『二尾』
「義経君!?」
稲光と轟音が同時に発生した爆発にも等しい衝撃に、政光は背後を振り返る。
鳥居の周囲から立ち上る水蒸気の中、ケガ一つしていない義経の姿が見えた。
義経は困惑しつつも鳥居が落雷から彼を守ってくれたのだと理解した。
「ちっ!鳥居が奴を護ったのか!?」
妖狐は再び義経に向けて雷を落とす、しかし雷はまたもや鳥居に落雷した瞬間にその膨大なエネルギーは大地へと吸収された。普通ではあり得ない、神の力を借りて鳥居が避雷針の役目を果たしたのだ。
「那須温泉神社様、感謝いたします!」
神の加護を得たと理解した義経は鳥居に守られながら、再び弓を引いた。
放たれた矢は寸分狂わず再び妖狐の胸元に迫り、避けようとした妖狐の五衣唐衣裳の袖を貫いた。袖を貫通した後に大地に刺さった矢を見、信じられない物を見たかのような表情をした妖狐は、激高した。
「この下郎めが!許さん!」
妖狐は五衣唐衣裳の姿を捨て去り、大地に両の手を着いたかと思うと瞬く間に「二尾」の正体を現し、義経目掛け岩から岩へ飛び、疾走した。
「妙な加護を乗せた矢で私を射るとは!!」
神社への登り路を矢の如く駆けて来る妖狐に対し、義経は弓を足元に置いた後、鳥居の陰に手を伸ばす。正面から妖狐が飛び掛かってくるのを見極め、手にした刀を鞘から抜き、上段に構えた後に、振るう。
「!?この男、刀を使うのか!?」
妖狐は直前で進路を変え、刀を寸前で躱しそのまま義経の脇を抜ける。刀の物打ちを外し切っ先だけが妖狐に辛うじて当たったが、その強靭な毛皮に阻まれて傷を付ける事すら出来なかった。
「しまった!?」
義経は焦り振り向く、討ち損じた事に焦ったのではなく、妖狐の進路の先に弥生達が居る事に気付き、その事実と最悪の結果に全身から血の気が引いた。
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妖狐は義経の脇を擦り抜けた先に目的の『器』が居る事に気付いた。
「好機!」
妖狐は目標を『器』に定め、矢のような速さで弥生に迫る。彩音が妖狐に気付き、弥生を背に庇い「管狐」を妖狐に放った。自らに群れる「管狐」を蹴散らし、目標の驚愕する表情がはっきり解る距離まで来た時、妖狐は衝撃によって進路を反らされた。
妖狐を弾いた物、それは弥生を護らんとする三匹の金色の「オサキ」だった。
「全く!邪魔な『御先』めが!」
見かけに寄らない強力な力を持つ『御先』に手古摺り、妖狐は目標から距離を取り、『御先』を睨みつける。「御先」も弥生を背後にして妖狐を威嚇する。
『忌々しい『御先』め!先にあの3人を喰らわねば此奴らの相手は厳しいか!?』
仮にも『九尾』の体毛から生を受けた妖だけの事は有り、本来の力を失っている今の我が身では骨の折れる相手だ、と、妖狐は再確認する。
あの3人の内の1人を倒せば総崩れするのは間違いない。一人ずつ息の根を読めて、全員を喰らって力を増せば「御先」をあしらう事も容易かろう。妖狐がそう考えていると耳の傍を矢が霞めた。
『あの鳥居の男は面倒じゃな、刀の腕も弓も侮れんものがある!』
元居た殺生石目指して大地を駆けながら、妖狐は刀を構える政光と五月を視た。
男の方の構えもなかなか堂に入っている、大して女の方は刀を持った事が無いのが一目で判る程に構えがなっていない。妖狐は五月を見てにやりと嗤い、
『それならあの女から喰ろうて呉れよう!』
「光の矢」を五月に落としながら、彼女の元へと疾走する。
「五月さん!?刀、いや、まさか武器全般を使った事ないのか!?」
鳥居の義経からの援護の矢が飛んでくるが、なまじ正確なだけに射られた直後に移動すれば躱すのは容易い。妖狐は次々と射られる矢を躱しつつ岩場を駆ける。
明らかに刀を持て余している五月を目掛け、「光の矢」を放つ。
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己が頭上から降り注ぐ「光の矢」を避けながら五月は妖狐が自分の方へ突っ込んでくるのが見えた。改めて刀を構えるが、突っ込んでくる妖狐に対しダメージを与えるイメージが全く沸かない事に困惑する。が、妖狐は既に目前に迫る。
「それなら!」
五月は刀を左手に持ったまま、妖狐を避けつつ大きく後方に引いた右の拳を妖狐目掛けて打ち付けた。義経の援護の矢に気付いた妖狐が僅かに避けたため、その拳は妖狐の肩口に当たりはしたが、その毛並みに弾かれて妖狐へ与えたダメージは極少だった。
『やはり、この女、与し易し!』
五月の援護に入ろうとする政光に「光の矢」を落としてその行動の邪魔をしつつ五月に対し「光の矢」を落としながら牙を剥いて襲い掛かる。五月の振るう刀は楽々と躱すが、後方から放たれた矢に行動を中断され一旦距離を置く。
『全く忌々しい弓使いめ!しかし、もう残りの矢はあるまい!?』
鳥居の男の横を擦り抜けた時に妖狐は見た。男の矢筒には18本の矢が有った。それがこの戦闘の間に次々と消耗されて、今のが最後の一本だったはずだ。
それが証拠に妖狐は殺生石の上にゆったりと佇む、絶好の的となった妖狐に対し男の弓は一切沈黙をしたままだ、これで男の援護は無い。妖狐は勝利を確信する。
「さぁ、邪魔な矢はもう無いぞ。ゆっくりと一人ずつ喰ろうてく・・・」
妖狐の勝利宣言を中断させたのは勢い良く飛んできた、地蔵仏だった。
五月の投げた地蔵を辛うじて躱した妖狐は予想外の威力に驚く。先ほど褒姒と若藻に大ダメージを与えた時より更に威力が増しているように感じる。
「地蔵まで私に逆らうか!?」
妖狐の怒りの度合いを表わすように「光の矢」が妖狐の周囲に派手に降り注いだ。




