表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界王朝育成―アレキサンダー大王の末裔―  作者: Y・T
第二章 ローマ市民権の獲得
28/29

027 紀元前311年 軍功

ローマ軍がキミニウスの野でエトルリア連合軍に勝利した二日後、執政官クィントゥスは西へ軍を動かした。


目指すは、今回の反乱の急先鋒であり、エトルリア12都市の中でも一際ひときわ古い歴史と富を誇る都市タルクナ。


※タルクナはローマから北西におよそ九十キロ、キミニウスの野からは西へ約四十キロの位置にある。


ローマ軍は重装歩兵レギオンを先頭に丸三日間、休むことなく行軍を続けタルクナに到達した。


馬上のクィントゥスが汗を拭い、目の前に広がるタルクナの城壁を鋭い目で見据える。


「……さすが難攻不落と言われるタルクナだな。これは一筋縄ではいきそうにない」


タルクナの都市は、海岸線から数キロ内陸にある丘陵の上に都市が築かれていた。

丘陵の三方向は深い谷となっている天然の要塞で、さらに高さ十メートルを超える城壁に覆われていた。


副官ヘルニウスが圧倒的な存在感を放つ都市を見上げて舌を巻いた。


「確かにこれを落とすのは難しいかと……。閣下、どうされますか?」


「うむ。ひとまず軽く攻める。……敵の士気が高ければ都市攻略を諦め、周囲の砦を落とすことに切り替える。砦や村々を略奪する方が兵士たちの士気も上がるであろう」


「閣下の申される通りかと」


次の日、ローマ軍はタルクナを攻めたが守りは強固だった。

そのため執政官のクィントゥスは即座に都市攻略を諦めた。


この時代のローマ軍は攻城兵器が乏しく、投石器がまだないためハシゴをかけて城壁を登ろうとした。だが城壁の上には弓兵や投石兵が隙間なく配置されており、攻城戦を続ければ甚大な被害が出るのは火を見るよりも明らかだった。



ーーーー

夕刻。

タルクナの城壁から少し離れた丘の上に築かれたローマ軍の野営地。


軍議を終えたセストゥスが、軽い足取りで戻ってきた。

整列をして待っていたヘラクレスたちの前で立ち止まる。


「……軍議の結果、明日からは周辺にあるタルクナの砦を落とすことになった」


ヘラクレスが一歩前に出る。


「砦の攻略……。都市はもう攻めないのですか?」


セストゥスは鼻で笑った。


「攻められるものか、あの城壁を見ただろう。無理に梯子を登れば、登る前に半数は死ぬ。執政官殿もそれを理解しておられる」


ヘラクレスは静かに頷いた。


「それで、周囲の砦を落とすと……」


「そうだ。砦を落とし、村を焼き、畑を荒らす。そうやってタルクナの喉元を締め上げる。都市そのものを攻めるより、よほど確実だ。それに……我々の懐も潤う」


セストゥスがニヤリと笑うと、熟練の兵たちが『そうだそうだ』と笑い声をあげた。


「お前たちは初めての略奪だから、最初に言っておくぞ」


セストゥスの声が急に低くなり、周囲の空気が張りつめた。


「村や砦で奪った物を個人の懐に入れてはならん。戦利品はすべて“ローマ軍の財”だ。勝手に持ち帰れば軍法会議、最悪は鞭打ちの上で追放だ」


レオニダスが眉をひそめる。


「……では、我々の懐には入らないのですか?」


セストゥスはあごでタルクナの方向を示した。


「タルクナとの戦が終わった後だ。

 執政官閣下が“戦利品の分配”を宣言し、階級に応じて取り分が決まる。

 百人隊長、副官、重装歩兵、軽歩兵……それぞれに定められた割合がある」


そこでセストゥスは、わざと間を置いた。


「さらに――」


ヘラクレスたちが息を呑む。


「特別な功績を挙げた者には、別の褒賞が与えられる。

 これは階級とは関係ない。

 勇敢な行動をした者には略奪品の中から金貨、装飾品、腕輪アルミッラエ、胸飾り(ファレラエ)、など“特別分配”が行われる」


ヘラクレスが目を見開く。


「特別分配……?」


「戦利品の中から“個人の功績に応じて”執政官が直接与える褒賞だ。

 ヘラクレスは既に一度貰っている。決戦の翌日、執政官殿から受けた褒賞のことだ」


「あれですか……」


セストゥスはヘラクレスをまっすぐに見た。


「期待外れだったか? 心配するな、これらの褒賞は前座にすぎない。戦に勝ってローマに戻り、民衆に戦利品を見せたあとに本当の分配が配られる」


「なるほど、現地での褒賞は、兵の不満を溜めぬためのとりあえずの褒美なのですね」


「そういうことだ。それに――」


セストゥスはヘラクレスを指さした。


「お前はすでに功績を一つ挙げた。

 もう一つ“大きな功績”を挙げれば、ローマ市民権が与えられるだろう」


「本当ですか!? そのためにはどのような功績を挙げればいいのでしょうか?」


「どの軍でもほぼ同じだが、城攻めで城壁の上に一番乗りする。城門を開ける。敵の将軍の首を取る……そういった“誰の目にも明らかな武勲”だ」


「分かりました。次の砦で頑張ります!」


セストゥスは軽く笑った。


「まあ、気を張るな。小さな砦での働きは武勲には数えられん、大きな砦だけだ」


そしてヘラクレスの肩を叩く。


「お前が狙うべきは、そういう“大きな砦”だ。そこで一つ派手にやれば、誰の目にも功績として残る」



ーーーーーーーー

大和猛が《N‑Home》に訊ねる。


「ローマ市民権って、何年かいたら貰えるよな? ここで無理する必要ないだろ?」


《いいえ、この時代は“年数”では市民権は得られません。

 どれだけ長くローマに仕えても、功績が無ければ永遠に非市民のままです》


「マジか!」


《はい。年数で市民権が得られるようになるのは、帝政ローマの時代──

 アウグストゥス皇帝(紀元前27年〜紀元14年)の改革以降です。

 補助兵は二十五年従軍すれば、自動的に市民権を得られるようになりました》 


「25年……長いな。まあ、いいあと略奪って儲かるのか?」


《はい。ローマ軍では給金も支給されてますが、戦争で得られる“戦利品の分配”は給金の十倍以上になることもあります。兵士たちにとっては、戦争こそ最大の収入源です》


「ちょっと待て……ヘラクレスたち、給料なんて貰ってたか?」


《はい。この時代は銀貨の『デナリウス』ではなく、青銅の塊の『アサ』になります。

1日あたり“3アサ”──青銅3オンス(約80グラム)の塊が支給されていました。ただし、毎日の食費の小麦代、衣服や武具の修理費などが天引きされるため、手元に残る現金はごくわずかです》


「ほとんど残らない? じゃあもし全額残った場合は金貨何枚くらいになるんだ?」


《ヘラクレス様は副官ですので給料は一般の2倍になります。仮に全額が残った場合は年に約2000アサ。ゲーム上、ローマでは金貨が流通していないため、ギリシャ相場で青銅を金に換算します──その場合、金貨4枚分ほどになります。したがってポイント換算では約4万ポイントですね》


「たった4万ポイントか。じゃあ略奪ならどのくらいの収入だ?」


《先ほどもいいましたが、運が良ければ給料の10倍以上稼げることもありますよ》


「つまりヘラクレスだと金貨に直して約40枚……。少ねえな、投資額が全然回収できねえじゃん」


《主人様がバルシネ様の貯蓄を使い切ったのが悪いのです。ご利用は計画的にお願いしますね!》


「いま言っても遅いわ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ