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特定非営利活動法人 アマツキツネ 「ルナティックハウンド」  作者: 涼城 鈴那
信楽 弥生

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狂った猟犬「ルナティックハウンド」


そして政光の方に居た死兵はなんとか片付き、残すは褒姒のみとなった。

政光は褒姒と正面から向き合いながらも、握った右手を両目を隠すように顔の前に構え、あまりに不自然な体勢となりながら左手一本を前に突き出した構えを取る。


眼を瞑れば相手の行動が解らない、手で目を覆えば視界が半分になるが見えないよりはマシだと、政光は褒姒の足元に意識を集中する。少し前の攻撃で褒姒は頬から血を滲ませた。防御力はそう高くないはずだ、一撃当てれば相当なダメージになるはず。


政光は機会を機会を伺いながら、褒姒の足元を見て距離を測る。徐々に近づく褒姒。

もう少しだ・・・あと少し・・・あと一歩で間合いに入る・・・・!?


あと一歩と言う処で、政光の下半分の視界から褒姒が消え失せた。


『移動した!?どこだ!?』


咄嗟に顔を上げ、周囲を確認しようとした政光の眼前の右腕の下から、宙に浮いている黒い塊の下部が見えた。『なんだこれは?』政光の本能が警報を鳴らす。


その警報の中、時間の流れが遅くなり、体が思う様に動かなくなるのを感じた。

目の苗に浮かぶ物体を確認しようと、更に顔を上げる。警戒の段階がさらに一段上がった。黒い塊の上部に白い物が見え、そこに黒い筋が並行に二筋並んでいる。

そのほんの少し上に赤く光る二つの光点を確認した瞬間政光は察した。


『奴の顔!?上下逆様に浮いていたのか!?不味い!』


膝を抱いて体を丸めた状態の褒姒が、逆様となって宙に浮いて政光に向けて微笑んでいるのだった。わずかとは言え褒姒の目を見てしまった政光、彼の思考はマヒしかけ、徐々に顔を上げる事で視界が開け、意思に反して目を瞑る事も出来ない。

その褒姒の目が勝利を確信して嗤った。


『さぁ、あと一寸顔を上げなさい。そしてしかと瞳を覗き込みなさい。』


褒姒の目、妖狐の目は、暗闇の中でも僅かな星明かりでも増幅させて周囲を昼間の様に認識できる。その目が政光の視線の先で怪しく光り、政光の視線を逃すまいと迫る。そしてその目が政光の右掌に握られたモノを認識した、その瞬間。


「!!??ひぃっ!!?」

政光の右手に隠されていたCOB型LEDライトがその爆光を解放させた。

野生動物と同じく僅かな光を眼球内で幾度も反射させて、光を増幅させる仕組みの目を持つ妖狐にとって、この光は物理的な衝撃を感じる程、余りに強すぎた。。


「あぁぁぁぁぁ!目がぁ!!目がぁぁぁぁぁ!!」


両手でその眼を押さえる褒姒、その呪縛を逃れた政光は強く頭を振り、眼前の藻掻き苦しむ褒姒へ向け、思い切り振り被った右拳をその身体に叩き込む。

褒姒の軽いその体は大きく跳ばされ広場の手摺に叩き付けられた。


『か!はぁっ!・・・・ぐ。」


「褒姒!?」

「ほっしー!?」


仲間の異変に華陽と若藻もその注意が褒姒へ向かう。五月と相対していた若藻は動きが停まった瞬間を見逃されるはずもなく、五月が咄嗟に拾った足元の地蔵仏で腹を打ち据えられ、荒れた山肌へと叩き付けられる。


『がっ!!』

「若藻!?」


五月は更に手にした地蔵仏を未だ動けない褒姒目掛けて投擲し、褒姒のその身体に地蔵仏が大きくめり込んだ。彼女は声も出せず息も出来ずに声にならぬ叫びを上げる。


『!!・・・ぁ・・・・・・はっ・!!』

「褒姒!もういいわ、戻りなさい!あとは私と若藻に任せて!」


華陽の言葉に力なく頷いた褒姒のその身体は、その場に崩れ落ちて内部から薄暗い光球の様な物が現れた。華陽はそれを殺生石の方へと優しく追いやる。


山肌に叩き付けられた若藻は地蔵仏で殴られたケガが治らない事に困惑していた。

こんな傷、いつもならすぐに治るのに?何故?奴の技量?お地蔵様で殴られたから?

地蔵仏は彷徨える私達を成仏させるべく奴らに力を貸している?噓でしょ?


一方、五月は幾ら殴っても大してダメージが通らない若藻のケガがなかなか治らない事に気付いた。もしかしたらコイツの所為か?この変な石像が奴らにとって特効のダメージを与え得るアイテムなのかもしれない。そう結論付けた五月は地蔵仏を振り被って、若藻を目掛けて走る。


「な!?なんなの!?この狂犬はぁ!?」


途中で手負いの強化死兵が五月の行く手を阻もうとするが、手にした特効アイテムでぶん殴ると彼らもたちまち特大ダメージを受け吹き飛び、あっけなく再び大地に沈みそのまま成仏する。


若藻は見た。自分の元へ迫り来る「狼」が血まみれの地蔵仏を振り被り、自分を調伏しようとさらに加速して駆けて来るのを、若藻は言い知れぬ恐怖を感じ絶叫する。


「なんなのアンタ!?お地蔵様を振り回す?血まみれにする?それで他人を殴る?そんな罰当たりが日ノ本に居るの!?信じられないんですけどぉ!?」

「若藻!もういいわ。あなたも戻りなさい。御前様をお呼びするわよ。」


華陽は言う、若藻を戻して御前様を呼ぶと。遂に玉藻前を復活させるのだ。


「いや!あたしはもっとこの身体でやりたい事、一杯あるの!」

若藻は華陽の命令を拒否した。ケガした腹を押さえて立ち上がる。


「もっと、遊びたいし、美味しいものも食べたいし、もっと強くなってコイツにやり返さなきゃ気が済まない!まだ元に戻りたくない!!」


叫ぶ若藻へ五月が駆け寄り手にした地蔵仏を至近距離から投擲する。山肌にめり込む地蔵仏を何とか躱した若藻はそのまま山を駆け上がり、木の枝に飛び移り眼下の五月へ叫ぶ。


「なんなのアンタ!この基地外の猟犬ルナティックハウンドがぁ!」

五月は気にせず山にめり込んだ地蔵を無造作に引き抜き、再び構える。その地蔵の頭を躊躇なく鷲掴みにした五月を見て、若藻は本能的な恐怖を覚えた。


「本当に狂ってんじゃないのこの『狼』!?いくら異人でも、おかしいでしょ!?」

若藻は、殺生石前に佇んでこちらを観察する華陽に対し叫ぶ。


「華陽姉!ゴメンけどあたしはもう一回鍛え直してコイツと再戦する!一旦ここは引くから後は勝手にやって!しばらく探さないで!」

若藻の言葉に華陽はその美しい顔を伏せ、小さくため息を吐いた。


「・・・そう、仕方ないわね。若藻、貴方の考えは理解したわ。」

「ありがとう華陽姉!また連絡するね!」

そう言い残し背後に飛ぼうとした若藻へ華陽が声を掛ける。


「・・・誰が行って良いって言ったの?・・・逃がす訳ないでしょ!?」

華陽は自らの「管狐」を飛ばして若藻を拘束し大地に引きずり下ろした。


「きゃ!?ちょっと華陽姉!なんで!?」

「あなたが途中で逃げる事は予想してたのよ?なにしろあなたは、御前様が唐から倭国へ逃げた時の「若藻」の人格から生を受けた者なのだからね?」

華陽は微笑みながら、大地で「管狐」に拘束され動けない若藻に言う。


「いえ、あなたが悪いんじゃないのよ?そういう行動を取りかねない名前が悪かったの。あなたが逃げる事を選択してくれたから、私も遠慮しなくて済むわ。」

「ちょ!?華陽姉ぇ・・・・ぎゃっ!」


若藻は小さな悲鳴を残して、その姿を白い光球に代え、白い光球はそのまま「管狐」に導かれて華陽の元へと戻って来た。華陽の右手の上に褒姒の光球、左手には若藻の光球が浮かび、華陽の美貌が闇の中に怪しく浮かび上がる。


「褒姒、若藻、貴方達と死兵のお陰で奴らの戦い方とその力、行動パターンを知る事が出来たわ、今までお役目ご苦労様。ゆっくりお休みなさい。」

「なんだと!?今の戦闘は僕たちの戦い方を知る為だったのか!?」


思いがけぬ華陽の言葉に政光は困惑し、叫んだ。自分達は華陽の掌の中で踊らされていたにすぎないと言うのか、と。


「そうよ?あなたが900年前に犬追い物で修練したように、こちらも事前に戦い方を観察して対策を講じただけ、貴方達の限界を探っていただけよ。」

もう戦い方は大体判ったし、今度こそ私達の負けはないわ、と華陽は言った。


「さあ、我が同胞はらからよ、元の身体へと戻る時が来たわ。」


華陽は両手の光球を自らの胸へと押し当てそのまま光球は体の中に吸い込まれた。

その光球の光は華陽を包み、その身体全体が怪しく白く輝きだした。


広場の政光の眼前で起こった一連の出来事にいつの間にか、政光の傍らに五月も義経も集まっていた。一行が見上げる先の光球はやがて輝きを失い中から、五衣唐衣裳いつつぎぬからぎぬも姿の一人の美しい女性が現れた。


「私が『玉藻前』である。控えよ下郎ども。」


少女の姿だった華陽を妙齢の女性にしたようなその美貌は、まさに「傾国の美女」の呼び名が相応しく見えた。



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