ加えられるようになってきた。
ブレンハイム王国の国境を越えると辺り一面の牧場風景が広がっている。牛や羊が優雅に草を食んでいる。でも、家畜の臭いが漂ってくるのは少し引いてしまう。景色がいいのはいいのだけど、この臭い何とかして、特に畜舎の横を通るときは鼻を抑えた。
すると目の前のアリーナが笑っている。
「ヘレーネちゃんて、すごく大人びていて、ほんとに7歳なのかと思っていたけど、このしぐさを見ていると、年相応なのだなと思ってしまう。でも駄目よ、この国は羊を飼うのが仕事なのだから。いやそうな顔をしたら、気分を損ねるから。相手の国を尊重する。これは外交の基本だからね」
「ご教示ありがとうございます。肝に銘じます」
「ほんとに7歳。普通はそんな難しい言葉知らないはずよ。うちの姪なんて、まだ、幼児言葉のままだもの。さすが、皇女殿下に見込まれるだけはあるわね」
「ありがとうございます」
ここでヘレーネは自分たちが異常なのを初めて悟った。しかし子供らしくと言われても、前世の記憶が戻ってからはこれが普通であり、今更無理だなと思った。
数日して王都に着いた。さすがに王都に入ると家畜臭さは漂ってこない。快適な時間かと思うとそうでもない。都市が密集してくると、今度は人間の悪臭が漂ってくる。
帝国では、皇女殿下が口うるさく言って皇帝を動かしたことから、くみ取り式のトイレを各所に作って、排便はそこですること。また、汚水を道に捨てることを禁止した。また、人を雇って帝都の道や路地を掃除させている。それで帝都は綺麗になった。そして、帝都を見習って同様の政策をしている貴族も多い。だから帝国は清潔である。
ここではそうでもないらしく、汚水が垂れ流しのようである。「いやそうな顔をするな」と言われても自然と鼻を抑えてしまう。
当日は午後に着いた関係上、公式行事はなしである。宿舎にあてられた、王宮の別館でくつろいでいる。明日は特使は王国の国王以下の高官たちとの会議、夕方からは特使一行は国王主催の歓迎パーティーが開催される。
ヘレーネには特に仕事はないので、早速この国の貴族年鑑の閲覧をしたいと特使に申し出た。これについては特使も皇帝から便宜を図るように言われているようで、すんなり了解が得られた。ヘレーネだけでは問題が生じると困るということでアリーナも同行することになった。
他の特使一行にはこの扱いが少し異常に映ったが、特使が涼しい顔で言うので、何かあると思い、あえて聞かなかった。
次の日、ヘレーネは、貴族年鑑の保管されている部屋に案内された。順番に貴族の家族の中にヘレーネと同じ7歳の子供がいないか。いた場合は誕生日がいつか調べていった。途中からアリーナも手伝ってくれた。それで、夕方までに貴族年鑑の調査は終了した。しかし、転生者とみられる貴族の子供はいなかった。期待していただけに少しがっかりしたが、まだ4か国ある。気を取り直すヘレーネであった。
夕方になったので、宿舎に戻った。これからアリーナは歓迎パーティーに出るので、ヘレーネは一部の護衛とこの部屋で過ごすことになる。特使一行が部屋を出て行って、部屋はヘレーネと護衛が2人の3人だけとなったので、護衛に服を着替えたいので部屋の外で待機してほしいと告げた。護衛が部屋を出て行ったあと、ヘレーネは魔力結晶の包蔵容器のふたを開けた。とりあえず今日のところまでの結果を皇女殿下に報告しようと思ったのである。
すると、すぐに目の前に皇女殿下が現れた。
「ヘレーネ、転生者らしき人物は見つかった」
「いいえ、この国の貴族年鑑には転生者らしき人物は見つかりませんでした」
「そうか。仕方ないな。まだ4か国ある。1人でも見つかればいいかな。帝国よりはずっと小さい国だものね」
「そうですね。それにしても皇女殿下はあまり遠くへ転移出来なかったのでは」
「それが、前世ではあまり遠くへ転移出来なかったのだけど、今世ではかなり遠くへ転移できるようになった。能力が上がったみたい」
「不思議ですね、私も能力が上がっているのかしら」
「調べてみたら」
こうして、今日のところの報告は終わったのであった。




