緊急負債
夜が深まっていった。
ラストシティの夜はいつも異様なほど重苦しく、まるで目に見えない巨手が貧しき者たちすべての肩を押し潰しているかのようだった。
古城の二階、ガラスの欠けた窓枠から吹き込む風には、晩秋の冷え込みが混じっている。
チャン・ヨウシー(张佑熙)は眠っていなかった。
彼は床の上に胡坐をかき、銅の指輪を手のひらに握りしめていた。金青色の功德の糸が、まるで繭から引き出されるシルクのようにつむぎ出されていく。
糸はわずか3寸ほどの長さで、空気中でかすかに震えた後、「パチッ」と音を立てて千切れ、点々とした光の斑点となって霧散した。
彼は目を開け、眉をごくわずかにひそめた。
「功徳の備蓄が1割を切っている」
ランス・ブルックを打ち破った『烈風の手甲』で一縷を消費し、アンビル会の刀疤(傷跡)顔を退けた『願力の護符』でさらに一縷を消費した。銅の指輪に元々蓄えられていた功徳に、アナスタシアの神核から逆算(逆清算)して抽出した分を加えても、今は底をつきかけた証券口座のように、薄っぺらな一層が残るのみだった。
「次の相手は少なくとも第二階級の聖徒だ。現在の備蓄では、全力を出した剣気はせいぜい2回しか維持できない」
チャン・ヨウシーは心の中で静かに損益計算書(P/L)を組み立てた。もし2回の剣気がどちらも空振りに終われば、彼はすべての手札を失い、第一階級の闘気すら持たないこの脆弱な肉体だけで、教廷が育て上げたプロの殺戮兵器と対峙せねばならなくなる。
勝率は、ゼロに近い。
その時、一階からごくかすかな物音が聞こえた。
鉄の道具で朽ちかけたドアの鍵をいじっているような音だ。
チャン・ヨウシーは気配を消して立ち上がり、裸足で床を踏みしめた。音は一切立たない。
彼は階段の吹き抜けまで歩いていき、隙間から下を覗き込んだ。
3人。
いずれも黒い軽装に身を包み、腰には鉄棒と短刀を差している。先頭にいるのは顔中傷だらけの大男で、左目の目元から口元まで不気味な傷跡が伸びていた。男はドアの脇にしゃがみ込み、細い針金を使って古城の大門の鍵穴を突いている。
チャン・ヨウシーは『洞微鑑業』の法目を開いた。
法目の視界の中で、3人の体内の状況が一目瞭然となる。
後ろの2人はただの街のゴロツキであり、体内に願力の波動は一切ない。
しかし、あの傷跡顔の胸元には暗赤色の木札がぶら下がっており、着用者に薄い闘気のブースト(増幅)を提供していた。
木札の内部にある願力回路は、昼間に戦ったランスの『烈風の手甲』と完全に同型で、構造は粗悪、手抜き工事そのものであり、コアのノード(結節点)は薄い紙のように脆弱だった。
どうやらこれも教廷製のようだ。
「カチャリ」
ドアの鍵が解錠された。
傷跡顔は立ち上がると、後ろの2人に手で合図を送り、3人は足音を忍ばせてリビングへと侵入した。荒れ果てた窓枠から月光が差し込み、床に白い光の斑点を落とす。
「若旦那の命令だ。あのクズは息の根さえ止まらなきゃいい。本命はあの右腕を潰すことだ」
傷跡顔は声を潜めた。「二度と剣を握れねえようにして、選抜戦に出られなくしてやるんだよ」
「アニキ、あのガキ昼間の闘技場で何か妖術を使ったって噂ですが……」
「妖術なわけあるか!」傷跡顔は唾を吐き捨てた。「俺には教廷から支給された護符がある。第一階級の聖徒だって俺の防御は破れねえ。闘気すらねえクズが、一体何の天変地異を起こせるってんだ?」
彼は胸の暗赤色の木札を叩いた。木札の表面が一瞬、かすかな赤光を放つ。
二階の階段口で、チャン・ヨウシーは静かに剣訣を結んだ。
剣気が彼の指先から形を成す。髪の毛ほどに細く、暗闇の中ではほとんど視認できない。
彼は声を出さず、警告もせず、ただ静かに指を弾いた。
金青色の光線が、音のない流星のごとく二階から射下され、傷跡顔の胸元にある木札へと正確に突き刺さった。
木札の表面の赤光が突如として爆発的に膨れ上がった。高電圧の電流を流された電球のように、狂ったように2回点滅する。
そして――
「ボカン!」
木札が破裂した。
願力回路を強制遮断されたことで、護符の内部に蓄積されていたエネルギーが逃げ場を失ったのだ。暗赤色の破片が散弾のように彼の胸筋に突き刺さり、鮮血が瞬く間に黒い衣服を染め上げた。
「ぎゃあああああ!」
傷跡顔は豚を屠殺する時のような悲鳴を上げ、胸を押さえて地面に崩れ落ちた。指の隙間から血がドクドクと溢れ出す。
残りのゴロツキ2人は魂が飛び散るほど腰を抜かした。何が起きたのかさえ見えず、ただアニキの胸が突然爆発し、次の瞬間には血達磨になっていたのだ。
「ゆ、幽霊だぁぁぁ!」
2人は這う這うの体で大門から飛び出し、夜の闇へと消え去った。振り返る勇気すら持っていなかった。
チャン・ヨウシーは二階からゆっくりと降りてきた。足取りに焦りはない。彼は地面で痙攣している大男の前まで来ると、見下ろしてから身をかがめ、相手の血に染まった衣服の懐から折りたたまれた羊皮紙を抜き取った。
月光を頼りに、彼はその内容を確認する。
『合法調停回収文書(合法的な借金取り立て書)』
債権者:アンビル会。
債務者:イヴァン・ヒューズ。
回収事由:信仰税および付加利息の滞納、計金貨35枚。
最下部には暗赤色の印章が押されており、その印影ははっきりと判別できた――『教廷内務部、第三処』。
チャン・ヨウシーはその印章を長い間見つめ、その口元に徐々に冷徹な弧線が浮かび上がった。
「教廷がギャングに合法的な取り立てライセンスを発行し、そこからマージンを跳ね返らせ、ついでに汚い仕事をアウトソーシング(外注)しているわけか。実によくできたビジネスモデルだ」彼は文書を二つ折りにし、自分の懐にねじ込んだ。「不良債権パックの証券化だな。アンダーライング・アセット(原資産)は暴力的回収権で、上層を神聖不可侵な行政文書でラッピングしている。前世の世界なら、これを『構造化金融商品』と呼ぶ」
傷跡顔は苦痛に呻くばかりで、一言も発することができなかった。
チャン・ヨウシーは彼のふくらはぎを軽く蹴った。
「ブレントに伝えておけ。次、俺の右腕をショート(空売り)したくなったら、事前にデューデリジェンス(資産調査)をやっておけとな。彼の鉄砲玉が持っている教廷の護符は欠陥品だ。帳簿上の評価額は不当に高いが、実際のリスク・エクスポージャー(リスクの窓口)が極大だ」
「アドバイスしてやる」チャン・ヨウシーは一拍置いた。
「ポジションを全決済して、損切り(ロスカット)しろ、とな」
言い終えると、彼は傷跡顔の襟首を掴み、死んだ犬のように大門の外へと引きずっていき、裏庭の側溝へと投げ捨てた。
……
翌朝、チャン・ヨウシーは激しいドアのノック音で目を覚ました。
彼はあの灰色の革鎧を羽織り、入り口まで歩いていってドアの閂を外した。
門外には3人の人物が立っていた。
中央にいるのは、背が高く痩せた男で、教廷税務司の黒い長袍を纏い、鼻梁には金糸の片眼鏡をかけていた。レンズの奥の目は細長く、まるで顔の上で冬眠している2匹の蛇のようだった。彼は左手に金箔押しの羊皮紙を握り、右手には黒檀の権杖を携えている。
彼の背後には、銀色の軽鎧を着た聖騎士が2人、剣の柄に手をかけたまま、無表情で控えていた。
「イヴァン・ヒューズか?」痩せ型の男の声は、爪でガラスを引っ掻いたように甲高かった。
「そうだ」
「税務司高級監査官のフィッシャーだ」
男は権杖で胸元のバッジを軽く叩いた。「教廷内務部の命を受け、貴家の信仰税の滞納分を徴収に参った」
彼は金箔押しの羊皮紙を広げ、一切の感情を排したトーンで読み上げた。
「ヒューズ家は、神歴317年より、累積した信仰税の本金および延滞金、計金貨42枚を滞納している。『神聖税務法』第7章第3条に基づき、教廷は催告書の送達から3日以内に、滞納家族に対して資産の差し押さえ、貴族爵位の剥奪、および強制的な信仰オークションを実施する権利を有する」
フィッシャーは羊皮紙を収め、片眼鏡の奥の蛇のような目をわずかに細めた。「3日だ。1枚たりとも欠かすことは許されん」
チャン・ヨウシーは入り口に立ち、ドアの枠を遮るようにして、退く気配を見せなかった。
「教廷法典第127条に基づけば、」彼の声は極めて平穏だった。「選抜戦の出場選手は、大会期間中に資産凍結の保護を享受できる。いかなる税の追徴行為も、大会終了後でなければ執行できないはずだ」
フィッシャーの口元が引きつり、温度のない笑みを浮かべた。
「イヴァン少爷(若旦那)は法典をよく暗記しておられるようだ」彼は権杖で自分の手のひらを軽く叩いた。「残念ながら、あなたが勝ったのは予選の1試合のみだ。資産凍結保護の条項は、本戦に進出して初めて正式に発効する。予選の選手には、いかなる免責権も与えられない」
彼は身を前に乗り出し、片眼鏡がチャン・ヨウシーの鼻先につくほど顔を近づけ、声を極限まで落とした。
「3日だ。3日後のこの時間、金貨42枚が確認できなければ、この古城には封印のテープが貼られる。あなた、そしてその部屋の奥にいる……」彼はわざと言葉を切り、チャン・ヨウシーの肩越しに薄暗いリビングの奥へと視線を向けた。「メイドだろうが、愛人だろうが、あるいは他の何であろうが、一歩残らず街へと追い出されることになる」
チャン・ヨウシーは動かなかった。
しかし、身体の脇に置いた彼の指はわずかに強く握り込まれ、指の関節がごく小さな音を立てた。
フィッシャーは身を引き、長袍の襟元を整えると、踵を返して去っていった。2人の聖騎士がその後に続き、ブーツのヒールが青石の地面を叩く音が清脆に、そして冷淡に響き渡った。
チャン・ヨウシーは入り口に佇み、3人の背中が路地の角へ消えていくのを見送った。
早朝の風が彼に吹きつけ、ラストシティ特有の鉄錆の冷え込みを運んでくる。
背後からごく軽い足音が聞こえた。アナスタシアが彼の半歩後ろの位置まで歩いてきて、言葉を発することなく、ただ静かに佇んだ。彼女の影は朝日に長く引き延ばされ、チャン・ヨウシーの影と重なり合い、まるで音のない防壁のようになっていた。
チャン・ヨウシーは、彼女の髪から漂う淡い草木の清香を嗅ぎ取った。
その匂いは非常に清らかで、ラストシティの濁った空気とはおよそ不釣り合いだった。
彼の心の中のどこかの弦が、突如として優しく弾かれた。まるで静かな湖面に一粒の石が投げ込まれたかのように。しかし、そのさざ波が広がるよりも早く、識海の中の玉冊が猛然と震え、清らかな光が駆け抜けて、その心の揺らぎを強制的に死水へと押し潰した。
絶対的中立。
彼は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。再び目を開けた時、その瞳の奥にはすでに氷のような清明さが戻っていた。
「どうしたの?」アナスタシアが静かに尋ねた。
「何でもない」チャン・ヨウシーの声は安定していた。「ただ、我々の貸借対照表に、また一つ『緊急負債』が増えたと考えていただけだ」
彼は振り返って屋内へと戻っていった。歩みは速くなかったが、見る者の心を締め付けるような確信に満ちていた。
アナスタシアは入り口に立ち、彼の後ろ姿を見つめていた。そのエメラルド色の瞳に、言葉では言い表せない複雑な感情がよぎる。彼女は口を開けかけたが、最終的には何も言わず、ただ静かにドアを閉めた。
ドアが閉まるその瞬間、彼女は屋の中からチャン・ヨウシーが呟くのを聞いた。
「金貨42枚、期間は3日。新たなキャッシュフローを見つけるか、さもなければ闘技場でさらに2回勝ち進み、本戦への出場資格を毟り取るかだ」
まさにその時、ドアの隙間から一通の手紙が差し込まれた。
シーリングワックスで封印されており、暗赤色の蝋の上には交差する剣と天秤が刻印されている。
チャン・ヨウシーは身をかがめてそれを拾い上げ、開封した。便箋にはわずか数行の文字が、まるで剣先を墨に浸して書かれたかのように鋭い筆致で並んでいた。
『イヴァン・ヒューズ:
選抜戦第二回戦、明日正午、第三闘技場。
対戦相手:モリソン。
階級:第二階級の聖徒。
備考:教廷の外郭が育成したプロの戦闘員。未登録の聖遺物「血紋の短匕」を一振りを所持。』
チャン・ヨウシーは最後の一行を見つめ、口元をわずかに吊り上げた。
彼は便箋をアナスタシアに手渡し、自分自身にしか理解できないような冷徹さを声に宿した。
「どうやら元締め(教廷)は待ちきれないらしいな。俺を早々に爆倉(強制ロスカット)させたいわけだ」




