債権者への空売り(ショート)
発酵したような悪臭が密閉された大広間の中で激しく渦巻いた。カウンターに近い数人の平民は耐えかねて腰を曲げ、口を押さえて激しく嘔吐し始めた。
管事はその場に硬直していた。
墨のように濃厚な膿水が、彼の幾重にも重なった二重あごを伝って滴り落ち、シルクの衣領に当たって微かな腐蝕音を立てている。
彼らが誇りとしていた『聖水』の偽装は、完全に引き裂かれた。
「お前……」
管事は手を伸ばして顔を拭ったが、かえって汚物を顔全体に広げる結果になった。
極度の恐慌が、ついに彼の傲慢さを突き破る。
「門を閉めろ! 誰も出すな! この出まかせばかりの異端者を殴り殺せ!」
数人の打手が鉄を包んだ木棍を抜き、大門へと大股で駆け寄り、「ガチャン」と重い閂を下ろした。
周囲の平民たちは恐怖に怯えながら壁の角にひしめき合い、息を殺して震えていた。
チャン・ヨウシーは逃げなかった。彼はまだまともな形を保っている高脚の木製スツールを引き寄せ、狼藉の満ちた床など気にも留めずに腰を下ろした。
彼は上着のポケットから破れ布を取り出し、指先の細い傷口を物憂げに拭い始めた。
「異端者?」
チャン・ヨウシーはフッと鼻で笑った。声は小さかったが、骨の髄まで冷え切らせるような確信に満ちていた。
「俺はたった今、純粋な信仰を以て、お前たちの毒薬を衆目の前で証明して見せたんだぞ。もし俺が今日ここで死ねば、明日には異端審問所の大人たちがその臭いを嗅ぎつけてやってくる。偽の聖水を売った者がどうやって『浄化』されるか、知っているか?」
「神への冒涜を働いた者が、異端審問所でどんな処刑を受けるか……そうだなぁ、考えてみよう。まず、お前たちの口をこじ開け、ドロドロに溶けて沸騰した鉛の液体を喉奥へと少しずつ流し込む。自分の内臓がジュージューと焼け焦げる音をはっきりと聴きながら、胃の中で鉛の塊が冷え固まっていく重みを感じるんだ」
管事の呼吸が猛然と止まり、顔の脂肉が不随意に震え始めた。
「次に、審判官は神聖なルーンが刻まれた刺付きの鉄ブラシを使い、平民の血を吸って肥え太ったその肉を、皮ごと、筋ごと、一本ずつ削ぎ落としていく。生白い骨が剥き出しになるまでな。そして最後は、一筋の光すら届かない地下牢で、己の罪を償い終えるまで日夜哀哭し続けるのさ」
打手たちの動きがピタリと止まった。高く振り上げられた木棍が宙で静止し、誰一人として振り下ろす勇気を持てなかった。
豊穣の街において、『異端審問所』の名は死神そのものよりも効果的だった。
管事の顔の横肉が狂ったように引きつり、冷汗が一瞬にして背中を濡らした。
彼はよく理解していた。このガキが本物の信徒であるかどうかなど重要ではない。重要なのは、床に広がる黒い膿水が『紛れもない事実』だということだ。
この件は絶対に隠蔽せねばならない。万が一情報が漏れれば、鉄砧会は下層地区の民衆の怒りを鎮めるための生贄として、教会に根こそぎ引き抜かれる。
「エヴァン、てめぇ……一体何が望みだ?」
管事は奥歯を噛み締め、獲物を威嚇する毒蛇のように声を潜めた。「ブレント坊ちゃんが知れば、ただじゃ済まねえぞ。お前の皮を剥いでやるってな」
「ブレントが俺に仕掛けてくるトラブルなら、お前が心配する必要はない」
チャン・ヨウシーは指の関節で太ももをトントンと叩いた。「今、俺たちが話しているのは――『口止め料』についてだ」
彼は三本の指を立てた。
「金貨三百枚。俺がお前たちに背負っている借金だ。借用書を出して、俺の目の前で焼き捨てろ」
管事は不快な冷笑を漏らした。
「鉄砧会を強喝る気か? 例え借用書を燃やしたところで、お前が生きてこの街を出られると思っているのか?」
「借用書の相殺は基本サービスに過ぎない。俺側の帳簿を平らにするための一歩だ」
チャン・ヨウシーは、壁の角で震えながらも、その瞳に微妙な変化を宿し始めた平民たちを指差した。
「彼らは一部始終を目撃した。遅くとも今夜には、下層地区の全域が『第四分店は毒を売っている』と知ることになる。その時お前たちが直面するのは、単なる営業停止じゃない。薬を買った奴らが一斉に押し寄せ、返金や賠償を要求してくる。暴徒と化した民衆の怒りを、お前たちは受け止めきれるか?」
管事の土気色に変色した顔が、チャン・ヨウシーの推論の正しさを証明していた。ひとたび騒乱が起きれば、この建物ごと暴徒に解体されるだろう。
「さらに、現金を金貨五十枚、俺の手元に用意しろ」
チャン・ヨウシーは掌を広げた。「見返りとして、俺が奴らに説明してやる。これは『神による試練』だったとな。この一連のロットだけが悪霊に汚染された、鉄砧会もまた被害者なのだと。なんなら俺が慈悲深くもう一度祷告を捧げ、残りの在庫を浄化してやり、破滅の局面をヘッジしてやってもいい」
赤裸々な強喝。
管事は目の前にある、深邃で死に絶えた瞳を死に物狂いで睨みつけた。
彼は困惑していた。下水道の苔の抽出液に微量の幻覚剤を調合するなど、鉄砧会が厳重に防守する最高機密だ。
店で水を汲む小作人ですら接触できない情報を、黒パンすら満足に食えないはずの没落少爺が、なぜ一字一句違わずに知っている? まさか、会の中に内通者がいるのか?
管事が進退極まったその時、二階へと続く木造階段から重い足音が響いた。
痩せ高い人影が、高い窓から差し込む光線を遮るように立っていた。
男は灰黒色のレザーコートをまとい、右腕には鉄砧会の核心権限を示す『玄鉄の護腕』を嵌めていた。
彼こそが、この第四分店を裏で支配する本当の話者であり、通り名を『毒蛇』というバールだ。
「借用書を渡せ」
砂擦れのような掠れた声が、大広間の凝固した空気を切り裂いた。
バールは階段を下りながら、手の中で血のついた鉄片を弄んでいた。
「バール大人!」
管事は身体を震わせ、即座に頭を垂れた。「しかし、ブレント坊ちゃんからは通達が……」
「坊ちゃんは酒と女の管理は得意だが、商行の死活など考えてはおらん。金庫から金貨五十枚を持ってこい」
バールはカウンターの前まで歩み寄ると、手の中の鉄片を「ドゥッ」と鋭い音を立てて無垢材の卓面に突き刺した。
彼の視線の余光が、壁の角で一部始終を目撃していた十数人の平民を陰冷に掃過する。彼の脳内では、すでに血生臭い口封じの計画が高速で構築されていた。
金貨五十枚は先にくれてやる。この疫病神を繋ぎ止めるための餌だ。
今夜にでも打手たちを下層地区の暗渠に配備し、見てはならないものを見たこの賤民どもを全員屠る。
そしてこのエヴァンというガキは、直接縛り上げて鉛の水を流し込み、城外の川へと沈める。
死人に口なし(ノーデータ)となれば、鉄砧会は依然として高高上上の債権者のままだ。
チャン・ヨウシーはバールの瞳の奥にある隠しきれない凶毒を見つめていた。前世でトップクラスの清算人として無数の人間を精査してきた経験が、このヤクザの頭が在場者全員を『物理的に帳消し(バッド・デット・クリア)』にしようとしている意図を瞬時に読み取らせた。
「小僧、神の名を騙って絵図を描くのは、活火山の火口で綱渡りをするようなものだぞ。教会の威光を刃として使うからには、引火して自分の骨まで灰になる恐怖を知るべきだ」
チャン・ヨウシーは立ち上がった。低血糖のせいで膝が微かに揺らいだが、彼は即座に筋肉を緊張させて身形を安定させた。
「チップ(原価)の計算さえ緻密であれば、天秤が崩れることはありませんよ。バール先生。下層地区でビジネスを行う以上、大事なのは金貨をしっかりと手の中に握りしめ、いかに安全に市場から撤退するか、でしょう?」




