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TS聖女様は絶望顔が大好きです〜趣味で悪役貴族を可愛がっていただけなのに、なぜか民衆からの評判が良くなっていくんだけど!?〜  作者: 早野冬哉


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16/21

16.作戦開始

 俺たちはゲブレ遺跡奪還に向けてツヴェリア北側城門前──大量発生した魔物であふれかえる森の正面に到着した。


「作戦開始は正午の鐘だ。第一部隊は正面から森へ、第二、第三部隊は左右から援護しろ!」


「「「はっ!!」」」


「第四、第五部隊は──」


 元剣聖でもあるソルダーツ公爵は城壁の上から私兵に指示を出す。今回公爵は戦場を俯瞰し、作戦の指揮をとる手筈となっている。


「聖女殿。戦地に赴く我が騎士らに御言葉をお願いしたい」


「わかりました」


 俺は公爵と位置を代わり、眼下に整列する五百の騎士や兵士たちを見渡す。


 国内最大の私兵団を保有するソルダーツ公爵家であっても、王家への兵の貸し出しや町や村々の守りに人材を割いているため、十分な数を揃えられなかったらしい。


 ならせめて、俺が指揮を上げてやらないとな。兵士たちには邪魔な魔物を多く倒してもらわないと、俺が自由に動けない。


 俺はトン、と杖を突き、一歩前に出る。


「皆さんの中には、ツヴェリアの町、もしくは故郷におられる大切な人のために戦うのでしょう。中には、忠義のために戦う方もいるでしょう。己の信念を貫くため、死も覚悟しておられるでしょう」


 俺は一度言葉を切り、目を閉じる。


 目を開けると、五百の兵士たちが真剣な目つきで俺を見ていた。俺は落ち着いて息を吸い、語気を強める。


「覚悟と信念を持つ皆さんに、私から言えることはほとんどありません。ですが一つだけお願いがあります」


 一度間を置いて溜めを作ると、兵士たちの関心が強まるのを感じた。


「何に変えても生き延びてください」


「なっ……!?」


「聖女様は何を……」


 兵士たちの決意を踏みにじるような言葉に、兵士たちがどよめく。俺の後ろにいる公爵やクレナも、表には出さないが訝しんでいるだろう。


 だがそんなことは俺には関係ない。俺は杖で地面を突き、彼らのどよめきを抑え込む。


「潔く死を選ぶことは簡単です。ですが、死んでしまえばそこで終わりです。あなたがこれから救うはずだった命も、成し遂げるはずだった偉業も、生きるはずだった時間も何もかも捨てることになる。ですから皆さん、最後の最後まであがいてください。生にしがみついてください。私は、簡単に死を受け入れることなど許しません!」


 俺が話し終えると、辺りは一瞬の沈黙に包まれ──。


「「「……う……うおぉぉぉ!!」」」


 兵士たちは右手を天に突き立て咆哮した。


「流石ですな聖女殿。これほど士気の高まった彼らを見たのは初めてだ」


「兵たちの心に突き刺さるすばらしい演説だ。フラウ様には軍師の才能もあるのではないか?」


 俺が下がると、公爵は拍手しクレナは胸に手を当てた。対して、俺の隣に立つラスティは冷めた目で俺を見ると、クレナと公爵には聞こえない声で毒づく。


「相変わらず猫を被るのがお上手ですね。彼らが死のうが死ぬまいがどうでもいいのでしょう?」


「まあな。だがなるべく長く生きてほしいとは思ってるぞ? その方が俺が動きやすくなるからな」


「ハァ……あなたの中では、命の価値など便利な道具程度なのですね」


「いやいや、そこまでは思ってない……ぞ?」


 あー、いや。ちょっと思ってるかも。別に顔も知らない人が死のうと生きようとどうでもよくない?


 言い淀む俺に、ラスティがジト目を向けた。その直後、正午を知らせる鐘が鳴り響いた──開戦の合図だ。公爵は即座に前に出て声を張る。


「作戦開始!」


「「「はっ!!」」」


 そうして、兵士たちは森へ突入していった。


「フラウ様。我々も下に降り、待機しよう」


「はい」


 今回の作戦はこうだ。


 まず三部隊で森に突入し、ゲブレ遺跡までの道を切り開く。次に後続の部隊が、先行部隊によって切り開かれた道になだれ込む魔物を討伐し、道を維持する。最後に俺が少数の護衛とともに切り開かれた道を直進しゲブレ遺跡に行き、儀式を行う。


 もし黒幕がいるのなら、俺がゲブレ遺跡で儀式をするところを邪魔しに来るはず。頼むから黒幕居てくれよ? じゃないと今回の件、ただの骨折り損になるんだ。頼むぞ!


「クレナ様! ゲブレ遺跡までの経路、確保しました!」


「わかった。フラウ様、失礼するぞ?」


「えっ?」


 フワリと浮遊感を感じたと思えば、いつの間にか俺はクレナにお姫様抱っこされていた。


 ま、ま、またなのか!?


 二回目とあって多少はマシになっているが、クレナの吐いた息に頬をくすぐられる度、心臓が跳ね上がる。


 クレナは俺を抱えたまま馬に乗ると、俺を前に座らせた。つまり、今度はクレナにバックハグされる形となった。今度は柔らかい感触が背中に当たり、別の意味でドキドキする。


 あれ……? 俺って男だっけ? 女だっけ?


「行くぞフラウ様。振り落とされないようしっかり掴まっていてくれ」


「は、はい……」


 ダメだわけがわからない。このままじゃ俺の自我が崩壊するんじゃないか……? ……こうなったら楽しいことだけ考えよう。今から俺は黒幕がいるかもしれないところに行くんだよな?


「フゥ……」


 俺は息を吐き、胸のドキドキを抑え込む。そして、無理やり口角を吊り上げ、気分を切り替え──ようとするがどうにも混乱が収まらない。


 あーダメだぁぁ……早く黒幕出てきてくれぇぇ!


「ク、クレナ様。私のことはお気になさらず、全速力でお願いします」


 こっちは一秒でも早くクレナと離れたいんだ。


「……っ!? そうか……フラウ様の覚悟、しかと受け取ったぞ!」


「覚悟?」


 何のことかわからないが、どうやら急いでくれるらしい。クレナが手綱を思いっきり引くと、馬は前足を浮かせた。直後、前足が地面に着くと同時に爆発的なスタートダッシュを決めた。ラスティも別の馬の手綱を握り後に続く。


 風切り音が強くなる。両サイドから押し寄せる魔物を斬り伏せる兵士たちの姿が線になっていく。俺は靡く金の髪を押さえ、クレナの視界を遮らないようにした。


 そうして馬を走らせること十分。木々の間から石レンガ造りの古びた建造物──ゲブレ遺跡が姿を現した。だが──。


「あれは……ボーメントミノタウロス」


 人の三倍近くある身長と牛の頭を有し、手には巨大な戦斧を持った巨体が、ゲブレ遺跡への道に立ちふさがっていた。奴の足元には、三十を超える兵士が横たわっていた。その中には息をしている者もいれば、胴を両断された死体も混ざっている。


 ボーメントミノタウロス──魔力濃度の高い森にのみ出現する魔物で、討伐にはAランク冒険者が五人は必要だと言われている。並の兵士の実力はCランク。ボーメントミノタウロスの前では囮にもならなかっただろう。


 俺はクレナに聞く。


「どうされるのですかクレナ様。周囲には魔物があふれ、迂回はできませんが……」


 俺がやるか? うーん……魔物相手だとやる気出ないなぁ。ここはクレナに任せるか。


 そう思ってクレナの顔を見ると、彼女はある一点を見つめていた。気になってクレナの視線を追うとそこには、ボーメントミノタウロスの前に蹲るコネルの姿があった。


 クレナは何も言わずに剣を抜く。剣を火属性でエンチャントし、ボーメントミノタウロスに向かって馬を走らせる。


「ゴガァァァアアッ!!」


 すれ違い様に戦斧を振り下ろすボーメントミノタウロス。血に染まり、鈍く銀色に光る戦斧の刃が俺の眼前へと迫る──。


「はあぁッ!」


 瞬間、クレナの剣は赤い三日月軌道を描き、ボーメントミノタウロスの両腕を斬り飛ばした。


 人間の首を五個は一気に斬り飛ばせそうな刃渡を持つ戦斧は宙を舞い、ボーメントミノタウロスの体は傷口から燃え始める。


「兄上。後は任せる」


 そう言ってクレナはコネルと死にかけのボーメントミノタウロスを残し、一度も止まることなく馬を走らせた。


 俺は振り返ってコネルの顔を見る。するとコネルは、地面に両膝をついたまま、悔しそうに奥歯を噛み締めていた。


 これ、コネルにとっては屈辱だよな。嫉妬に狂って散々バカにしてきた相手に助けられたんだし。……コネル、怒りで頭真っ白になって暴走してくれないかなー。

この話を読んでいただきありがとうございます!


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