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特定非営利活動法人 アマツキツネ 「ルナティックハウンド」  作者: 涼城 鈴那
信楽 弥生

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経験の差


強化された死兵との戦闘が再開された。


五月は囲まれる不利を嫌って大きく跳躍して距離を取る。死兵から10m程離れた木道の上に着地する、その寸前を狙って姿を隠していた若藻が五月に攻撃を仕掛けた。


「!?いつの間に!?」

「油断したね!勝てば良いんだよ!勝てば!!」

五月のガラ空きの背中目掛けて若藻の蹴りが走る、五月は咄嗟に倒れ五点着地の要領で木道の上を転がり、若藻の蹴りが空振りするのを下から蹴り上げた。


「はぁ!?」

下から足を蹴り上げられて大きくバランスを崩す若藻の軸足目掛け、五月はウインドミルばりに足を薙ぎ払う。空中で無防備になる若藻に追撃をする前に死兵が追いつき五月に蹴りを見舞った。五月は腕をクロスしてそれを受け止め、その勢いのままに後ろへ飛んだ。腕に加えられた衝撃は骨にひびが入る寸前の威力と勢いがあった。


跳んだ五月に死兵二人の追撃が襲う、大振りの右フックが五月の顔面を目掛けて放たれるが、そのインパクト直前の位置で五月の肘撃ちが死兵の拳を砕く。

一瞬怯んだ死兵の背後から若藻が死兵の背中へ回し蹴りを叩きこみ、死兵が五月に体当たりする形となる。その予想外の攻撃でバランスを崩した五月が思わず着いた左手が岩に当たって皮膚が裂ける。手首から先が痺れた様に力が入らない


「ちっ!?」


左手が少しの間使えないと悟った五月は、治るまでの間の時間を稼ぐ為に大きく跳んで後方へ下がる。相手は未熟だが力だけは強い、無理はしない方が良い。


「逃がさないよ!」


五月が負傷した今がチャンスとばかりに若藻が後を追う。ようやく負傷させたのだ、

この機会を逃すわけにはいかない、強化死兵に後を追わせた。


────────────────────


政光に襲い掛かる死兵がその腕を取って投げられ、大地に背中から叩き付けられる。

別の死兵が背後から迫る気配を感じた政光は一旦距離を取り体勢を整えて、向かって来る2体の死兵を迎え撃つ構えを見せる。

その直後に肩に何者かの手が掛かったのを感じた政光は振り向きつつその手を払う刹那、その手が女の物である事に気付き思わず目を閉じた。


「あら、傾城の美女の笑みを無視するなんて、いけずなお人ね?」


政光は間を閉じたまま声の方へ腕を薙ぐ、空振りした直後に背後から死兵の蹴りが飛んできた。上腕に当たった蹴りは筋肉に阻まれ骨まではダメージが通らない。

いたずらに主家の家名を名乗られ、苛立つ政光は強化死兵の顔に『妖狐』の幻が重なり、その顔面を思い切り打ち抜き首の骨をへし折った。


へし折った首の向こうに褒姒ほしの頭が浮かび、思わず政光は視線を逸らす。


「あら、惜しい。そんなに照れなくても良いのに、お姉さんが可愛がってあげる。」


褒姒はこの「猟犬」が昔の生き残りだと知り、ただ倒すのではなく操り我が下僕とする事に目的を変えた。あの時の猟犬を自分の言いなりにする事こそが、この者に対する最大限の屈辱を与える事となろう、と。以降、褒姒は政光の周囲に不規則に出現しては政光の視線を自分に向けようと試みるのだった。


『なんて面倒な奴だ!常に隙を伺って視線を合わせようとしてくるとは!』


死兵の攻撃を受け流して体を開くと、その肩越しに褒姒が顔を出して来る。

死兵を投げ飛ばすと転がった先に褒姒の下半身が視界に入り、慌てて視線を逸らす。


900年昔の玉藻前との戦いの時も、妖狐の術で操られた仲間と同士討ちを強制された記憶が蘇る。ひとたび操られてしまえばその力が仲間に向けられてしまう。今は人数が少ない分一人が操られれば、それだけで壊滅しかねない。


褒姒と視線を合わせればそれで全てが終わる、政光は死兵を相手にするのにも集中することが出来ず、いたずらに時間が過ぎる事に焦りを感じていた。


────────────────────


追いすがる死兵を相手にする五月、しかし幾ら強化されようとも所詮素材は人間だ。

月下の城門前で数えきれないオークやオーガと言った魔物を相手に一歩も退かなかった経験を積んだ彼女にとって、満月下のパワーが出なくとも脅威とはならなかった。


強化された力任せの大振りの攻撃を紙一重で躱し、確実にカウンターを決める。

そのまま流れを切らさぬ様に勢いを殺さぬ様、背後から襲い来る新手の顔面に肘撃ちを喰らわせ、怯ませる。その後にわざと隙を作れば、それに釣られた若藻が背後から襲って来る。それを流れる様に躱し、ガラ空きの顔面に掌底を当てる。


「がっ!?」


己の力に絶対の自信のある若藻は今までその力で相手を捻じ伏せてきた。細かい事など考えなくともその力は当れば一撃で相手を屠って来たのだ。しかし全てを力に任せていた為、躱されて隙を突かれれば脆い。こちらの攻撃が当たらないのに、向こうの攻撃は確実に当てて来る。もしかして大き過ぎる力は却って邪魔なのか?


『ぐはっ!』

迷った瞬間を狙われ腹にカウンターを喰らった若藻は大地に倒れ込んだ。

新月の人狼は絶頂時の力は出せない。それなのに力では圧倒しているはずの自分に対しても、余裕で躱して攻撃を当てて来る。今まで相手にして来た奴らとまるで違う!


今まで自分より弱い相手とばかり戦ってきた自分と違い、おそらくコイツは格上の相手とも数多く戦い勝つ事で、その経験値が力の差を補っているのか?


若藻は今まで格下しか相手にしていなかった事を悔やんだ。いや、実際周囲には格下しか居なかったのだ、それは仕方ない。しかし格下相手とは言えただ漫然と力を振るうのではなく、更に早く、もっと確実に、極力力を使わずに、工夫しながら戦う事は出来たはずだ。それを怠った事がこの結果を招いているのだ。


五月の攻撃が当たる度、身体へのダメージは少なくとも、自信とプライドとを確実に少しずつ砕かれている事を若藻は実感していた。顔面に喰らったカウンターは体を通り抜け、確実に若藻の精神を砕いた。


「・・・・あたしは井の中の蛙だったって事?」

自信を失いかけた若藻が思わず呟く、それを聞いた五月が不思議そうに聞く。


「?水の中にカエルが居るのは普通だろう?」

その五月のセリフは煽るでもなく、突き放すような棘も無く、極普通の口調だったが、若藻は『弱いモノ同士で狭い場所で群れてろ。』『自分の居場所から出て来るな。』強者が弱者に向けた『忠告』のセリフとして聞こえた。


が、五月の『何言ってんだコイツ?』との呆れた表情に気付いた若藻は我に返った。


「・・・あんた!それ人を馬鹿にしてるの!?本当に素で言ってんの!?」

若藻は激高して五月に殴りかかり、再びカウンターを喰らって大きく飛ばされた。





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