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TS聖女様は絶望顔が大好きです〜趣味で悪役貴族を可愛がっていただけなのに、なぜか民衆からの評判が良くなっていくんだけど!?〜  作者: 早野冬哉


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18.儀式開始と乱入者

 ワタシ──ラスティとフラウ、クレナの三人はゲブレ遺跡に入った。


 先行していた騎士、兵士たちの協力もあり、ワタシたちは魔物であふれかえる遺跡内を難なく進み、制御魔法陣のある儀式場に到着した。そこは貴族の屋敷の庭くらい広く、塔の中にいると錯覚するほど天井の高い、円形の部屋だった。


「では、儀式を始めます」


 フラウは魔法陣の中心に杖を突き立て、目を閉じた。するとすぐに魔法陣は銀色に輝きだし、フラウからは金色の魔力が立ち昇る。


「ラスティ殿。フラウ様の儀式が終わるまで何としてもフラウ様を守りぬくぞ!」


「はい」


 そう。ワタシとクレナの役目は、魔力流の調律儀式を邪魔させないこと。とはいえ、遺跡内の魔物はあらかた兵士たちが倒しているため、大した仕事はないように思えるが──。


 北門へ向かう馬車の中で、フラウ様が玩具を買いに行く子どものように目をキラキラさせていましたね……。


 無駄にキレる頭脳を持ち、人をいたぶることに目がないフラウ様がここに来ることを楽しみにしていた。ということは、ツヴェリアで発生した一連の異常事態の原因には何者かが絡んでいるのでしょう。


 公爵様の見解によると一連の異常事態は魔力流によるもの。もし黒幕なる者が存在するとするならば、まず間違いなく儀式を阻止しに来るでしょう。


 ワタシはスカートの下から短剣を取り出し、両手に一本ずつ構えた──次の瞬間。


 ガッシャァァァン! という崩壊音とともに天井から光が差し込んだ。


「なんだ!?」


 クレナが天井を見上げる。敵襲があると警戒していたワタシはクレナより一瞬早く反応し、跳躍した。フラウに向かって瓦礫が落下していたからだ。さらに、一つの人影が瓦礫に紛れて降ってきていた。


 ワタシは空中で身を捩り、フラウの頭上に降り注ぐ瓦礫を斬り刻む。瓦礫に紛れていた人影はワタシの斬撃をかわし、クレナの前へと着地した。その人物とは──。


「兄上……なぜ……」


 クレナに剣を向けたのは、クレナの兄コネルだった。


 遅れてワタシも着地し、クレナの援護に向かおうと重心を傾ける。が、ワタシとクレナの間に立ちはだかるように二つの巨大な影が降ってきた。


「……っ!」


 咄嗟に手をかざし、巻き上がる粉塵から目を守る。


「……アイスサラマンダーとキングスレイオーク、ですか。どちらもAAAランクの魔物ですね」


 粉塵が晴れ姿を現したのは、氷のウロコを持ち、簡単に人を凍らせる冷気を吐くアイスサラマンダー。隣には、全身が黒く、殺意に赤い瞳を揺らす。赤黒い王冠を被り、ワタシの倍以上の身長と人間大の棍棒を持つキングスレイオークがいた。


 AAAランク──Sランク冒険者もしくは騎士団長クラスが二人以上は必要な相手だ。


「それを二体同時に相手しなければならないということですか……フラウ様でしたら意図も簡単にやってのけるのでしょうね。倒した後につまらなさそうな顔をする姿が目に浮かびます。本当に性格悪いですね」


 クレナ様は……どうやらコネル様の相手で手一杯のようですね。


 部屋の反対側で斬り合うクレナとコネルを見て、ワタシは二人から二体の魔物へと視線を戻す。直後──。


「フゴオオォォォオオォ」


 アイスサラマンダーが白いブレスを吐く。ブレスが触れた瓦礫は一瞬で凍り付く。


 ワタシは咄嗟に後ろに飛ぶ。と同時に、キングスレイオークが棍棒を頭上に掲げた。


「……っ」


 ワタシは着地と同時に横へ飛ぶ。ワタシは明らかに棍棒の射程外にいたが、長年の暗殺者としての直感が回避を選んだ。


「グオォォォオオォッ!!」


 次の瞬間、咆哮とともに振り下ろされる棍棒。その衝撃は赤雷を纏い、ワタシの右足を掠めて一直線に壁まで破壊する。


「……っ!」


 掠りましたか。右足は痺れてしばらく使い物にならないでしょうね。


 ワタシは魔物から距離を取って着地する。右足の感覚はなく、ビリビリとした変な感触が伝わってくる。


 幸い、どちらの魔物もスピードは大したことないですね。ですがアイスサラマンダーは常に自分の半径三メートル以内を冷気で覆っています。あの中に飛び込めば、ワタシは一瞬で肺まで凍り付けでしょう。


 キングスレイオークの攻撃は距離を保っていればかわすのは容易です。しかし近距離で薙ぎ払いでもされれば回避するのは難しい。あの攻撃、まともに受けた場合はまず間違いなく即死でしょうね。


「ですが……」


 ワタシは、膨大な魔力を操り儀式を進めるフラウを横目に見て、ベオン王子を絶望させた時のフラウの言葉を思い返す。


『誰にも負けない力を身に着け、正体を隠すための魔道具を手に入れ、猫を被ることだって覚えた。この世界は、努力次第でいくらでも自由に生きられるぞ?』


「暗殺者を辞め、普通の女の子として暮らす。そのためには力が必要。こんなところで手こずっていては自由は手に入らない……そうですよね?」


 ワタシはフラウ様と出会うまで裏の世界で生きてきた。その呪縛からは簡単に逃れられない。だからこそ、ワタシには圧倒的な力がいる。


 二体の魔物が、儀式を行うフラウに気付き向きを変える。ワタシは右足を踏みしめ、走ることだけなら可能だと確認する。


 自分自身だけではなく、これから作るであろう大事な人たちをも守れるだけの力が必要なのです。ここでフラウ様一人守れずにどうするのですか。


 ワタシは二本の短剣を投げ、魔物に向かって走り出す。


「ギャオッ!?」


「グオッ!?」


 一本目の短剣はアイスサラマンダーの眼球に突き刺さり、もう一本はキングスレイオークの左足首を貫いた。


 だが二体の魔物が怯んだのは一瞬──すぐさま奴らの殺意がワタシに向く。


「ギャッ?」


 だが、ワタシはすでにキングスレイオークに肉薄していた。姿勢を低く足元に入り込み、両足のアキレス腱を斬り裂いた。


「グオォォッ!?」


 地面を震わせ両膝をつくキングスレイオーク。ワタシがキングスレイオークの正面方向にバックステップすると、キングスレイオークは両膝を付いたまま、棍棒を腰だめに構えた。


 想定通りの動き、助かります。


 予期していた動きだ。横薙ぎによる広範囲攻撃は厄介だが、わかっていれば避けるのは容易い。ワタシは風属性魔術──ウインドバーストを足裏に発動させ、風を切る勢いでキングスレイオークの背後に回り込んだ。


「グオォォォオオォッ!!」


 一歩遅れてキングスレイオークの赤雷付きの横薙ぎが炸裂する。ワタシがアイスサラマンダーのいる方向に打つよう誘導した横薙ぎが。


「ギッ……ギャオォォォオオォッ!!」


 降り注ぐ赤雷と、全てを灰燼に帰す衝撃波。それらはアイスサラマンダーを飲み込み、儀式部屋の四分の一を消し飛ばした。


 粉塵が巻き上がり肉の焼ける匂いが漂う跡地には、アイスサラマンダーの死体は欠片も残っていなかった。


「隙だらけです」


 ワタシは、横薙ぎを放ったキングスレイオークに追撃する。


 キングスレイオークの黒い皮膚は恐ろしく硬いですから、まずは柔らかい関節から確実に壊し、動きを封じましょう。


 ワタシは手首、肘、目、肘、肩、手首、肩、両膝と、フェイントを混ぜつつ高速移動し破壊する。


 そして最後に喉を掻き切ろうと跳び上がり、短剣を振る──。


「ラスティストップ」


 短剣を振るう直前でフラウに肩を叩かれた。ワタシは短剣を止め、フラウと一緒にキングスレイオークの背中を蹴って地面に着地する。


「お疲れラスティ。儀式の間俺を守ってくれてありがとな」


 そう言ってフラウは、赤雷に打たれて火傷したワタシの足に治癒魔術をかける。途端に、右足だけ足湯に入っているかのような温かさと心地よさに包まれた。


「いえ。フラウ様こそ儀式お疲れ様です。……それよりなぜ、キングスレイオークへのとどめを拒否するんですか?」


「あー、それはねぇ。あれだ」


 フラウはニヤリと悪魔的に微笑む。その視線の先には、クレナと戦うコネルの姿があった。


「ハァ……また何かろくでもないことを考えているのですね」


 しかしまあ、フラウ様のそのお顔を見ていても悪い気はしませんね。……ワタシも早く、あなたのように心の底から笑えるようになりたいものです。


「…………」


 ところで、普通の女の子としての大事な人──友達に、フラウ様を数えてもいいのでしょうか?

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