17.特使の派遣
その年の暮れに、ブルヘンハイム帝国から、近隣友好国5か国への特使の派遣が発表された。年明けの1月から、3月にかけて、近隣の5か国を回るのである。名目はさらなる友好の促進と貿易の拡大であった。特使はマーベルブルグ外務卿である。外務卿は公爵家の出身である。それに随行する秘書官が数名、さらに護衛の騎士がつくといった陣容である。
皇女殿下はこの特使一行にヘレーネ子爵令嬢を潜り込ませることに成功した。名目は特使の随行の身の回りの世話をするメイドとしてであった。
出発前に皇女殿下は特使随行の一人、唯一の女性秘書官アリーナを呼んで
「今回、特使一行には私の友人のヘレーネを仕わせております。名目は身の回りの世話をするメイドですが、実際には友好国の貴族年鑑の閲覧を依頼しております。将来わたしが成人した時には彼らとお付き合いしていくわけですから、諸外国にどのような貴族がいるのかあらかじめ知っておく必要があると思いまして。それでどうか彼女の便宜を図ってほしいのです。お願いできますか」
「わかりました、7歳の女の子が今回の特使一行に含まれていたので、何かの間違いかと思っていたのですが、そのような目論見があったのですか」
「でもこれはまり知られたくないことなので、どうかあまり大げさにならないようにお願いします」
「わかりました。皇女殿下の意に沿うように最善を尽くします」
「ありがとう。よい結果を期待しています」
こうして、特使一行は旅立っていった。
皇女殿下は今回ヘレーネが旅立つにあたって、一つの秘策を用意した。それは強力な魔力結晶を渡したのである。この結晶は周りに強力な魔力界作る。普段は、その魔力界が外に漏れないように包蔵容器に入れられているのであるがふたを開ければ魔力が漏れて、遠くからでもその位置を認識できるのである。
そして、皇女殿下はヘレーネにもし、転生者を見つけたら、包蔵容器のふたを開けるように指示したのである。もう転生者を見つけたら転移で駆けつける気満々である。ただし、ふたを開けるのは周囲に人のいないときで1日1回とすることにした。絶えず開けていると魔力感知に優れた人間に見つかってしまう可能性があるからである。
帝国は広い、出発しても最初の2週間ほどは帝国内である。延々と馬車の旅が続く、護衛の騎士が随伴しており、また途中からはその地方を預かる貴族の領軍も付くため、安全面では文句なしである。そう安全という点においては最大面の配慮がなされている。しかし、帝国も周辺部まで来ると道が悪い。いくら馬車が最高級品といってもお尻が痛くなる。すると、おしりを浮かしたり、斜めになってみたり、横になってみたりと、姿勢を変えてみるが、効果が薄い。最後はあきらめの境地である。ただ時間が過ぎていくのを待つことになる。
馬車が女性事務官と一緒ということもあって、気がだらけてくる。そうしたら、馬車が揺れたはずみに魔力結晶を入れた包蔵容器のふたが外れた。あわてて、ふたを閉めたのだけど、遅かった。目の前に皇女殿下が転移してきた。
「どうしたヘレーネ、まだ隣国に行くには早いだろう」
「あのう、皇女殿下、後ろをご覧になって」
すると皇女殿下は後ろを見た。そして、アリーナと目が合うと
「これは幻。忘れて」
と言って皇女殿下は転移していった。
皇女殿下がいなくなるとアリーナが
「今皇女殿下がいましたよね」
これはとぼけるしかないと思い
「さあ、私は何も見ませんでしたが、夢でも見たのではありませんか」
「そんなはずはない。私はしっかり見た」
「それでは帰ってから皇女殿下に確認してください」
こういうのが精一杯であった。その後もアリーナはいろいろ聞いてきたが、私はタヌキ寝入りでごまかすことにした。
こうして、だらけた旅はやっと国境を越えて隣国に入った。隣国といっても最初は属国。することがない。ここでもやはりだらけた旅が続く。今度は包蔵容器のふたはしっかりと閉めることにした。




