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TS聖女様は絶望顔が大好きです〜趣味で悪役貴族を可愛がっていただけなのに、なぜか民衆からの評判が良くなっていくんだけど!?〜  作者: 早野冬哉


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20.コネルの最後

 なぜだ……なぜおれがこんな目に……。


 おれ──コネルはキングスレイオークに握りつぶされ吐血する中、霞む視界の中にクレナの姿を捉えた。


 ……おまえさえ……おまえさえ生まれてこなければおれの楽園は壊れなかったはずなんだ!


 おれの中で死への恐怖は憎悪に変わる。身体中の痛みを忘れてクレナを睨む。


「おまえだけは、おまえだけは絶対に許さないぞクレナッ……! この世界はおれのッ! おれのためだけの楽園だッ! おれの才能を否定したおまえは思いつく限りの苦痛を与えて殺──ガフッ……!?」


「兄上……っ!」


 キングスレイオークがおれを地面に叩きつける。おれの体は三度地面をバウンドした。全身の骨が折れロクな受け身も取れなかったおれは、三度の馬にはねられたような衝撃に内臓を打たれ、いくつかの内臓をだめにされた。


 腕が上がらない。指先すらも動かせない。それでもおれはギシギシと奥歯を噛みしめ眼球を動かし、クレナを睨む。


 おれは悪くない! おれは生まれながらの天才だ! 努力なんて必要なかった。そんなことをしなくても周りの者は皆おれを褒め称え、つくした。


 おまえが平民にふさわしい泥臭い努力をしたせいで……おれの方がおまえより才能があるにもかかわらず、おまえがおれから楽園を奪ったんだ!


「コネル。おまえに期待した私が愚かだった」


「はっ……? 父、上?」


 突如、おれの視界に父──ソルダーツ公爵の姿が映る。父上だけではない。おれに恐れをなし、いつもビクビクとおれを称えていた従者たち、それに今はそれぞれの団で王国騎士団長を務めている兄上たちがおれを見下し、口々に罵倒する。


「コネル様ってねぇ? 身勝手でだらしないわよねぇ」


「昔『神童』って言われてたんでしょう? 過去の栄光にすがってみっともないわよね」


 ……っ! うるさい消えろッ!


 喉が潰れて声が出ないため、心の中で叫ぶ。するとメイドや執事たちは鏡のように無機質な目でおれを軽蔑し、去っていく。彼らの目に映った憎悪の鬼とも呼ぶべき醜い形相が自分の顔だと気付いたのは、彼らが去った後だった。


「才能にあぐらをかいて努力を怠った者の末路とはなんとも醜い。コネル、本当の一族の恥はクレナではなくおまえだ」


 おれが、クレナよりも下? 兄上方までおれを否定するのか……?


 三人の兄はおれの頭を取り囲み、羽虫でも見るかのような目で見下してくる。三人が放つ、AAAランクの魔物ごとき目ではない程の圧力に、おれは今まで目を逸らしていた疑問を脳裏に浮かべた。浮かべてしまった。


「おれの才能は、クレナに遠く及ばないちっぽけなものではないのか? だが、クレナと同等、もしくはそれ以上に努力を重ねていればおれも王国騎士団長になれたのではないか? 才能に溺れ怠惰に暮らしていたことが間違いだったのではないか?」


 三人の兄上が消え、眼前に現れた自分自身の幻影がそう問いかけてくる。だがおれはそれを認めるわけにはいかない。


 その言葉を認めてしまえば、おれの生きてきた二十三年間全てが過ちだったことになる。おれの人生は全くの無意味だったなんて受け入れられるわけがない!


 消えろッ! 消えろッ! 消えろッ! 消えろッ! おれは天才なんだッ! おれに努力なんて必要ない! 天才であるおれが認められないなんて、この世界は間違っている……ッ!


 するとおれ自身の幻影は消え、おれの目は聖女フラウを映した──違法薬物を使用したかのような蕩け顔をし、人の絶望に嗤う悪魔のような表情をしたフラウを。


 ヒッ……!


 途端に、全身から冷や汗が噴き出す。おれはこの時、生まれて初めて本当の恐怖を味わったんだと思う。


 徐にフラウが指を振り下ろす。ドスンという重い音がして、おれの視界はキングスレイオークの足で塞がれた。


 ハハ……これが死か……。


 おれは、確定した己の死に笑うしかなかった。振り上げられた棍棒の影が全身を覆うように落ち、目を閉じる。


「兄上……っ!」


 クレナはおれを助けるか否かと迷ったらしい。でなければ、クレナの足でキングスレイオークに追いつけないはずがない。


 クレナは愛想がなく、剣と魔術の鍛錬ばかり。どれだけおれが嫌がらせをしようと自分の感情ではなく正義感で動き続ける。


 ずっと人形みたいな奴だと思っていたが、クレナにも人間らしいところがあったのだな……。


 なんて柄でもない感傷に浸りながら、おれの人生は幕を閉じた。


***


 キングスレイオークの手によってコネルが潰された後、クレナは難なくキングスレイオークを一刀両断した。


「兄上……」


 クレナは兄の遺体を前に声を漏らす。クレナは兄の死を悲しんでいるというより、迷わず人の命を救いに行けなかった自分自身に戸惑っているようだった。対してフラウは──。


(光属性の幻影魔術って使えるなー! アレンジして本人が無自覚に気付き無自覚に見ないようにしている事実を突きつける効果を持たせてみたが……いい絶望顔を見られたなァ……)


 クレナと合流し、表面上は聖女の笑みを浮かべていたフラウ。後ろから彼女をジト目で見つめるラスティ。勝利の余韻に浸る彼女たちを遠視の水晶越しに見つめる男がいた。


「コネルは失敗したか。やはりAAAランクの魔物程度では聖女の一団を害することは不可能……となれば、からめ手を使うしかないか」


 彼はいくつか道具を手に取り、水晶に噛みつく牙の紋章を揺らして歩き出す。そして洞穴の隠し扉を外へと抜けた。


 ──次の瞬間、彼は驚愕に目を見開いた。


「こんなところで何をしておられるのですか? ドワース様?」


 彼──ドワースの目の前に、突如として聖女フラウが姿を現したのだった。

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