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23、解明(後編)




「君の力、『時戻り』で間違いないね」

「……ええ」


 ジェイスの言葉に、マチルダは短く頷いた。


「問題はここからだ」


 彼の声がわずかに低くなる。


「君が戻る直前……衛兵に刺されてる。しかもただの剣じゃない。もっと古い、重い……紋章が見えたな。あれは何?」

「旧王家の紋章だと思う。何度か見たことがある。でもそれが、私の神力と関係あるの?」

「旧王家の剣か。本来、神力の発動に道具はいらない。しかし時空を歪め、時を戻すほど強力な力となると話は別だ」

 

 ジェイスは考え込む。

 

「おそらく、君の時戻りの発動条件はあの剣で斬られることなんだ。古代の方が神力持ちの数が多く、盛んだった。その頃に作られた剣じゃないかな。こうなると……思ったより物騒だ」

 

 そう言われてマチルダの脳裏に、ある記憶がよぎった。

 王宮の地下書庫――誰も立ち入らない奥で見つけた、古い神話の書物。


「【時の宝剣は王家の血にのみ耳を貸す。鍵は二つ。ひとつは王家の血、ひとつは時戻しの血。二つ揃わば、十年の年月遡る……】神話の一節は現実だったってことね」

「二つの血が揃うマチルダこそが、時戻りの鍵なんだろう。それで……その剣を持っている人に心当たりある?」

「いいえ……」

「旧王家は八百年も昔に滅んでいます。そんな代物を扱える人間などいないと思いますが」


 フェリシアンがそう口を挟む。


「よっぽど権力のある人間か、その分野に精通した人間だろうね」


 マチルダの心臓が跳ねる。


「例えば……王族とか」


 ジェイスの声に、マチルダは思い浮かぶ人物がいた。


「きっと……第二王妃か、レオニスよ。あの二人はリチャードお兄様を目の敵にしていたし、聖女の娘の私のことも邪魔だったはず」

「まあ、君の記憶を見るとその推測がもっともらしいね。これで繋がった」


 ジェイスがそう言って腕を組む。


「……本当は君の力で、僕も時を戻して欲しかったんだけど、この条件じゃ諦めるしかないな」

「え?」


 ジェイスは目を伏せて、ぽつりと呟く。

 

「……クーデターから生き残るために、たくさんの犠牲があった。だから君に戻して欲しかったんだ」


(だからこんなに協力的だったのね)

 

 マチルダは彼の行動に納得がいった。


「でも、もう大事な人は失いたくない。君は僕の初めてできた友達だ。そんなことはできないさ……悪いこと考えててごめんね」

「ううん。いいのよ……あなたのおかげで色々分かったし……」


 マチルダがそう言いかけたその時だった。


「……あー、でも、やっぱりキツいな」


 突然、ジェイスがよろめいた。

 

「ジェイス?」


 マチルダが一歩踏み出すと、彼は額に手を当てて座り込む。


「……大丈夫。ちょっと色々見すぎただけ」


 軽く言ってみせるが、顔色は明らかに悪い。


「力をたくさん使うと、反動が来るんだよね。慣れてるから問題ない」

「問題ない顔色ではありませんが」


 フェリシアンが冷静に言う。


「はは、手厳しいなぁ。昔はこうじゃなかったんだけど……最近はなかなかうまくいかなくってね」


 ジェイスは苦笑しながらもう一度立ち上がる。

 その動きは、先ほどまでよりも確実に重い。

 マチルダは困惑しながらジェイスを椅子に座らせる。


「医務室から人を呼んでくるわ。フェリシアン、彼をよろしくね」

「分かりました」

 

 二人のきっぱりとした声に、ジェイスは息を荒げながら、小さく肩をすくめた。

 

「……はは……大したことないのに」

 

 冗談めかした言葉だったが、止める気はないらしい。

 マチルダは小さく頷くと、そのまま談話室を出ていった。


 扉が閉まる。残された二人に会話はない。

 フェリシアンは無言のままジェイスに異変がないか見守った。


 ジェイスは椅子に深くもたれ、ゆっくりと呼吸を整えている。よほど気分が悪いのか、言葉も発しない。

 しかしやがて、ぽつりと声を上げた。


「マチルダは……よく君を許したね」


 荒い息をしながら、ジェイスは皮肉げな笑みを作る。

 フェリシアンは怪訝な顔つきで問いかけた。


「……どういう意味です?」

「はは……君は……以前の人生で……マチルダを守れなかっただけでなく、彼女を……孤独に……追いやったじゃないか」

「……は?」

「まったく……ひどい夫だった」


 ジェイスは嘲笑うかのようにそう呟き、じきにそっと目を閉じる。体力が尽きたのか、それ以上は何も言わない。

 

 フェリシアンは呆然としてその場に立ち尽くした。


 

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