↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンドロイドシープは夢をみる【全5章】  作者: Nova
χ:Cruel Cradle

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/55

8. Root

 カイはエレンと対峙していた。流れている穏やかな音楽が、一瞬で遠ざかっていくように感じられる。エレンはカイの言葉に目を丸くしながらも、沈黙以上の何かを返そうと、必死で思考をめぐらせているように見えていた。


「ど、どうしたの……。私の意思?」エレンはカイに聞き返す。

「そう。なんだけど、ごめん。順番を間違えたみたいだ。」カイはエレンを困惑させたことに気づき、今度はゆっくり考えを伝えようとする。

「えっと、僕、ハイン・リードと、友達なんだ。」知ってる?カイはエレンに問いかけた。


 エレンは一瞬目を泳がせたが、「えぇ。」とカイに返答した。


「もちろん、知ってるわ。あ、友達ってところじゃなくて……、『ハイン・リード』の方。」エレンは少し肩を落とした。

「私の弟って、言いたいんだよね?」

「そう、だと思ってるけど、違ったらごめん。」カイはリンク・スフィアを操作して、ハインの写真を共有した。


 それは、三角都市記念式典の会場前で、記者に撮られたものだった。あの時は、少し面倒なことになったなと思うだけだったが、改めて見返してみるといい写真だった。3人はアストライア・グランド・ホールを眺めていて、何かを話しながら笑い合っている。いつもよりも上等な服を身に纏っているものの、それはいつもの自分たちの姿に他ならない。


 あの後記事にされたことで社内の事後対応は少し増えたようだったが、撮影者の腕はいいようだ。その上、普段写真を取らない自分にとっては、3人で映ったただ1枚の画像であった。


「あ、それ、いい写真ね。……弟のこんな顔、初めて見たな。」エレンは軽く微笑んでため息をついた。

「え?ハインはずっと、あんな感じだと思ってた。」カイは少しだけ驚いている。


 ハインは友達が少ないと言っていたことを覚えているが、でも彼自身は人に好かれるタイプなんだと思っていた。少し気を使いすぎる節はあるようだったが、それもまた魅力なんだと考えている。


「そう……、うん。確かにずっとあんな感じだ。人に気を使って、いつも場を和ませようとしてくれるんだ。……自分を雑に扱ってでもね。」エレンは歯痒そうにそう言った。


「でも、あなたはそんな弟を、友達だって、言ってくれるんだね。」エレンの言葉に、カイはハッとした。

「そう、だね。友達。」自分が彼を、そんな風に認識していたことに、今更気づいた。


 まだ付き合いは浅いものの、ソレアやジェイ以外で付き合いの多い人間は、カイにはそう多くはない。


「そっか、それはいいことを聞いたな。」

「でも、ハインにはまだ、悩みがあるんだ。」

「え?」カイはエレンを、真っ直ぐに見つめる。


「ハインは、あなたが眠り続けていることを心配しています。……目覚めたくない理由はあるかもしれないし、僕はそれを否定しようとは思わない。でも、もし言葉があるならば、彼に伝えた方が、いいかもしれない。」カイの言葉に、エレンは考え込むようにまた少し黙った。


 いつの間にか曲調が変わり、腕に抱えたアルファは身じろぎもせずに大人しくしている。カイがエレンと話している時は見守ることにしているのか、シーラも特に何も言ってこなかった。


「ねぇ、私が目覚めるって言ったら、目覚められるの?」

「え?」

「普通にログアウトすれば、目が覚めるのかな。」エレンはカイをじっと見つめた。


「分からない。ちょっと、聞いてみるね。」

「え?」首を傾げるエレンを前に、カイはシーラに呼びかけた。

「ねぇシーラ、エレンさんはログアウトすれば目が覚めるのかな。どう思う?」しばらくすると、シーラが答えた。


 ―いいえ、その可能性は低いです。


「あぁ、やっぱりそうなんだ。」シーラの言葉に、カイは納得したように頷いた。

「え?シーラ?ほんとに?」エレンは、少し驚いている。

「うん、僕がここまで来れたのも、シーラの力を借りたからなんだ。」カイは素直にそう言った。

「で、シーラ、難しいって、どういうこと?」


 ―はい、ここのネットワークは非常に不安定です。ただいる分には問題ありませんが、正常ではない位相とネットワークでログアウトしても、正規のシステムで戻れる保証がありません。


「僕の時は?僕は昏睡状態からでも、戻れたんだけど。」カイの言葉に、シーラは少し間を置いて話した。


 ―あなたの時は、アルファに私とのリンクが仕込まれていたから上手くいっただけです。他のシープにも仕込まれてはいますが、アルファほどではないでしょう。私が直接操作できるあなたの端末とも、訳が違います。


 少しゾッとするような話だが、シーラの説明は確からしいとカイは思った。


「じゃあ、どうすればいい?」


 ―はい、エレン・リードが戻りたいなら、あなたが一緒に引き上げればいいだけです。


「ほんとに?じゃあ今帰れる?」


 ―いいえ。


 カイとシーラのやりとりを、エレンはずっと固唾を飲んで見守っている。


 ―やるならば準備が必要ですから、次回以降でなくてはいけません。ですが、準備をすれば、必ずやれます。すでにここ周辺の情報は、マップに記録済みです。次は一度でここへ来れます。


「よかった。ねぇエレン、それでいいかな?」カイの問いかけに、エレンはこくりと頷いた。

「いいよ、それで。でもハインには先に、伝えてくれる?」

「うん、もちろん。」カイはエレンの想いを受け取った。


 ―カイ、リミットです。急ぎましょう。


「あ、わかった。ごめん、実は結構急いでるんだ。……また今度、近いうちに。」カイがエレンにそう言うと、エレンはニコリと微笑んだ。

「うん、ありがとう。」その晴れやかな笑みを最後に見ながら、カイの意識はぷつりと切れた。


 ―カイ、起きてください。


 ―起きて、カイ。


 少し心配そうなシーラの声に、カイは再び目を覚ます。目を開けたところで見えるのは、パーソナル・スペースの真っ白い空間と、彼を覗き込むシーラの姿だ。


「あ、シーラ。」


 ―キュキュ〜!


 ―よかった、カイ。無事に、引き上げられたようですね。


 まだ腕の中に抱えられていたアルファの声と、安心したようなシーラの声にほっとする。そんなことを思いながらも、カイは即座に為すべきことを思い出す。


「あっ、ハインに連絡しないと。」カイはリンク・スフィアでチャットアプリを開こうとするも、それをシーラが止めた。

「え、どうしたの?」目を丸くするカイに対して、シーラは真剣な面持ちでこう答える。


 ―あなたのお友達は今、ネオステラ・タワーに侵入しています。


 その言葉は、カイにとって衝撃だった。侵入?ただ、訪問しているだけじゃなくて?そんな疑問が頭を巡るも、どうしてか言葉にはならなかった。それでもカイの表情からある程度言いたいことを察したのか、シーラはカイにこう言った。


 ―侵入です。正規のルートではありません。彼は我々の敵となりました。


 シーラの顔は少しだけ悲しそうに見えた。


 ―ですが、今ならまだ間に合います。止めることはすでに不可能ですが、結末を変えることぐらいはできるでしょう。


 カイを安心させるかのように、シーラはわずかに微笑んだ。


 ―行きますか?カイ。


「もちろん。……ハインに伝えなきゃ。いろんなことが変わるかもしれないって。あとエレンさんの意思も!」カイの言葉を聞いて、シーラは心底誇らしそうに微笑んだ。


 ―私はあなたに、そう思えるような友達ができたことを、嬉しく思います。


 さぁ、行きましょう、というシーラの言葉に促され、カイはバーチャル・ワールドからログアウトした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。