イヴァン・ヒューズ対モリソン
「イヴァン・ヒューズ対モリソン!」
チャン・ヨウシー(ユウキ)は石柱の傍らから立ち上がり、お尻の埃を払うと、緩やかな足取りで擂台へと歩みを進めた。
観客席の反応は真っ二つに分かれていた。彼にブーイングを浴びせる者もいれば、好奇心から首を長くして見つめる者もいる。
昨日の2連続不戦勝と、あの奇妙な勝利を経て、この破産貴族はすでに今大会最大の不確定要素となっていた。
モリソンはリングの中央に立ち、指の間で短匕を飛び回らせていた。暗赤色の金属が、日光の下で血のような生々しい光沢を放っている。
「ヒューズ家の粗大ゴミが」
彼の声は非常に低く、2人にしか聞こえないほどだった。
「ブラント若坊主が金貨100枚で、お前の右腕を買い取ったんだよ。まずはお前の手首から始め、次はその肩、最後はお前の喉を掻き切ってやる」
チャン・ヨウシーはリングの端で足を止め、彼を仰ぎ見た。
「お前のバランスシート(資産負債表)は、その口の軽さよりも酷いな」
「始め!」
モリソンが動いた。
その速度は先ほどのエリック戦よりもさらに速く、全身を灰色の残像へと変え、暗赤色の短匕は毒蛇の牙のごとくチャン・ヨウシーの喉元へと一直線に突き出された。
チャン・ヨウシーは身体を逸らし、短匕が首筋をかすめて通り過ぎ、冷たい風を巻き起こした。
彼はその致命的な短匕に目を向けることすらなく、剣訣を組み、人差し指と中指を揃えると、一縷の金青色の剣気を指先から激射させ、短匕の柄を直撃した。
「チィン」
かすかな金属音が響く。
剣気が柄の手前3寸に迫った瞬間、暗赤色の願力の霧に弾き返された。金青色の光線はその霧の中で一瞬だけ抗ったが、やがて光の点となって霧散した。
チャン・ヨウシーの瞳孔がわずかに収縮した。
『暗号化層(暗号化レイヤー)』だ。
この血紋の短匕の法陣構造は、ランスの烈風拳套よりも遥かに複雑だった。核心的なノードが何重もの願力の霧に包まれており、まるで幾重ものオフショア構造を設定したペーパーカンパニー(幽霊会社)のようだ。現在の功德の備蓄から出力した剣気では、これを貫通することはできない。
モリソンは冷笑し、短匕を翻すと、暴風雨のような猛攻を浴びせてきた。
チャン・ヨウシーは回避を続けたが、衣服は数箇所が切り裂かれ、腕の傷口から鮮血が血を滲ませた。彼の足取りは次第に重くなり、体力が急速に消耗していく。
「功徳の備蓄が……足りない」
彼は回避しながら、心の中で急速に計算を弾いていた。
銅の指輪に残された功徳は、いよいよ最後の一縷。持ってあと1回の攻撃だ。もし今回も暗号化層に弾かれれば、その時点でゲームオーバー(破産)だ。
モリソンの短匕が再び襲いかかり、彼の心臓を狙う。
チャン・ヨウシーは猛然と身体をのけぞらせ、短匕が胸元をかすめた。革鎧が大きく引き裂かれる。彼はその勢いを利用して転がり、距離を取ると、片膝を突き、右手で胸の銅の指輪を死に物狂いで押さえた。
「玉冊」
彼は識海の中で低く叫んだ。
識海の中で、浮かんでいた虚無の古書がゆっくりと1ページめくられる。ページには文字はなく、ただ金青色の渦が緩やかに回転していた。
「銅の指輪に貯蔵されている西方の願力を、すべて『逆コンパイル(逆向清算)』しろ!」
銅の指輪が激しく震え出した。指輪の奥深く、アナスタシアの神核から抽出された残余の願力や、鉄砧会の護符から吸収した断片的なエネルギーが、無形の力によって強制的に引き剥がされ、引き裂かれ、再構築されていく。願力の金色の一瞥は玉冊の渦の中で粉砕され、精製され、変換され、最終的に一縷また一縷の功徳の糸へと凝縮された。
このプロセスは一瞬だったが、チャン・ヨウシーの感覚の中では、まるで一世紀が経過したかのようだった。
モリソンは彼に息をつく隙を与えなかった。
彼は足を踏み出し、短匕を高く掲げた。匕首の暗赤色の紋様が狂ったように明滅し、まるで次の獲物を喰らおうとする貪欲な顎のようだった。
チャン・ヨウシーが顔を上げた。
その瞳の奥に、極めて深い金青色の輝きがひらめく。
彼は懐から、道すがら適当に買い求めた普通のナイフを取り出し、すべての功徳の力をその内部へと流し込んだ。
そして、前方へと突き出した。
ナイフから放たれた剣気は、ある種の法的裁決のような威厳を帯び、モリソンの手にある短匕へと真っ直ぐに突き刺さった。
暗赤色の願力の霧が再び現れ、それを阻もうとする。
しかし今回、剣気はまるで真っ赤に焼けた鉄棒がバターに突き刺さるかのように、何の抵抗もなく第一の霧を貫通し、続いて第二層、第三層をも消し飛ばした……。
「なっ――!?」
モリソンの顔色が初めて変わった。
剣気が短匕の柄にある核心ノードに突き刺さった瞬間、チャン・ヨウシーの精神(識海)には短匕の法陣の全貌が瞬時に浮かび上がった。
それは気が遠くなるほど複雑な螺旋構造であり、無数の細かな願力回路が互いに絡み合い、精血を貪り食い続ける渦を形成していた。
そしてその渦の最深部で、チャン・ヨウシーは最も致命的なノードを発見した。
『精血供給ルート』。
「嗜血回廊」の法陣の本質は、所持者の精血を燃料として、願力抽出エンジンを駆動させることにある。
精血はモリソンの右腕の経脈から法陣へと注入され、燃焼・増幅され、対象の願力を吸い上げる動力へと変換される。
これは典型的なポンジ・スキーム(ポンジ構造)だが、精血が過剰債務となるにつれ、所持者の肉体は徐々に崩壊し、最終的には自らを食い尽くすことになる。
チャン・ヨウシーは立ち上がった。
「当該聖遺物は、不法な資金調達(非法集資)および不適切な違法融資の疑いがある。原資産は所持者自身の精血であり、実際のレバレッジ比率は規制のレッドライン(紅線)を遥かに超越している。表面上は高利回りの願力抽出を謳っているが、実態は原資産の過剰な先食い(透支)によって運営を維持しているに過ぎず、典型的なポンジ・スキーム構造であると認定する」
彼は一呼吸置き、剣気を短匕の内部でわずかに震わせた。
「法に基づき、核心資産を凍結する。――断(斬)!」
チャン・ヨウシーの言葉が落ちると同時に、
剣気が猛然とねじ切られた。
精血の供給ルート、切断。
「ウゥゥン――」
血紋の短匕が凄惨な鳴動を上げ、匕首の表面の暗赤色の紋様は、電源を切られたネオンサインのように狂ったように数回明滅した後、突如として完全に消灯した。
モリソンは人間とは思えない悲鳴を上げた。
精血の供給を失った「嗜血回廊」の法陣は、瞬時に制御を失った(ロスカットが崩壊した)。本来なら相手の願力を吸い取るはずだった回路が、猛烈な勢いで所持者自身へと逆流(逆向け・反噬)し始めたのだ。モリソンの右腕の経脈に残っていた精血が短匕へと逆吸い上げされ、制御不能に陥った法陣の中で爆発し、燃え盛った。
彼は地面に崩れ落ち、右腕を不自然な角度に捻じ曲げ、指の隙間から暗赤色の血液を噴出させた。短匕は手から離れ、金属特有の甲高音を立てて床へと転がった。
モリソンの顔は紙のように白く、まるで背骨を抜かれたかのように地面へ頽れ、もはや痙攣する力さえ残されていなかった。
全場が死に絶えたように静まり返った。
チャン・ヨウシーは腰を屈めて地面の血紋の短匕を拾い上げ、指の間でその重さを量るように弄ぶと、リングの端へと歩み寄り、そこに立っていた裁判官のエドモンド・ヴァルクへと無造作に放り投げた。
「異端審問所の第一世代の聖遺物がブラックマーケット(闇市)に流入し、外囲のゴロツキ(打手)によって不当に使用されている」
チャン・ヨウシーの声は、まるで日常の監査報告書を読み上げるかのように平坦だった。「教廷はサプライチェーンに対する徹底的な監査(徹查)を行うことを推奨する」
エドモンド・ヴァルクは短匕を受け取り、その灰ブルーの瞳を長い間チャン・ヨウシーの顔に留めていた。彼は手の中の暗赤色の短匕を見つめ、それからリングの上に泥のようになって転がっているモリソンを見上げると、顔の火傷の傷痕をピクリと震わせた。
「イヴァン・ヒューズ、勝者」
彼の声は相変わらず枯れていたが、今回はどこか言葉に尽くせぬニュアンスが含まれていた。
観客席は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
今回は、もう誰もチャン・ヨウシーにブーイングをしなかった。誰もが驚愕、困惑、そして恐怖の入り混じった眼差しで、あの痩せた後ろ姿を凝视していた。彼らには彼の戦闘スタイル(ロジック)が理解できなかったが、その『結果』だけは理解できたのだ。
チャン・ヨウシーは振り返り、リングを降りた。歩みは速くなく、その背中が青石の地面の上に長い影を引いていた。
選手待機エリアの外で、教廷の制服を着た若い執事が彼を呼び止め、両手で暗金色のバッジを差し出してきた。
「イヴァン様、ベスト32への進出、ならびに本戦(正賽)への出場権獲得、おめでとうございます。こちらは本戦出場者のバッジとなります。このバッジを所持している期間、お客様は『資産凍結保護』、教廷宿舎での無料食宿、および初級クラス学院候補生の資格を享受できます」
チャン・ヨウシーはバッジを受け取り、指先で一回転させると、無造作に懐へと仕舞い込んだ。
「初級クラス候補生の資格?」
「はい。ベスト32に入った選手は、自動的に教廷内務部の監視(注視)対象となります。選抜戦の終了後、優秀な成績を収めれば、闘神学院への入学が許可されます」
チャン・ヨウシーは頷き、それ以上は何も語らず、競技場の出口に向かって真っ直ぐ歩いて行った。




