第38話 次の卒業式は第二ボタンじゃなくて──結婚指輪をくださいね♡
放課後。
廊下のずっと奥にある空き教室で、俺は三森と向き合っていた。
「も〜、なんですか~? こ〜んな人気のない場所に連れ出すなんて~、もしや良からぬことでも考えてます?」
「良からぬことではないけど……この間の告白のことで、話が」
「あっ!!! まさかとーまくん、人目がないのを良いことに、あたしに襲いかかるつもりじゃ……!」
「襲わねえよ」
三森はわざとらしく身体を震わせ2、3歩後ずさる。
こいつは俺を何だと思ってるんだ……?
「でもよく考えたら。童貞のとーまくんにそんな度胸あるわけないか」
「いや童貞は関係ないだろ」
「あ~あ。せっかく襲われた時に備えて、眼鏡も外してきたのに~」
またいらぬ備えを……けど言われてみれば、久しぶりに眼鏡無しの三森を見た気がする。改めて見るとやっぱり目が大きい。
ついでに童貞いじりも久しぶりだ。
「はぁ。それで本題だけど」
「……聞きたくないです」
「えっ?」
「手、貸してください」
「あ、うん」
俺が三森に手を開くと、三森はポトリと小さなボタンを落とす。
これって……。
「とーまくんにもらった、第二ボタンです。もう必要ないので返しますね」
「ど、どういうこと?」
「この間のプロポーズ、キャンセルさせてください!」
三森が深々と頭を下げる。
……だめだ、理解が追いつかない。プロポーズキャンセルって、えっ?
「あの」
「……今朝とーまくん、花守先輩と怪しい感じで話してましたよね?」
「怪しくはないけど……なんで知ってるの?」
「ふっふーん。とーまくんの行動は、すべてGPSで把握済みです」
ドヤーッとした三森の顔。え、怖い。
「まじで言ってる?」
「嘘です。普通に家から尾行しました」
「いやそれも怖えよ」
今日俺、学校着いたの始業1時間前だぞ。いつから張ってたんだよ。
「まあそれ見てたらね~、だいたいわかりますよ」
「はぁ」
「高校デビューするにあたって、伊達に人間観察してませんからね。好きな人の考えていることくらい……お見通しです」
ニヤッと笑った三森だが、その目は涙を堪えているようにも見えた。
「でも俺、まだ陽菜と付き合ったわけじゃ」
「そんなの、わかってますよ──!」
突然。
三森が抱きつき、俺の胸に顔をうずめた。二つに結んだ髪から、フルーティーな甘い香りが鼻をつく。
「ちょっ──三森!?」
「……どうせ先輩のことだから……きっと花守先輩に追いつけるまで頑張るとか……そんな感じなんですよね……?」
「それは──」
「そんなことしなくても……あたしがずっと……とーまくんの隣にいてあげるのに……」
嗚咽交じりの涙を、三森は必死に搾り出していた。
俺を抱く力も強くなり、三森から押し付けられた胸の感触は柔らくて、俺はどこか安心感さえ覚えていた。
「──はいっ! 巨乳大好き非モテ童貞とーまくんのご褒美タイムは終了で~す」
「……はい?」
急に悪口始まったぞ。
仮にも一度はプロポーズした相手のはずなのに。
「勘違いしないでくださいね! あたしはとーまくんを諦めたわけじゃありませんから。というかむしろチャンスです」
顔を上げた三森は、涙で目は充血していたけど、いつもの悪戯っぽい表情に戻っていた。
「チャンス?」
「はい、大チャンスです! 氷護先輩は今年で卒業だし、花守先輩はのこのこ海外に旅立つそうですからね。こんなの残されたあたしの一人勝ち確定演出じゃないですか~」
そうか。来年の今頃は、2人ともこの学校にはいない。
会えるのは三森だけなんだ。
「確定演出、か?」
「とーまくんが花守先輩と何を約束したのかは知りませんけどね。残りの高校生活で、他の女なんてど~でもよくなるくらい、とーまくんをメロメロにしてあげますから」
そして三森は最後に、上目遣いで俺の顔を覗き込んだ。
「次の卒業式は第二ボタンじゃなくて──結婚指輪をくださいね♡」




