表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/30

第二章:太上玄元造化玉冊――『天道破産清算法(リーガル・バスター)』

リリスは様々な展開を予想していたが、エヴァンがここまで……『平然』としているとは夢にも思わなかった。


「あなた……」

リリスは躊躇いがちに言った。「頭でも狂ったの?」


「そうかもしれないね」

チャン・ヨウシーは微笑みながら答えた。「何しろ破産した人間だ。頭が冴えていようがボケていようが、大した違いはないさ」


彼は振り返り、部屋の隅にある唯一まともな机へと歩み寄り、羽根ペンを手に取ってインクに浸した。


ペン先が羊皮紙に触れようとしたその瞬間、激しい眩暈が突如として彼を襲った。

直後、彼の視界は刺すような黄金の光に飲み込まれ、耳元で遥か古の鐘の音が厳かに響き渡った。


続いて、彼の意識は形容しがたい異空間へと引きずり込まれた。

そこには天も地もなく、ただ無数の破れた古籍の頁が虚空に漂っており、まるで静止した紙の雪のようだった。

どの頁にも文字がびっしりと書き込まれており、彼が見覚えのある東方の古篆字こてんじもあれば、まったく見知らぬ文字もあった。

それらの文字に固定された形態はなかったが、氷のように冷たく、刃のように鋭い気配を放っていた。


彼の意識の中に、枯れた老人の声が響く。


「汝、既にタオと縁あり。今、汝にこの巻の神通を授けん」


チャン・ヨウシーは声を上げようとしたが、自分には口も身体もなく、ただ純粋な意識だけが残されていることに気づいた。


黄金の光が集束し、彼の意識の奥深くで一巻の虚無たる古籍へと凝結していく。

その古籍に実体はなかったが、山岳よりも重い圧倒的な圧迫感を放っていた。表紙には、八つの古篆字が緩やかに浮かび上がった。


――『太上玄元造化玉冊』。


「この残巻を承るからには、太上の戒律を守らねばならぬ」

あの声が続けた。「汝、既にこの玉冊を承りし以上、太上の心を持ち、天地の造化を鑑査し、万物の承負カルマを明確にし、虚妄の業障を斬り尽くし、天理を衆生に返すべし!」


声が途切れると同時に、抗うことのできない力が彼の意識をその古籍の中へと押し込んだ。

情報が濁流のように押し寄せる。

願力エーテルの流出入を見破る方法、因果を追跡する方法――。


チャン・ヨウシーの口元が引きつった。

(何が『太上玄元造化玉冊』だ。これ、要するに上場企業をぶっ潰すための取扱説明書じゃねえか!?)


道家において『造化』とは、天地が育んだ万物を指す。

天地の造化を鑑査し、万物の承負を明確にするということは――要するに貸借対照表バランスシートの監査だ!


(こんなに勿体ぶった言い方をしておいて、中身はただの『破産清算法』じゃねえか! せっかく異世界転生したってのに、また元の本職に戻って、天道のためにタダ働きしろってか!?)


彼が心の中で荒々しく毒づき、怨念を募らせたその瞬間、冥冥の中で玉冊の何らかの禁制に触れた。


道門第一の鉄則――『太上忘情』!


この功法は、修行者が因果を究明し、天に代わって律法を執行する際、絶対的な中立と無欲無求を維持することを要求する。私欲を生じることも、凡俗の念を起こすことも許されない。


「ドガシャァン!」


親指ほどの太さの紫色の劫雷ごうらいがチャン・ヨウシーの識海に直接落ち、彼の元神ソウルの真芯を撃ち抜いた。


「――っ!」


魂を切り裂かれるような激痛に、彼は冷息を吸い込んだ。さっきまで脳内を埋め尽くしていた現代の罵詈雑言は一瞬で吹き飛び、極めて不気味な境地へと強制的に引きずり込まれた。


太上忘情、絶対の理。

心拍数が低下し、あらゆる怒り、皮肉、不満が徹底的に剥ぎ取られていく。

彼の思考は、一台の精密なスーパーコンピューターのように、冷徹で、高効率で、一切の人間味を失った。


現実世界で、再び時間が動き出す。


チャン・ヨウシーは緩やかにペン先を落とし、婚約書に己の名を署名した。

エヴァン・ヒューズ。

筆跡は整然とし、平穏で、微塵の震えもなかった。


「サインは終わった」

彼は羊皮紙をリリスに差し出した。その動作は優雅で、まるで慈善の寄付証明書を手渡しているかのようだった。

「グレイお嬢様。今日この時を以て、貴女と私の間にあるすべての因果は正式に解除されました」


リリスは無意識に婚約書を受け取った。

しかし、彼女がエヴァンの目と視線が合った瞬間、猛烈な悪寒に襲われた。


それは一体、どのような目だっただろうか。

悲しみも、怒りも、そして先ほどまで浮かべていた掴みどころのない温和な笑みさえもない。

その漆黒の瞳の奥には、まるで死に絶えた星空が隠されているかのようであり、高高上上から、悲悲憫憫、かつ残酷に彼女を見下ろしていた。

まるで、命なき枯れ草の山を見るかのように。


「あなた……何を企んでいるの?」リリスの声は、自覚なしに小さくなっていた。


「何も企んでなどいません」

エヴァンはゆっくりと手を離し、羊皮紙をリリスの足元に落とさせた。

彼の声は極めて空霊くうれいで、侵しがたい神聖さすら帯びていた。

「グレイお嬢様、お引き取りを」


「行くわよ!」

リリスはその視線に気味が悪くなり、婚約書を握りしめて振り返り、すぐに立ち去ろうとした。


しかし、ブレントはエヴァンのその見下すような視線に明らかに激怒していた。

彼は一歩前に出ると、エヴァンの着古したリネンのシャツの襟元を掴み上げた。

「ガキが、リリスをそんな目で見てんじゃねえ!」

ブレントは凶暴に拳を突き上げた。「サインすりゃ終わりだと思ってんのか? お前の親父は俺たちアイアン・アンビル会に金貨三枚(300ゴールド)の借金があるんだよ! 三日以内に全額返さなきゃ、このボロ屋をぶっ潰して差し押さえてやるからな!」


普段の張佑熙チャン・ヨウシーの性格なら、この時点でアイアン・アンビル会の資金チェーンを断絶させ、一家心中へ追い込む商業的な毒計を少なくとも三つは脳内で構築していただろう。

しかし現在、『絶対中立』の法則に抑圧されている彼の心には、さざ波一つ立たなかった。それどころか、目の前の男を哀れにすら感じていた。


「三日ですね。分かりました」

エヴァンは憐れみに近い眼差しをブレントに向け、淡々と宣告するように言った。

「三日後にも、アイアン・アンビル会がこの世界に存在していることを願っています」


「てめぇ、死にたいか!」

ブレントが怒号を上げ、殴りかかろうとしたその時、


「もういいわ、ブレント!」

リリスが彼を引っ張った。「狂人を相手にしてどうするの? 刺激が強すぎて、頭がおかしくなったのよ。行くわよ!」

彼女はこの荒れ果てたリビングに一秒たりとも長居したくなかった。エヴァンから漂うあの不気味なオーラが、彼女に得体の知れない胸騒ぎを覚えさせていた。


ブレントは鼻を鳴らして手を離し、エヴァンを力任せに突き飛ばすと、使用人たちを引き連れて大手を振ってエメラルド・ホールを去っていった。


うらぶれた古い屋敷に、再び死のような静寂が戻る。

エヴァンは静かにその場に立ち、門の外で舞い上がる埃を眺めていた。


この身体と世俗を結ぶ小さな因果が完全に断ち切られたことで――。

彼の識海にある『太上玄元造化玉冊』がゆっくりと第一頁をめくり、温潤な清らかな光を降らせて彼の両目を浄化した。


その時、彼の瞳の中で、世界はその姿を変えた。

かすかな青い光が彼の瞳孔を覆い、リリスとブレントに絡みつく気運バイタリティと因果を直接見破らせた。


リリスの身において、自身の底力を表す気運は水のように希薄であり、一方で『背信義理』を表す業力カルマが、数筋の微弱な黒い糸となって彼女に絡みついていた。ブレントも同様であり、平民を虐げて得た浅薄な悪業が染み付いていた。


(気運は枯渇し、業力は浅薄。搾り取る価値すら皆無の不良資産だ。破産清算手続きに入る資格すらない、純粋な時間の無駄だな)


――『洞微鑑業法目どうびかんぎょうほうもく』。

太上玄元造化玉冊における最初の神通を手に入れた。


神通が成就したことで、彼を強制的に抑圧していた『絶対中立』の状態が、ようやく潮が引くように退いていった。

ほぼ一瞬にして、あの冷徹で高貴な神明は消え去り、代わりに胸を押さえて激しく呼吸を乱す操盤手ディーラーがそこに現れた。


「ケツが浮くかと思ったわ! 天道に魂ごと消滅させられるところだったぞ!」

エヴァンは額の冷汗を拭い、今更ながら恐怖を覚えた。

彼は深く息を吸い、激しく跳ねる心臓を落ち着かせると、その瞳に再び鋭く、世俗的な光を宿した。


「だが、この取引トレードは悪くない」

彼は手に入れたばかりの初心者特典を試すことにした。

識海の玉冊が示すガイドに従い、エヴァンは左手の食指と中指を揃えて不慣れな道門の剣訣けんけつを結び、自身の両目の上を左から右へと軽く撫でた。


「陰陽を勘理し、承負を鑑査せん――カイ!」


「――ゥン」

微かな清らかな鳴動が耳畔に響き、目の前の世界が一瞬にして変貌を遂げた。

本来肉眼で見えていた色彩豊かな実物は表象の偽装を剥ぎ取られ、世界全体が、無数の青・金・黒の三色の糸が交織する「エネルギーデータストリーム」へと化していた。


万事万物の気運の流転、因果の錯綜が、まるで立体的に解体された財務諸表のように、彼の視界の下に赤裸々に暴き出されていた。


彼は首を巡らせ、窓の外にそびえ立つ、刺すような聖光を放つ教会の神聖大聖堂を見上げた。

法目の注視の下では、その神聖不可侵に見える聖光も完全にフィルターを失った。

代わりに大聖堂の上空に浮かび上がっていたのは、巨大極まりない『因果の帳簿』だった。


無数の黄金の糸が『願力キャッシュフロー』を表し、街の四面八方から途切れることなく大聖堂のドームへと集束していた。しかし、その眩い黄金の光の底層には、吐き気を催すほどの血色と漆黒の濃雲が澱んでいた。


古の東方篆字の数行が彼の網膜に浮き彫りになり、即座に彼の脳内で現代の金融フォーマットへと翻訳されていく。


対象インデックス:豊穣の街・教会支部】

【帳簿資産:信者願力・八百万石】

【隠れ負債:生贄の血祀り、信者の反発、法則の歪み……累計不良債権・千二百万石超過!】

【監査結論:債務超過。深刻な粉飾決算およびポンジ・スキーム(巨額詐欺)の兆候あり。強制破産清算の要件を満たすものとする!】


エヴァンは息を呑み、うねる血色の不良債権を見つめながら、極限の興奮によって瞳孔を微かに収縮させた。


「神は人類を愛される、か……」

彼は誰もいないリビングでぽつりと呟き、その口元にゆっくりと危険な弧を描いた。その眼差しは、ついに数兆クラスの空売り対象ターゲットを見つけ出した飢えた狼のように狂熱を帯びていた。

「だが俺が愛するのは――帳簿の監査チャージだけだ!」


「さて。その前に、まずはアイアン・アンビル会の資産を計算してやるとするか」

何しろ、ビジネスマンたるもの誠実でなければならないからな!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ