19.コネル討伐
「兄上! なぜフラウ様の儀式の邪魔をするんだ。これはツヴェリアの民を守護するための戦いなのだぞ!」
「うるさいッ!」
コネルがクレナに斬りかかり、鍔迫り合いにもつれ込む。
だが、鍔迫り合いの勝敗には技量差がはっきりと出る。つまりクレナが優勢。クレナに押し込まれそうになったコネルは剣の反発を使って大きく後ろに跳んだ。
「クソが……! 昔っからおまえのそう言うところがウザいんだよ。国とか領地とか平民とかどうでもいい。おれは目障りなおまえを殺しにきたんだクレナッ!!」
剣を振り回し叫ぶコネル。彼は懐から紫色の液体が入った試験管を取り出し、液体を喉に流し込んだ。
「……っ!? なんだ? 兄上の魔力が、増大している……?」
「ハハッ! それだけではないぞ?」
コネルは高笑いを浮かべ剣を構える。すると、コネルの剣が炎に包まれていった。
「エンチャント……? 兄上は魔術エンチャントを習得していたのか」
「いいやぁ? おれは魔術エンチャントを習得していなかったぞ──ついさっきまではなぁ!」
狂気に目を歪ませクレナに斬りかかるコネル。対してクレナは、火属性の魔術エンチャントを施した剣でコネルの剣を受け流す。
「つまり先程の紫の溶液には、使用者の魔力を増大させ魔術エンチャントを習得させる力があるのだな」
「クレナあぁぁ! その澄ました顔をグチャグチャニしてやるよおぉぉぉ!」
コネルは叫び、剣を無茶苦茶に振り回す。無作為に炎をばら撒き、地面を砕きながらクレナに突進する。
「聞こえていないか……堕ちてしまったのだな、兄上」
クレナは一度目を閉じ、一応は家族であるコネルに対し、凶悪犯罪者に向ける目を向けた。
「はッ……!」
クレナはコネルの斬撃を掻い潜り、コネルの腹目掛けて横薙ぎに剣を振り抜く。
「終わりだ。兄上」
完璧なタイミングだった。防御も回避も間に合わないはずだった。だが──。
「なっ!?」
コネルの腹に剣が届く直前、クレナの剣は弾き飛ばされた。
ファイアウォール──本来ならば魔術エンチャントした武器を防ぐことなど到底不可能なその魔術によって、クレナの剣は弾かれたのだ。
(……っそうか。溶液によって増大した魔力を使ってファイアウォールの強度を上げたのか……!)
クレナが怯んだ一瞬の隙に、コネルは頭上に剣を掲げる。
「残念だったなァクレナ!」
嫉妬に歪んだ笑みを浮かべ、コネルが剣を振り下ろす。体制を崩したクレナがコネルの剣から逃れるすべはない。
「……っフラウ様。役目を全うできずにすまない」
クレナが目を閉じ死を覚悟した──その瞬間。
「グボッ……っ!?」
巨大な赤黒い拳が、コネルの横っ面を殴り飛ばした。
***
少し前──儀式中。コネルが降ってくるのを見て、俺は口角を吊り上げた。
コネルがクレナを殺そうとしてるのか!? よし。これでコネルを絶望させられる! さっさと儀式終わらせて、兄を絶望させないとなァ。
そう思って儀式を急いで終わらせた俺はしかし、一つ困った問題があることを思い出す。
あー、クレナの目があるのか……コネルはクレナ目当てだ。二人を分断できるとも思えないし、認識阻害の魔道具を使おうにも、ここだと起動時にクレナの視界に入ってしまう。
俺は顎に手を当て、何か使えるものはないかと室内を見回す。
おっ……あれ使えそうだな。
俺は、ラスティが倒そうとしているキングスレイオークに目をつけた。
「ラスティストップ」
そうして俺はラスティを止め、キングスレイオークに隷属魔術を行使する。
隷属魔術──闇属性の初級魔術だ。俺の属性適性は光だが、この世界では適性がなくとも初級魔術なら全属性行使可能なのだ。
ま、性能は適性持った奴には劣るが、聖女の魔力量でカバーすれば、AAAランクの魔物だろうと隷属できる。
俺は残り全ての魔力を注ぎ込む。すると、キングスレイオークの首にゴツい鉄の首輪がついた。同時に、ラスティによって破壊された関節も治癒しておいた。
「ワタシが苦労して倒した魔物を易々と……相変わらず腹の立つ人ですね」
よし。これで準備完了だ。後はこいつをコネルにぶつけるだけ。味方だったはずの魔物に攻撃された時、コネルらどんな顔を見せてくれるかなァ……。
俺はラスティの毒舌に目もくれず、魔物に指示を出す。
「コネルを攻撃しろ」
そうしてキングスレイオークの拳は、コネルの頬に突き刺さった。
「グボッ……っ!?」
「……っ!? 何が……?」
目を見開き、一瞬動きを止めるクレナ。対してキングスレイオークは、部屋の反対側の壁にめり込んだコネルを追う。
「グオォォオオォッ!」
咆哮し、コネルに向かって棍棒を振り下ろすキングスレイオーク。赤雷を纏い、地面を抉りながら進む衝撃波がコネルを捉える──その直前。
「舐めるなあぁぁあああぁッ!」
頭と口から血を流したコネルは立ち上がり、炎を纏った剣で衝撃波を相殺した。
だがその時、クレナはすでにコネルの背後に回り込んでいた。
「終わりだ兄上。兄上もソルダーツ公爵家の者ならば、潔く罪を償うといい」
「妾のおまえが言うなッ!」
そう叫ぶコネルはしかし、衝撃波を払った大振りな攻撃直後だったために、クレナよりも一瞬動き出しが遅れた。その一瞬の遅れが、勝敗を決めた。
「フレイムランスッ!」
「ガハッ……!」
クレナは手刀に炎の槍を纏わせ、コネルの腹を貫いた。
コネルは剣を手放し、地面に崩れ落ちる。クレナが手加減したのか、コネルの傷は致命傷にはなっていない。とはいえ当分まともに動けないだろうが。
よし。勝負はついたな……これでクレナの因縁にも片がついただろ。
──これでもう、コネルは俺のおもちゃにしていいよなァ!
俺は口元を歪め、キングスレイオークに指示を出す。するとキングスレイオークはコネルを鷲掴みにした。
「……っ!? 何を……!」
クレナが驚くのをよそに、キングスレイオークはコネルを握る手に力を込める。
「ぐあぁぁああぁッ!!」
ボキボキと骨が軋み、折れる音を立てるコネルが叫ぶ。彼はキングスレイオークの赤い双眸に睨まれ、恐怖に目を見開く。それを見て俺は、一層頬を吊り上げる。
さァ、おまえの絶望を見せてくれ!
ちなみに、隣にいたラスティは俺の顔を見て、
「ハァ……この悪魔が聖女とは……クレナ様にバレますよ?」
と呟いていたらしい。コネルをどう料理しようかと夢中になっていた俺は、そのことに気付かなかった。




