開戦
「やぁ、狼さん腕は治った?」
若藻が五月に久しぶりに会った友人に挨拶する風に問い掛ける。
「もう完治している、お前をぶっ飛ばせる程にな。」
対する五月も普段通りの口調で、普通に対応する。若藻はそれを見て
「そりゃあ良かった、ケガさせちゃったんで申し訳なく思ってたんだ。」
「そんな事少しも思っていないだろう?お前はそんな奴だ、見れば解る。」
若藻がにやりと笑い、言う。
「うん、あたしはあたしより強い奴が居るのが許せないんだ。だからそんな奴は目の前から消えて貰う・・・どんな手を使っても・・・ねっ!」
いきなり若藻は五月との距離を詰め、右の拳を五月の顔面に叩きこんだ。
しかし五月はそれを体を最小限の動きで左に開いて躱し、左の拳を若藻の脇に軽く当てた。ダメージを与える為ではなく、お前の動きは見えているぞアピールだった。
若藻はその勢いのまま五月から距離を取り、振り向きざまに五月を睨む。
『本っ当にむかつく・・・。』そう呟くと華陽の横の妖艶な女に向けて言う。
「ほっしー、もう良いよ、やっちゃて!」
ほっしーと呼ばれた女は微笑んで周囲のうつろな表情の男達に命令を下す。
「お前達、そこの女は捕まえたら好きにしていいわよ、最初に捕まえた者と働きの良かった者には私からのご褒美もあるわ、さ、行きなさい。」
褒姒の号令一下、周囲の男達が一斉に五月へ向かって突進した。
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五月に一番近かった男が真っ先に五月に襲い掛かる、五月は冷静に左の拳を叩きこむ。が、男はそれを躱し五月の懐に飛び込み、五月の頭突きを顔面に喰らい沈む。
次の瞬間には別の男が迫る。素人の動きではない何かしらの格闘経験のある者の動きで五月に体当たりを喰らわそうとするも、五月にあっさり躱され、転がりつつも受け身を取って体勢を立て直し、五月に向き直る。
「おいおい!こいつら格闘技か何かやってるのか!?手強いな、死人の癖に!」
「死人なら遠慮しなくて良いって事ですね、手加減しませんよ!?」
政光の言葉を義経が受け、背中の刃袋から木刀を取り出し軽く振るう。
「刀で斬ったんじゃこちらも気分が良くない、これで御相手します!」
五月は襲い来る男達の頭上を飛び越えて、無人の木道の上で体勢を整える。男達の集団が五月に押し寄せて来るが木道の上で押し合い圧し合いし、まともに進めず道から外れると足元は岩だらけで進撃速度は大幅に低下せざるを得ない。
必然的に五月の元に来れるのは一度に1~2人までとなり、五月は確実に一人ずつ仕留めていく。幾ら死兵達が格闘技に精通して居ようとも、100体単位の魔物の群れ相手に無双して来た五月は正確に動きを読み、確実にカウンターを決められる。
五月の方へ進めない男は褒姒からの褒美が期待できる「働きの良かった者」を目指す為に、後方で孤立する政光と義経に襲い掛かる。
「すでに死んでるなら思い切りいきますよ!」
義経は死人相手に木刀を振るう、頭を潰して動きが停まる保証もなく、絵的によろしくない為、腕と脚を叩き折って動きを封じる手に出る。剣道も年齢制限の為5段の段位しかないが、本来はそれ以上の腕前だ。そんな腕前の義経にとって丸腰の死兵は脅威とならず、確実に相手を行動不能にしていった。
政光に襲い掛かる男には政光からの先制攻撃で大振りの右拳が飛び、それをガードしようとした男がガード毎に砕き吹き飛ばされて動かなくなる。吹き飛ばされた男には目も呉れずに次々に政光に襲い掛かる男達は政光の馬鹿力に同じ運命を辿った。
義経と政光が有利に戦いを進めているのを確認した五月は、死兵達との距離を調整して大部分がこちらに来るように誘導する、木道は一周している部分がある為、そこを上手く使い確実に相手を削っていく。時には足元の岩を拾い、死兵の群れ目掛けて撃ち込んでその数を減らしていく。
予想外に岩石攻撃の効果が高い事に気付いた五月は、周囲を見て一計を案じる。
死兵たちを上手く誘導して盲蛇石の所までおびき寄せ、一気に千体地蔵の元へ戻った五月は足元に立ち並ぶ赤い頭巾を被った地蔵を抱え上げ、死兵の群れへ投擲した。
「!!」
「〇□×!」
五月が投げるのに手頃過ぎる地蔵が次々と死兵の群れに投げ込まれ、死兵がその数を瞬く間に減らしていく、100人程居たはずの死兵も既に30人を数えるほどだ。
その五月の暴挙に気付いた政光と義経は心の中で悲鳴を上げていた。
「ま・・・政光さん!五月さんがあんな戦い方をしています!」
「うーん・・・なし寄りのギリギリあり、かな?心なしか倒された方も成仏出来てるような?お地蔵様も許して下さるかも知れん!あとで幾らでもお詫びしよう!」
地蔵菩薩は元々衆生の苦しみを救済するための菩薩様だ。死兵と成り果てた衆生の成仏の為に喜んでお力を貸して頂けるかも知れん、と政光は良い方に考える事にした。
義経と政光の周囲でも死兵たち20人体程が倒され力なく大地で蠢いており、残りの死兵は五月の方に固まっている20体程だけだ。もう山は過ぎたと考えた矢先。
数体の死兵が起き上がり、義経と政光に再び襲い掛かった、
「な!?こいつらまた立ち上がったのか!?」
「さっきまで倒れて動けなかったはずなのに!?・・・あ、政光さん!」
義経が、倒れた死兵に向かい何事かを囁いている褒姒に気付くと、政光に注意を促した。褒姒の下で回復した死兵は起き上がるやすぐに襲い掛かって来る。
「貴女が死兵を回復させているのか!?それなら貴女から倒させて貰います!」
義経が木刀を握りしめ、褒姒に向かって駆けだした。彼女は避ける様子も無く義経を見つめたままで動こうとはしない。褒姒が木刀の間合いに入った瞬間、義経の振った木刀は力なく空を切った。
少しの間動きが停まって木刀を握りしめた義経に政光が声を掛ける。
「義経君、大丈夫か・・・!?」
政光が義経の肩に手を置き声を掛けた瞬間、義経は振り向きざまに背後の政光に対し手にした木刀を薙ぎ払った。




