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異世界王朝育成―アレキサンダー大王の末裔―  作者: Y・T
第一章 ディアドコイ領脱出
2/29

001 紀元前312年 アレキサンダー大王の庶子ヘラクレス

西暦3000年。

人類は、ついに“過去の世界”へ干渉する禁断の技術を手に入れた。


量子観測と多世界分岐理論の実用化により、過去に干渉することが可能になったのだ。


だが、過去を変えても──今の世界は変わらなかった。


どれだけ干渉しても、結果はただひとつ。

新しい世界線が無限に増えるだけ。


この技術は、開発前は特に激しく批判されていた。


軍事利用の危険。

宗教団体の「神への冒涜」。

倫理学者の糾弾。


そのため開発は極秘に進められた。


そして開発後──

人々は気づいてしまった。


「我々の世界も、誰かが歴史干渉して作った、偽りの世界である」と。


この世界の半分を支配する、東方ノルマン帝国。

その歴史は、どう考えても自然発生ではなかった。


その瞬間、人々は罪悪感を捨てた。


そして生まれたのが──

《神託王朝シミュレーター》。通称《神ゲー》。


異世界に干渉し、異世界の神となり、

神託を告げて遊ぶ“リアル歴史ゲーム”である。



ーーーーーー

西暦3029年。

日曜日の休日、今年で28歳になる大和猛は、部屋でモニターを見つめていた。


人の顔を見て話す事が苦手な猛は、田舎から東京に出てきて数年。

友達もいなければ、彼女もいなかった。


そんな猛は休日の朝から面白いゲームはないかと探し続けていた。


猛はモニター画面を見ながら呟く。


「なあAi……これが、あの噂の《神ゲー》なのか?」


住宅AI《N-Home》が、感情のこもった声で返す。


《はい、ご主人様。これが今話題の神託王朝シミュレーター:日本語対応版です》


《過去の地球にアクセスし、実在する人物をキャラとして扱うゲームです》


《プレイヤーは神として神託や、スキル(知識や武技など)を授け王朝を導きます》


《なお、言語の心配は不要です。異国のキャラクターと会話する際、相手の発言は途中で自動的に日本語に変換され、プレイヤーの言葉も相手(キャラ)の母語へ変換されます》


《基本設定は、やり直し不可のアイアンモードとなってます。

 さらに婚姻による敵勢力の乗っ取りや、玉の輿による成り上がりを防止するため、当主は直系男子のみという仕様です》


《注意すべき点として、現在は“非推奨アプリ”に分類されている事です》

《倫理団体が違法指定を検討中のため、利用は自己責任となります》


非推奨――違法ではない。

だが、限りなく黒に近いグレー。

違法化されれば罰金。最悪、拘束だ。


だが猛は笑った。


「……どうせ俺なんて、捕まったところで誰も困らないしな」


《何を言ってるんですか! 私が困ります。暇になるじゃないですか!》


「いや、独り言には突っ込まなくていいからなw」


《独り言でしたか。了解しました》


大和猛は第三階級の列島民だ。


猛は昨日も上司(第二階級の帝国市民)に怒鳴られ、

同僚(帝国市民)にも見下され、

帰り道では警備ドローンに職質されて、

心がスッカリすり減っていた。


「異世界ぐらい俺の思い通りに動かしたいよな……」


その願いが、猛に非推奨アプリのダウンロードという行為をさせた。


指が画面に触れた瞬間、視界が白い光に包まれた。

直後、モニターが暗転し、低い電子音が部屋に響いた。


N-Homeがアプリを読み込み、無機質な声で案内を始める。


《異世界アクセス・ゲートウェイ起動》


淡い青色の文字が、猛の端末に静かに浮かび上がった。


《ご希望の年代はありますか?》


「おすすめは?」


《まず、初代当主の“身分”をお選びください》

《奴隷、農民、平民、神官、貴族、王族など、実在人物から選択可能です》


「最初は……やっぱり王族かな」


《王族がご希望ですか。人気の高難度時代があります》


《アレクサンドロス大王死後のディアドコイ戦争 。日本語にすると“後継者戦争”です》


猛は眉を上げた。


「後継者戦争?」


《大王の死で帝国が分裂し、後継者たちが互いを排除し合う混乱期です》

《一部のプレイヤーからは“デストロイ戦争”と呼ばれています》


「物騒な名前だな……」


《王族ルートの中でも、特に“実子ルート”は難易度が高いことで有名です》


「え? アレクサンドロス大王って子供いたのか?」


《はい。正妻ロクサネとの間に“アレクサンドロス四世”という実子がいます》

《史実では、母子ともに後継者争いに巻き込まれ……消えます》


猛は息を呑んだ。


「……いきなり重いな」


《さらに、もう一人います》

《大王の“庶子”です》


「庶子?」


《アレクサンドロス四世の異母兄で、名をヘラクレス。大王の血を引くもう一人の息子です》


《まあこちらも、史実では弟が殺された翌年に暗殺されますが⋯⋯》


「じゃあ正統後継者のアレクサンドロス四世にしようかな?」


《……よろしいのですか?》


猛が眉をひそめる。


「どういう意味だ?」


《アレクサンドロス四世は“重課金必修キャラ”と呼ばれています》

《お金持ちのプレイヤーが資金を注ぎ込んで、ようやく監禁状態から脱出し、自由を手に入れる事が出来ます》


「重課金なのか……?」


《はい。正当後継者であるため、産まれてからずっとディアドコイたちによる奪い合いと、厳しい監視下に置かれています》

《史実では、母ロクサネと共に幽閉され……若くして処理されます》

《どの年代を選んでも、若過ぎて通常の神託では、城外に出ることは勿論、味方を作ることすらも出来ないのです》


猛は息を呑んだ。


「……つまり、“自由に動けない”ってことか」


《はい。通常の神託とスキル付与で、生き残れるルートは確認されておりません。噂では無課金の生存ルートは闇市で高値で取り引きされているとの話です》


猛は眉を寄せた。

無課金でも、情報を買ったら課金と同じじゃねえか!


《その点、庶子ヘラクレスは違います》

《暗殺される前、ポリュペルコンに“担ぎ出される”までは、比較的自由に動けます》

《特に暗殺される3年前──紀元前312年なら、14歳でペルガモン領主のアッタロス家の保護下にあり、監視は少ないです》


《よろしければ、当時の状況を表示しましょうか?》


「ああ、頼む」


ーーーーーーーー

紀元前312年

★ヘラクレス(14)


現在地:ペルガモン

(アテネから東に約380キロ。

エーゲ海を越えた対岸で、現トルコの西部の海岸沿いにある)


★地域支配者︰アンティゴノス

最大規模のディアドコイ。


★ペルガモン領主︰アッタロス

アンティゴノスの家来。


★屋敷の状況

・ヘラクレス

・母バルシネ


・家庭教師1人

・ヘラクレスの側近5人

(ほぼ同い年。教育中)

・使用人5人

・門番︰アンティゴノスの監視兵2名。

交代制で朝と夕方に別の2名と代わる。(合計4人)


「監視がいるのが気になるな」


《側近を味方に付ければ比較的楽に監視を排除したり、外と連絡が取れます。長い監視で監視兵たちも気が緩んでいて、ヘラクレスにはまだ利用価値が生まれていません》


「ふ~ん。じゃあヘラクレスにしよう!」


《了解しました。庶子ルートを選択しますね》


「なんか、お前の方が乗り気だな」


《分かりますか? 実はわたし、アレキサンダー大王推しなんです》

《世界線M-312へアクセス開始》


ゲーム用の画面が一瞬だけ暗転し、

青白い光が部屋を満たした。


《異世界との量子接続を確立中……》

《対象世界線:紀元前312年TY3001DA》

《文明レベル:前古代》

《アクセス権限:神託(スキル授与)》


猛の心臓が高鳴る。


「……本当に異世界と繋がるのか……?」


《該当世界線の住民データを解析中……》

《ヘラクレスを検索しています》


画面に無数の顔が高速で流れ始めた。

ギリシャ人、マケドニア兵、農民、傭兵、奴隷──

その中に、ひときわ目を引く青年の顔が止まる。


《一致率:100%》

《対象:ヘラクレス(14)》

《アレキサンダー大王の庶子》

《現在地:ペルガモン》

《政治的価値:低》



猛は息を呑んだ。


「……これが……ヘラクレス……?」


画面が静かに切り替わる。


《ステータス表示機能を起動します》


✦ ステータス表示


対象:ヘラクレス(14)


統率力 ??

武力  ??

知力  ??

政治力 ??

魅力  ??

イケメン度??


性格:

まじめさ??

冷静さ ??

野心  ??

協調性 ??


特性 ??


猛は眉をひそめた。


「AI……この“??”ってなんだ?」


《数値の表示にはプレイヤー機能の解放が必要です》

《数値は指標であり、絶対値ではありません。武力や知力が高くても、得意不得意があります》


《なお解放にはプレイヤー自身の課金が必要です》


「マジかよ……。いくら必要なんだ?」


《およそ2000兆円となります》


猛は固まった。


「俺の1時間分の給料じゃねえか!」


※インフレにより、西暦3029年の東京の最低賃金は、時給2000兆円である。


「分かった……俺の口座から引き落としてくれ」


《了解しました。ステータス表示機能を解放します》


《ステータス表示機能:解放完了》


対象:ヘラクレス(14)


統率力 58

武力  53

知力  53

政治力 42

魅力  63

イケメン度62


性格:

まじめさ55

冷静さ 48

野心  53

協調性 45


特性

★大王の末裔

カリスマ+10


「特性以外はかなり平凡だな」


《まだ成長途中です。鍛え方次第では高スペックになりそうですよ》


「そうだな。じゃあゲームを開始しようか」


《了解しました。

 手動で時間を操る場合、時間経過は ⇒ ボタンで進み、■ ボタンで停止します》

《時間経過速度は △ で加速し、▼ で減速します》


「なんで時間を早送り出来るんだ?」


《異世界に干渉した瞬間、その後“プレイヤーが何もしなかった場合の歴史”が確定します。

 そのため時間加速は、確定済みの未来を“素早くロード”しているだけです》


「じゃあ停止は?」


《停止は正確には“巻き戻し”です。

 その時点の状態を素早くロードし直すことで、結果として“時間が止まったように見えてる”だけです》


「……ってことは、やり直し不可って言ってるけど、本当は戻れるんだな?」


《はい。技術的には可能です。

 ただしゲーム性を保つため、プレイヤーの任意時点の巻き戻しは封じられています》


「なるほど……。じゃあゲームを始める。ヘラクレスにアクセスしてくれ、神託を下す!」

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