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特定非営利活動法人 アマツキツネ 「ルナティックハウンド」  作者: 涼城 鈴那
信楽 弥生

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藻女(みくずめ)


華陽はるひが、褒姒ほしと、若藻わかもの魂をその身体に取り込み、白く輝いた後に現れた五衣唐衣裳いつつぎぬからぎぬも姿の一人の美しい女性。

彼女は『玉藻前』を名乗った。すなわち『白面金毛九尾の狐』だ、と。


「『玉藻前』だと!?それは宮中での呼び名だろう!?貴様はその正体がばれて宮中から追われた只の『妖狐』だ!本来の名は「藻女みくずめ」だろうが!」


政光は900年前に宮中で鳥羽上皇に寵愛され『玉藻前』と呼ばれた目の前の女性は、宮中から追われた時点でその名で呼ばれる資格は無い、と言ってのけた。


「さあ!藻女よ!その姿では本来の力は出せまい!?さっさと『二尾』の正体を現して僕達と戦え!900年前の幼い猟犬のままではない事を思い知らせてくれる!」


政光は「玉藻前」を名乗る女に「藻女」の名で呼び、挑発する。人の姿では本来の力を出せない事を知りつつ、「九尾」を名乗る奴を敢えて「二尾」と呼べば本来の姿を晒さないだろうと考えての事だ。


政光は刀袋から刀を取り出し、刀袋も鞘も投げ捨てて正眼に構える。五月もそれを見て、彼女らしからぬ丁重な扱いで刀袋から「炎帝朱雀」を取り出し、刀袋は折り畳みお尻のポケットに丁寧に入れ、鞘は丁重にベンチに置いた。


「貴様ら下郎たち如き、九尾の姿になるまでもないわ!」

明らかに激高した「玉藻前」はその美しい姿のまま、両腕を頭上に上げて、下ろす。


「『光の矢』が上から来るぞ!避けるんだ!」


政光の警告に五月も義経も上を警戒しつつ左右に飛ぶ、彼らの居た場所に天から白い光が降って大地で弾けた。さらに天からの光は追い打ちを掛ける様に次々と降り、彼らを追い立ててゆく。


天から降ってはいるが「雷」ではない、まさに政光の言う「光の矢」と言える物で、物干し竿のような光が矢の早さで降り注ぐ。砕かれた大地から発生したオゾンのような匂いがする、雷ほどの速さはないが雷撃の一種のようなものかもしれない。


「これって一体何なんですか!?雷とは違いますよね!?」

「ああ!雷ではない!奴は雷も使うことが出来るが、雷を使う場所は限られる!」

義経の『光の矢』を避けながらの問いに政光も『光の矢』を避けつつ応える。


「それが何故なのかは僕も現代になってから理解した!雷は落ちた場所一帯に被害を与えるから奴も近距離だと使えないんだ!それに雷は正確に落とす事は不可能だ!」


それ故に妖狐は至近距離では雷を『矢』の様に一直線に降らせて攻撃する。

雷撃と違い速度の遅い分、かなり正確に目標に落下させる事が可能となる。


「遅いと言っても普通に矢の速度と同程度ありますよ!?いつまで躱せるか?」

「ああ!おまけに頭上から降るからタチが悪い!」


政光の言葉を肯定するかのように妖狐は懐から檜扇ひおうぎを取り出し、開いて左から右へと払う様に振った。途端に扇から突風が巻き起こり周辺の小石が吹き飛ばされ政光達を襲い、その身を激しく打つ。


『痛!』突風に飛ばされただけなので、弾丸のような威力は無いが、それでも顔やむき出しの肌に当たると激しく痛むし皮膚が裂け、動きも制限される。上からは「光の矢」、正面からは石礫が一行を襲う。石礫に撃たれつつ政光は義経に合図を送った。


義経は政光に頷き、一人温泉神社へ向かう道へと移動した。鳥居の袂で弥生と空外少年を護る彩音に声を掛ける。『もっと上の神社に近い所に移動してください!』


「義経さん!大丈夫ですか!?僕も手伝います!」

「いえ!弥生さんを護り切るのが私達の勝利条件です!君は上の方で二人を守っていてください。・・・もし、万一私達が倒れた時はそのまま神社を抜けて車の元に戻って、出来る限り遠くに逃げて下さい!」


義経は当初の計画通りに行動する事を彩音に約束させた。万一の為に2台の車に分乗し、弥生の軽を現場に持ち込んだのだ。弥生が操る軽自動車に追い付ける車もドライバーもこの世には存在しない。弥生を車に乗せさえすれば、負けは無いのだ。


それに弥生に憑く「オサキ」が弥生を護るために存在すると解った今、これ程心強い事は無い。我々が倒れた後は主上様が必ず守って下さる、そのお墨付きを得たようなものだ。


「義経さん!勝てますよね!?」

「もちろん勝つ為に最大限の努力をします、最後は「神」頼みです。」

弥生の問いに義経は答えた。自分達には主上様が憑いて下さっているのだ。

別れ際に弥生から託された刀袋を解き、中身を取り出し鳥居に立てかけた。


────────────────────


鳥居の下に立ち彼は改めて妖狐と政光達の動きを目で追う。妖狐との距離は約50m、遠的に近い。悠長に射法八節の動作をする間は無いが極力心を落ち着けてゆっくりを矢を番え、弓を引く。


妖狐の周囲では政光と五月が「光の矢」を避けつつ攻撃を仕掛けようとしている。

彼らが注意を引いている間に妖狐を狙う、だが矢で妖狐を倒す必要は無いのだ。

自分の役割はあくまで援護だ。妖狐の動きを少しでも止めて、五月と政光に妖狐を刀で斬り付けるチャンスを与えるのが目的だ。


妖狐が扇を振り抜く瞬間、振り終わりの姿勢を予想し、その胸元を狙う。


『今だ!』


矢が放たれ、妖狐目掛けて若干の弧を描きながら矢は妖狐の胸に吸い込まれるように飛んでいく。当たる直前に矢は妖狐の扇で払い落された。


妖狐の姿勢が崩れた瞬間を狙って政光が妖狐に斬りかかるが、妖狐は岩から岩へと飛び移り、政光の刃から逃れた。逃れる間に矢の飛んできた方向を確認した妖狐は、先の鳥居の傍に弓を構える義経を発見する。


「邪魔な奴め!」


妖狐が右手を天に構え、振り下ろした直後、天空から稲光が走り轟音と共に雷が義経の居た場所へと落雷した。



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