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異世界王朝育成―アレキサンダー大王の末裔―  作者: Y・T
第一章 ディアドコイ領脱出
12/29

011 紀元前312年 見習い神

コンコン

船室の扉がノックされる。


「……ヘラクレス様。兄のカシオスを連れてきました。入室してもよろしいでしょうか」


ヘラクレスがメナンドロスへ目を向け、わずかに頷いた。


メナンドロスが扉を開くと、カシオスが革鎧をわずかに軋ませながら一歩、室内へ入った。潮風の匂いと、戦場を駆け抜けてきた男の熱が、狭い船室に静かに満ちる。


カシオスはヘラクレスの前に進み出ると、拳を胸に当て、深く膝をついた。


「ヘラクレス様。ステファノス家の長男カシオス、神託に従い、これより貴方様の剣としてお仕えいたします」


その横で、ルカも同じ姿勢で膝をつく。


「ステファノス家の次男ルカ。兄と共に、ヘラクレス様にお仕えいたします」


ヘラクレスは進み出て、膝をつく兄弟の手を静かに取った。両手にわずかに力を込め、短く言葉を落とす。


「……頼んだぞ」


カシオスとルカは深く頭を垂れた。その沈黙の中で、三人の間に交わされたものは、言葉よりも確かな“従属と責任”の契りだった。


立ち上がったカシオスが、表情を引き締め、言いづらそうに告げる。


「ヘラクレス様、船員にはヘラクレス様の正体は教えておりません。父がお世話になった没落貴族の方だと伝えております。ローマまでは、船員の前で我が家の客人として接する罪をお許し下さい」


カシオスが再び深く頭を下げると、ヘラクレスは迷いなく頷いた。


「……それは仕方あるまい。構わぬ、許そう」


「感謝いたします。……それと、兵舎の兵士二人は無事に倒しました。また遺体は隠し、邸宅の門も固く閉じて参りましたので、数日は、ヘラクレス様が屋敷を抜け出されたことに気づかれないはずです」


ーーー

《N-Home》が大和猛に告げる。

《ご主人様。この場にいる人たちをタケルス教の信者に勧誘してはいかがでしょうか?》


その言葉で、猛は思い出したようにAIのモニターを見た。


「そうだった。スキル枠を増やすのには信者が必要だったな」


《それだけではありません。

 信者数が10名になると、神としての特性が得られるんですよ》

「そうなのか?」


猛はマイクをオンにした。


――ヘラクレス。聞こえるか。


ヘラクレスが一瞬ピクリと体を強張らせる。


「っ……はい。聞こえます、タケルス様」


――新しい家臣にも、俺を信仰するよう伝えてくれ。


「承知しました」


ヘラクレスは顔を上げ、静かに兄弟へ向き直る。


「神託が下った。カシオス、ルカ。タケルス様は、お前たちの信仰を求めておいでだ。……タケルス様に仕えてくれないか」


カシオスとルカは驚き、顔を見合わせ、頷いた。


「神託とあれば、我ら兄弟よろこんでタケルス様にお仕えします」

「タケルス様にお仕えします」


カシオスとルカが誓いを立てた瞬間、猛のモニターに新たな通知が走る。


《タケルス教の信者数が9名になりました》


「よし、あと一人で特性の解放だな」


――ヘラクレス、次はピュロスの妹たちとテッサの娘たちだ。あの子たちも俺の信者にするぞ。


猛の神託を受けたヘラクレスが、後ろを振り返る。

「ピュロス、テッサ、神託だ。タケルス神はお前たちの家族の信仰をお望みだ」


ヘラクレスは視線を下げた。

そこには、テッサの影に隠れて震える二人の少女がいた。姉のイリス(8歳)と、妹のセレーネ(6歳)だ。


ヘラクレスは二人の前に膝をつき、目線を合わせた。


「イリス、セレーネ。……大丈夫だよ。タケルス神さまはとても優しくて、いい神さまなんだ」


ヘラクレスの穏やかな声に、二人は恐る恐る顔を上げた。


「……本当? ヘラクレス様」


妹のセレーネが、まだ不安そうに尋ねる。


「ああ、約束する。……タケルス様という、とても強くて優しい神様が私たちを守ってくださっているんだ。イリスもセレーネも、タケルス様にお祈りをしてくれるかい?」


テッサが娘たちの背中をそっと押し、ヘラクレスと共に跪いた。


「……さあ、二人とも。ヘラクレス様を助けてくださった神様ですよ。一緒にお仕えしましょう」


母の言葉に導かれ、イリスとセレーネは小さな手を胸の前で合わせた。

ピュロスの妹エレーネと弟のティオンも跪く。


「……タケルスさま。どうか、お守りください」

「……お守りください」

「タケルス様にお仕えします」

「お仕えします」


《タケルス教の信者数が13名になりました》


《見習い神の称号を得ました》

《神の特性が解放されました》


《預言者のスキル枠が6枠に増加しました》

《使用スキル枠:2/6》

《所持スキル

【威圧(レベル4)熟練隊長の威圧】

【真実の瞳(レベル3)商人】》

《残りポイント──124万》


《ご主人さま。神の特性は何されますか? 》


「そうだな、お勧めを表示してくれ」


《了解しました。有名な神々をモチーフにした特性を表示します》

ーーーーーーーーーーーーー

①王権・支配系(ゼウス/ユピテル)

忠誠心+1

②戦闘・武勇系(アレス/マルス)

統率・武力、武技+1

③知略・戦術系(アテナ/ミネルヴァ)

知力、統率、戦術、策略+1

④ 愛・繁殖系(アフロディテ/ウェヌス)

繁殖力+5%

⑤ 豊穣・大地系(デメテル/ケレス)

豊作確率+5%

⑥ 運命・幸運系(アポロン/ポイボス)

能力の高い子供が生まれる確率+5%

ーーーーーーーーーーーーー


《数値は預言者の効果数値です。信者の場合は、数値の四分の一の効果になります》


「なんかショボいな。預言者でも微妙な数値なのに四分の一になったらゴミじゃないか……」


《これは見習い神の効果数値です。

 信者の数による称号と、数値の変化の例を表示します》

ーーーーーーーーーーーーー

信者10名 →見習い神

確率+5%


信者100名 →駆け出し神

確率+10%


信者1000名 →新米の神

確率+15%


信者1万名 →弱小の神

確率+20%


信者10万名 →普通の神

確率+30%


信者100万名 →有名な神

確率+50%


信者1000万名 →高名な神

確率+70%


信者1億名 →最高神

確率+100%


ーーーーーーーーーーーーー


「余計に悩むな。これって最大数値は見習い神の20倍ってことだろ?」


《はい。最終効果で考えた場合、以下の中から選ぶ事になります》


ーーーーーーーーーー

忠誠+20。

統率・武力、武技+20。

知力、戦術、策略+20。

豊作確率+100%

繁殖力+100%

能力の高い子供が生まれる確率+100%

ーーーーーーーーーー


「う~ん。これは悩むな、……後日でもいいか?」


《はい。大丈夫です》


《ではスキル枠が空いているので、スキルを取得されますか?》


「いや、ローマでも必要になるって攻略法に書いてるからまだいい」


《ご主人様。攻略法がうざいです。……見るのをやめませんか?》


「馬鹿野郎! 俺が自力でやってたらヘラクレスはとっくに死んでるぞ。テオドロスって商人が恩を感じてるとか、船を持ってるとか、分かる訳ねえだろ!」


《⋯⋯そうですね。その攻略法が使えるのは数年だけですし、我慢します》




ーーーーーーーーーー


■6月6日。午前10時

ベルガモン領主、アッタロスの執務室


アッタロスがワインを口に運び、喉を潤していたその時、守備隊長ガノンが血相を変えて駆け込んできた。


「アッタロス様……大事にございます。ヘラクレス様の監視兵からの定時報告が途絶えたため兵を差し向けましたところ──」


「……何があった。申せ」


アッタロスは杯を手に持ったまま、不機嫌に顔を歪めた。


「兵舎の二名が、何者かに始末されておりました! 急ぎヘラクレス様の屋敷へ兵を向かわせましたが、門は内側から固く閉ざされ……壁を越えて侵入した者が、これを発見いたしました」


ガノンが差し出したのは、屋敷に残されていた“空の宝石箱”。


「屋敷の中には、こちらのスパイであった教師ディオゲネスや側近フィリッポス、そして使用人2人までもが猿ぐつわを噛まされ、縛られたまま転がっておりました。さらに監視兵のドリスたちは殺害され、ヘラクレス様とバルシネ様の姿はどこにも……」


ガシャン!


銀の杯が床に叩きつけられ、赤いワインが血のように絨毯へ広がる。


「……消えただと? どこへ行ったと言うのだ! マケドニアのカッサンドロスか……エジプトのプトレマイオスか!?」


「ディオゲネス先生の話では、どこかの村へ逃げると……。こちらはヘラクレス様の書置きにございます」


守備隊長のガノンは二通の書状を差し出した。宛先はアンティゴノスとアッタロスだった。


アッタロスは自分宛の書状を開き、目を走らせる。


そこには──

“王位には興味がない。名も知らぬ村で静かに暮らすので、追わないでほしい”

と記されていた。


アッタロスは書状を握りしめ、怒りで震えた。


「……名も知らぬ村で過ごすだと? ふざけるな。大王の血筋が、田舎でのんびり過ごすなど許されん……!」


アッタロスはもう一通、アンティゴノス宛の封書を忌々しげに睨む。


「これをアンティゴノス様に届けろと言うのか? 『ヘラクレス殿は村で隠棲する道を選ばれました。王位は望まぬそうです』と? そのような事を言ってみろ、私が殺されるわ!! ヘラクレスの行方は分からぬのか!」


「はい。監視しやすいよう、町外れの寂れた場所に住ませたため、目撃者がおりません。町に向かう馬車を見たと言う者は居たのですが⋯⋯それがヘラクレス様かどうかまでは⋯⋯」


アッタロスは机上に地図を乱暴に広げた。


「追っ手を差し向けろ! 周辺の村々はもちろん、北の山も南の港も、蟻一匹通さぬ網を張れ。奴を見つけ出し、再び檻の中に引きずり戻すのだ!!」


アッタロスの顔は赤くなり、瞳は怒りに満ちていた。

だが、その瞳にはまだ希望が残っていた。


(世間知らずのガキと女だ。捕まえられる可能性は十分ある。

問題は、兵士たちがヘラクレスの顔を知られていない事だ!)



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