↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンドロイドシープは夢をみる【全5章】  作者: Nova
θ:Thunderous Silence

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/55

9. 彷徨える羊たち

 そこはいつもの噴水広場だった。ワールド遷移時に表示されるホログラム看板はすでに消え、ハインの目の前には広場に行き交う人々の姿が見えている。いつもなら、ソレアやカイに会うためにくる場所なので、ワールドは夜空になっているのだが、今回は昼間に訪れているので昼の青空になっていた。


 ハインは高く透き通るような空を見上げ、少しの間ぼーっとしていた。フルダイブ型が当たり前になったのはいつだっただろう。ネオステラ社のシープリンクデバイスや、ポッド型睡眠管理デバイスが普及したのは、ここ10年くらいの間のはずだ。今やバーチャル・ワールドへの接続において、バーチャル・スリープとの併用が主流になったのも同じぐらいだろう、とハインは思う。


 姉のエレンは大学卒業後に、ホワイト企業と名高い有名な企業に就職を決めた。両親ともにベガの中小勤めであったため、エレンは文字通り『スクラップから新品が出た』と持て囃された。それが両親ともに誇りだったのだろうとその当時は思っていたし、ハイン自身も姉のことが誇らしかった。だが、当のエレンはどうだっただろう。


 ハインはリンク・スフィアを操作してウィンドウを立ち上げ、リンク・ノートを開いて先ほどセーブしたエレンのアドレスを確認する。エレンのアドレスの横には緑色のランプがついていた。つまり、オンラインだ。


 この状態で、バーチャル・ワールドの内部からならエレンの元へ直接行ける。仕様通りならそうなるはずだ。ハインは乾いた口内を潤すために、唇を舐めた。唇は知らぬ間にガサついている。


「はぁ……。」ハインはどこか落ち着かない気持ちを感じながらも、やるしかないなとため息をついた。


 立ち上がったままのリンク・ノートに指を向け、エレンのアドレスをタップする。さらに詳細が出てきて、『ユーザの位置にワープする』の選択肢があることを確認した。ハインはやっと口内に沸いた唾をぐっと飲み込むと、その選択肢をタップした。


『ユーザの位置にワープします。

 しばらくお待ちください。』


 メッセージポップアップと、インジケータが表示され、プログレス・バーが少しずつゆっくりと進捗を刻んでいく。いつも通りの時間のはずだが、今回はやけに長いようにハインは思った。あともう少しで100%に到達するかと思われたところで、プログレス・バーの進行が止まる。


 ―ピロン


『   接続先を特定できません。

     現在このユーザは、

 バーチャル・ワールドに存在しません。』


「え?」唐突に表示されたメッセージ・ポップアップの内容に、ハインは思わず驚きの声をあげた。

「どういうことだ?」ハインは進行をキャンセルで取り消してポップアップを消し、再度エレンのアドレスから『ユーザの位置へワープ』を試した。


 ―ピロン


『   接続先を特定できません。

     現在このユーザは、

 バーチャル・ワールドに存在しません。』


「はぁ?」2回目の実行も弾かれてしまい、ハインはやや苛立ちのこもった声を出す。

「なんでだよ……。」その焦りも混じったような声音に、近くのユーザがチラリとハインに目をやった。

「もう一回だ。」ハインはエレンのアドレスがオンラインになっていることを確認し、再びワープを実行する。


 ―ピロン


『   接続先を特定できません。

     現在このユーザは、

 バーチャル・ワールドに存在しません。』


「くっそ……、ダメかよ……!」しかし3度目の実行も失敗に終わり、ハインは噴水の縁にしゃがみ込んだ。

「まじかよ……。」ハインは大きくため息をつく。


 探せない、とは聞いていた。しかしまさか、システム・エラーで弾かれるとは。想像もできなかった展開に、ハインは地面に吸い込まれるような絶望を感じた。


「くっそ、どうすれば……。」アドレスからワープできないとなれば、直接彼女のいる場所に向かうのは難易度が高いな、とハインは思った。


 ハインはしばらくその場に止まっていた。システム上のショートカットは事実上不可。ならば、あとは足で探せるかどうかだろう。そこまで考えて、ハインは「あっ。」と何かに気づいたように声を上げる。


「マップ上に、表示されるはず!」そういえば忘れていたな、とハインは思った。


 バーチャル・ワールド上では、リンク・ノートに登録されているユーザならば、マップにユーザ位置が表示される仕様になっている。なら、ハインが登録しているエレンの位置も、オンラインならば表示されていないとおかしい。ハインは早速バーチャル・ワールドの全体マップを展開すると、システムにより登録済みのユーザの位置を表示させてみることにした。


「……よし!」ハインの目の前のマップには、2つの緑色の丸が同じ場所に表示されていた。


 ほとんど重なり合うように表示されている2つの丸を見て、ハインは思わず顔をしかめる。なんだか落ち着かない気分になって、その丸のあるあたりを拡大し、タップしてユーザの名前を確かめる。1つは『Ellen』、そしてもう一つは『χ(カイ)』。


「どういうことだ?」ハインはその2つの表示を見ながら、思わず考え込んでいた。


 エレンがマップ上には存在している。少なくともそれはハインにとってはいいことだった。しかし、そこにどうしてカイの表示があるのだろう。ハインははやる気持ちを押さえ込むようにして立ち上がり、マップ上の2人の位置を確認する。


『カフェ・リード』


 とても短くありふれたその店の名前に、ハインはじんわりと目頭が熱くなるのを感じてしまう。


「エレン……。」


 エレンはそこにいる。カイと一緒に。そのことが何を意味するのかはわからなかったが、なんの手がかりもないよりマシだ、とハインは思った。そのままぐっと足に力を入れて立ち上がり、ハインは大きく深呼吸をした。難しいことはどうでもいい。まずは2人に会って話をしないと。そうしてハインはマップ上のカフェをタップして、『ワープする』という選択肢を実行した。


 ―ピロン


『アクセスポイントが存在しません。』


「なんでだよ!!」またもやシステムに弾かれてしまった。


 ハインはうっかり大きな声を出してしまったことを恥ずかしく思いつつ、ひとまず近くにある別のアクセスポイントまで飛ぶことにした。


 ―シュン


 小さめのSE(効果音)とともにハインは移動し、目的地にほど近いファストフードショップの前に到着した。


「はぁ……、よかった。」普通、ワープというのは一瞬で終わる。


 別のアクセスポイントまで来れたということは、システムが壊れたわけではないらしい。再びはやる気持ちを堪えつつ、ハインは目と鼻の先にあるはずのカフェ・リードへと向かって歩く。しかし、目的地と思われる場所には、残念ながら何もなかった。正確には、行き止まりにつながる路地だけがあって、それ以外には何もない。


「……。」さすがのハインも、5度目となると声が出ない。


 1~3度目はユーザの元へワープできず、4度目はアクセスポイントが見つからず、5度目はその目的地自体が存在しない。ハインは路地の壁に体をもたれて項垂れた。なるほど、探せないとはこういうことか。


 カイラの言葉が嫌な形で立証されてしまったことで、込み上げてくる吐き気をどうにかハインは抑えた。ぐっと酸っぱい唾を飲み下しながら、ハインは鳩尾あたりを軽くさすった。気分が悪い。しかし、思わずへたり込んでしまったハインのもとに、2人の人影が現れた。


「あら……、やっとここまでたどり着いたの?」聞き覚えのあるその声は、ニタニタと笑うカイラのものだった。

「よぉ、ハイン。気分はどうだ?」隣に立っているステファンが、同じようにニタニタと笑っている。


 どう見ても平気そうに見えないだろうハインのことを、2人は見下ろしながら笑っているのだ。


「……あぁ、大丈夫だぜ。」正直に話してしまうのはどうにも気が乗らなかったハインは、当然のように誤魔化した。

「ふん、全然そんな風には、見えないけどね?」首を傾げながらカイラが笑う。

「わかってんなら茶化すんじゃねぇよ。」ハインは牙を向くようにそう言うと、しっかり立ち上がり2人の方へと体を向けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。