表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/30

買収



(グレゴリーの奴、パラディン(聖騎士)のピークという帳簿上の修为を維持するために、自分に割り当てられた3割のシェアからさらに一部を抽出し、本部による吸血がもたらした欠損を補填せざるを得ない状況か。これは典型的な『親会社が子会社から吸血し、子会社のマネージャーが自腹を切って粉飾決算(做账)している』縮図だな)


これらの情報がチャン・ヨウシー(ユウキ)の識海を一閃した時、現実世界での時間は一息(一瞬)すら流れていなかった。


グレゴリーは何も察知していないようだったが、その瞳の奥はさらに深い闇を湛えていった。

「イヴァン少殿、教廷は古くから特殊な才能を持つ人材を高く評価(評価)してきたのだよ」

彼はゆっくりと口を開いた。その声にはどこか慈愛に満ちた響きがあった。

「君のその『鑑識の才』、もし教廷のために運用されるのであれば、それは巨大な資産アセットとなるだろう」


「副主教大人の仰る意味とは?」


「教廷内務部(コンプライアンス部門)への参画ジョインだ」

グレゴリーは長袍ローブの内ポケットから一通の箔押しされた契約書ゴールド・コントラクトを取り出し、チャン・ヨウシーの前へと押し出した。

「正式な編成、役職は『鑑識執事インスペクション・ディーコン』だ。豊穣の城における教廷支部の管轄内にある、すべての聖遺物の品質管理審査クオリティ・コントロールを担当してもらう。俸禄は月給20ゴールド、加えて願力池の優先利用権を付与しよう」


チャン・ヨウシーは視線を落としてその契約書を見つめたが、手を伸ばそうとはしなかった。

「条件は?」


「極めてシンプルだ」

グレゴリーの声に、あの低く威圧的な重みが戻ってきた。

「君のその『鑑識の手法(監査ロジック)』を、完全に教廷内務部へ報告し、データベースに登録(备案)してもらう。教廷は、その力が既存の信仰体系エコシステムに対してリスク(脅威)になり得ないか、デューデリジェンス(確認)を執り行う必要がある」


チャン・ヨウシーは心の中で冷笑した。

(翻訳するとこうだ。『教廷は俺の監査技術オーディット・テック買収アクイジションしたい。その後、内部のツールとして囲い込むか、あるいは市場から直接バン(封殺)するかだ』。大手の典型的な独占禁止法スレスレの独占クソムーブ(壟断操作)だな)


彼は顔を上げた。その目は古井戸のようにつんと静まり返っている。

「副主教大人のご提案は、非常に寛大ジェネラスですね。ですが、私にも一つ条件があります」


「言いたまえ」


「私がサイン(捺印)する前に、豊穣の城の教廷支部における『聖遺物登録台帳』を閲覧させていただきたい。すべてです。インプット(入力端)の願力の出所、アウトプット(出力端)の分配流向、そしてすべての高階聖遺物のメンテナンス記録ログを含めて」


グレゴリーの瞳孔が突如として収縮した。

フィッシャーは息を呑み、片眼鏡モノクルが鼻梁から滑り落ちそうになった。


長テーブルの両側に、死のような静寂が落ちる。

グレゴリーはチャン・ヨウシーを凝視した。そのタカのような鋭い両眸に、初めて明確な『警戒』の色が走った。

「君は自分が何を要求しているのか理解しているのかね?」

グレゴリーの声は、極めて低くなった。

「聖遺物登録台帳は、教廷のトップシークレット(核心機密)だ。破産貴族の君など論外、この豊穣の城の大主教でさえ、完全な分配記録を調べる権限など持たされていないのだよ」


「知っていますよ」

チャン・ヨウシーのトーンには何の変化もなかった。

「ですが副主教大人……ある『不都合な真実』を力任せに糊付け(圧制)するのが、日に日に難しくなっているのではありませんか?」

彼は目角でフィッシャーをチラリと一瞥した。


「フィッシャー、お前は下がっていろ」

グレゴリーはしばしの沈黙の後、命じた。

フィッシャーはチャン・ヨウシーを一瞥し、黙って部屋から退出していった。


「話しなさい。君は一体どこまで知っている?」


「あなたの印璽ですが、ここ3年ほど、願力の供給量が右肩下がりに下落スライディングしていませんか? あなたの修为は確かにパラディンのレベルを維持していますが、丹田の奥深くにあるあの古い暗傷、もう誤魔化し(圧制)がきかなくなってきているのではないですか?」


グレゴリーの顔色が、ついに完全に変わった。

彼の右手の薬指にある印璽が微かに震え、暗金色の光が制御を失ったかのように点滅した。

「君……」彼の声はかすれていた。「なぜそれを知っている?」


絶境デッドエンドに追い込まれた人間には、他人の目には映らないものがクリアに見えるものですよ」

チャン・ヨウシーは少し身を乗り出した。

「豊穣の城の信徒の願力は、その5割が中抜き(截流)され、使途不明ブラックボックスとなっている。あなたは地区の最高責任者でありながら、わずか3割しか受け取れず、それでいて第三階級ピークの修为を偽装(維持)しなければならない。ご自身のシェアから血を流して帳簿の穴埋めを続けていれば、遠からずあなたの経脈は完全に資本割れ(崩盤)します」


彼は一呼吸置き、トドメを刺した。

「副主教大人、あなたも俺と同じ、このシステム(世道)によって壁際に追い詰められた『弱者』に過ぎないのですよ。ただ、あなたのポジションが俺より少し高い分、そこから滑り落ちる時のダメージが、俺より遥かに痛烈だというだけです」


グレゴリーの手がテーブルの上で微かに震え、長テーブルの両側に再び沈黙が満ちた。

「イヴァン・ヒューズ……」

グレゴリーはゆっくりと口を開いた。その声には、未だかつてないほどの重厚な緊張感が漂っていた。

「お前は、一体何者なんだ?」


「ただの、真実を監査しにきた(看清真相)者ですよ」

チャン・ヨウシーは立ち上がり、あの箔押しされた契約書を相手の前へと押し戻した。

「副主教大人の思考が整理され、本物の帳簿(生データ)を俺に見せる覚悟ができましたら、その時にまたアライアンス(合作)の交渉をしましょう」

彼は僅かに腰を折り、完璧な貴族の礼をとると、大門に向かって背を向けた。


「待ちたまえ」

背後からグレゴリーの声が響いた。チャン・ヨウシーは足を止めたが、振り返りはしなかった。

「三日後、本戦の第1ラウンド(初戦)だ」

グレゴリーは重々しく告げた。

「君の対戦相手はカイル・フォン・ラインハルト。もし君がそのリング(擂台)の上で自身のバリュー(価値)を証明してみせるなら……台帳の件、検討の余地(再談)はある」


チャン・ヨウシーの口元が、わずかに吊り上がった。

「ディール(成交)だ」


彼は大股で信仰取引所を後にした。その足取りは決して急いではいなかったが、見る者の心臓を締め付けるような、絶対的な確信コミットメントに満ちていた。

(第3階級のグランドマスター(大剣士)ごとき、今のチャン・ヨウシーの敵ではない!)


……


廊下の突き当たりで、フィッシャーが追いついてきた。

「イヴァン様」

彼の声は相変わらず甲高かったが、昨日よりもどこか、言語化しがたい複雑なニュアンスが含まれていた。

「副主教大人があのように他者に対して辛抱強く(ナイスに)接されたのは、この10年で初めてのことにございます」


チャン・ヨウシーは顔を傾け、彼を一瞥した。

「そうかい? それは恐らく、彼がこの10年間、本当の『プロの同業者(懂行的人)』に出会えなかったからだろうな」


フィッシャーのレンズの奥で、複雑な光が明滅した。彼は口を小さく開け、何かを言いかけたが、最終的にはただ深く腰を折り、影の底へと退いていった。


……


路地の突き当たりにヒューズ古城の輪郭が見えてきた時、アナスタシアは変わらず石段の上に立ち、彼を待っていた。

彼女はチャン・ヨウシーの姿を視界に捉えると、スカートの裾を握りしめていた指の力が、明らかにふっと抜けた。

「お帰り」

彼女は言った。


「ただいま」

チャン・ヨウシーは彼女の前に歩み寄ったが、すぐには門に入らず、石段の下から彼女を仰ぎ見た。

「グレゴリーの印璽だが、願力の5割が本部へ中抜きされていた」

彼は前置きなしに本題を告げた。

「豊穣の城の信徒たちの祈祷エネルギーの半分は、とある隠蔽されたノードへと流出している。グレゴリー自身はわずか3割しか受け取れず、経脈を債務超過(透支)させて修为を維持している状態だ」


アナスタシアは呆然とした。

「それって……彼自身も、誰かに吸血されているということ?」


「彼だけじゃない。この豊穣の城の教廷支部全体が、教廷本部のキャッシュディスペンサー(ATM・提款机)にされているんだ」

チャン・ヨウシーの目は平穏だった。

「グレゴリーはこのマネーゲームの元締め(庄家)なんかじゃない。彼はただの……少し規模の大きい個人投資家(散户)に過ぎないのさ」


アナスタシアは沈黙した。

彼女はこれまで、グレゴリーを教廷の悪意の具現化であり、自分を火刑台へと追いやった直接の仇敵だと信じて疑わなかった。

しかし今、チャン・ヨウシーは、グレゴリー自身もまたこのシステムの構造的な被害者(エコシステムの下代)に過ぎないと告げている。


「じゃあ、私の神格コアは……」彼女は蚊の鳴くような声で問うた。「彼より、もっと上の人間に『空売り(ショート)』されたの?」


「その可能性が極めて高いな」チャン・ヨウシーは頷いた。「グレゴリーが当時、お前の神殿の予算をカットし、お前を異端として認定した書類は、単なるオペレーション(執行レイヤー)上の手続きに過ぎない。本物の空売り指令ショート・オーダーは、さらに上位の階層から発せられたものだ」


アナスタシアの身体が微かに震えた。彼女は無意識に手を伸ばし、チャン・ヨウシーの衣の袖を掴んだ。まるで溺れる者が、最後の浮木に縋り付くかのように。

「ヨウシー(佑熙)……」


彼女の指先は氷のように冷たかったが、人間のものではない、神聖なほどに繊細な感触テクスチャがあった。

チャン・ヨウシーは、彼女の指の関節が震えているのを、そしてその声の裏にある、抑え込まれた理不尽(委屈)と憤怒を感じ取ることができた。


まさにその瞬間、彼の識海にある《太上破产清算法》の玉冊が、猛然と激震した。

頭上に懸かるジャッジメント・ソード(悬顶之剑)が低く唸りを上げ、紫色の雷光(紫霄雷光)が剣鋒のブレードエッジを走り、今にも振り下ろされんばかりとなった。

天道の禁制(システム制限)が、接触によって生じた彼の心底のわずかな『波紋(漣漪)』を感知したのだ。


チャン・ヨウシーは目を閉じ、強引に玉冊を駆動させ、その波紋を力任せに押さえつけて死水(完全なる静寂)へと戻した。

絶対中立。

無欲無求。


「安心しろ、パートナー(合伙人)」

彼の声は極めて静かだったが、十分に明晰だった。

「グレゴリーだろうが、その上にいる黒幕だろうが、帳簿を焦げ付かせている(欠了账)奴らの罪状は、俺が1行残らず、すべて精査(監査)してやる」


アナスタシアは顔を上げ、彼を見つめた。彼女の目の縁は微かに赤くなっていたが、最後まで涙をこぼすことはなかった。

「どうして私をそこまで手伝って(監査して)くれるの?」彼女は尋ねた。「あなたに何のメリットがあるというの?」


チャン・ヨウシーは、ほんの一瞬だけ沈黙した。

「お前は俺の名義にある『独占パートナー(独家合伙人)』だからな」彼は言った。「お前の不良債権(坏账)は、俺の不良債権だ。お前の仇敵は、すなわち俺の監査対象オーディット・ターゲットだ」

彼は言葉を切り、口元に冷徹な孤を描いた。


アナスタシアは彼を見つめ、突然ふっと静かに微笑んだ。

その笑顔は極めて淡く、晩秋の早朝に漂う一縷の薄霧のように、瞬く間に消え去った。

だが、チャン・ヨウシーが彼女の笑顔を目にしたのは、これが初めてのことであった。


「ありがとう」


チャン・ヨウシーの足取りが、微不可察わずかにピクリと止まった。しかし、彼はそのまま何事もなかったかのように前へと歩みを進め、まるで何も聞こえなかったかのように振る舞った。


識海の玉冊はゆっくりと閉じられ、頭脳(霊台)の奥深くに、穏やかな金青色の微光だけを残して静かに流転していた。

そして、そのかすかな微光のエッジ(輪郭)の端で、1滴の極めて淡い、ほとんど感知できないほどの『波紋』が、緩やかではあるが、断固としたリズムで静かに広がり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ