炎帝朱雀
人狼メイがこちらの世界へ転移して来る直前、餞別を幾つか持たされた。
こちらの世界の物とデザインの似通った服、回復薬等のポーション類、換金用の金の指輪等のアクセサリー類、そして政樹から直接渡された刀袋。
「紅月様からだ、『炎帝朱雀』これを持って行けってさ。」
「!?これってマサキ様用に造られた対邪神用の最強の剣では?」
この「炎帝朱雀」は「邪神世界」産の魔力を制御する金属を素材に、最強の誉れ高い王国の宝剣「アレス-シュナイデン」の写しとして、帝国至高の刀匠が身命を賭して鍛え上げ、ドワーフ最高の鍛冶師が研ぎ上げた物だ。
邪神に対抗する人々が、世界が、その力を集結させた結果完成した人類の宝剣だ。
その剣を作る様に主上様が神託を下した場面にはメイも立ち会っていた。その際の異様な緊張感は、基本お気楽なメイですら未だに忘れる事が出来ないでいる。
・・・そんな貴重な物を自分等が持って行っても良い物か、メイは困惑する。
「俺用にって造られたけど結局一度も使わなかったし、こっちの世界じゃもう文字通りの無用の長物だ。あっちの世界でこそ使い道があるかも知れないってさ。」
世界を救った英雄ですら未使用の宝剣、その事実を聞いて更に困惑するメイ。
「あ、これ一応皆には内緒だからな。黙って持って行ってくれ。」
その言葉はメイは今まで無縁だった『責任感』と言うモノを強力に植え付けた。
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「武器を使わなければいけないなら、私はこれを使う。」
メイはそう言い切り、政光もそれを了承した。
「用意したこれらの刀3本は僕と義経君と五月君に、弓は義経君に準備したものだが1本余るな、1本は彩音君に護身用として持って置いてもらおう。
だが、本来奴らを倒すのは大人の僕達の役目だ、君達の手は汚さずに済むならその方が良い。もちろん僕達はそういう状況にならない様に立ち回る。いいね?」
政光の言葉に彩音は頷く、この大人達は大人の責任をしっかりと果たすつもりなのだ。おそらくその為には彼らの命すら賭けるつもりなのだろう、彼らの生ある限りその意志は尊重しなければならない。自分は自分で姉さんを護る事に専念しよう。
「彩音君は車の運転は出来るのかな?」
「はい、免許は持ってませんが運転自体は出来ます。」
「よし、那須野には車2台で分譲して行く、僕の運転するクラウンと弥生君のトゥデイとで指定された前日に栃木付近で一泊して休養を取る。」
戦いが始まって僕たちが倒れそうになった時、合図があった時は、迷わず弥生君と空外君を連れて逃げるんだ。いいね?と政光が念を押す。彩音は頷くしかなかった。
五月が倒される様な相手、そんな者には逃げるしかない。
政光はさらに周辺の道路の状況を頭に入れておくよう彩音に指示をする。相手のホームグラウンドで逃げなければいけないのだ、道に迷うわけにはいかない。
「奴らの手下になっている栃木の「天声組」には当日の22:00に警察のガサ入れが入って数時間と掛からず壊滅させる手はずになっているから、「天声組」の方の心配は要らない。」
政光の人脈か、「アマツキツネ」の背後の力の所為なのかは解らないが、警察の協力もアテに出来ると言う、それなら警察の力も使えるのではないかと彩音は思うが使える「力」の質が違う為、警察や自衛隊といった力は使えないという。
「玉藻前を退治できれば良し、我々が敗れて玉藻前が復活してしまえば君たちを狙う理由は無くなるし主上様が調伏して下さるだろう。君たちの安全は主上様も保証して下さっている、大丈夫だ。」
「それならその主上様とやらに玉藻前を退治して貰えば良いんじゃないですか?」
彩音の疑問は当然と言える、政光はにっこり笑って言う。
「主上様は我々だけで出来るとお考えの様だ、ならばそれにお応えしなければね。」
取敢えず玉藻前が復活した際の武器は用意できた。この「炎帝朱雀」の存在が在ればこそ玉藻前恐れるに足らずと言う事なのかもしれない。政光はそう考える事にした。
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そして指定された日の前日、一行は2台の車に分乗し隣県の白河市のビジネスホテルへ宿を取った。栃木を根城とする「天声組」の影響が低いであろう事からここのビジネスホテルを選択し、更に1フロア全部を借り切りにして関係者を配置する事で襲撃のリスクを抑えたのだが、これは杞憂に終わり何事もなく一夜を過ごせた。
「奴らは人質を取っているし慌てる必要もないと言う事なんだろうな。」
移動の際もホテルに滞在中も特に監視の目も無く襲撃の気配も無かった。
今夜の22:00までこちらにに手を出すつもりは無いと言う事なのだろう、それならばと一行は準備を万全にする事にした。五月の持ってきたポーションや、政光が用意した仙薬などを各々が腰に付けたポーチに収納しすぐに使えるようにする。
政光はドラッグストアに寄り、500mlのミネラルウォーターのペットボトルを5ケース買い込んだ。政光曰くかなり重要なアイテムになるかも知れないらしい。
「まぁ余ったら事務所に常備するから好きな時に飲んでくれ。」
政光なりの必ず玉藻前を倒して「アマツキツネ」へ帰ると言う意思表明だ。
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那須町那須街道、21:30
一行は県道17号線を進み、那須温泉神社近くの殺生石園地駐車場へと車を停めた。
「あれぇ?今、こんな近くに人家があるのか。奴等結界でも使うのかな?」
政光も土地勘がある様な口ぶりだったが、どうやらかなり昔ここに来たことがある程度で、今現在のこの辺りの賑わいは全く予想外だった様だ
此処から指定された殺生石へは徒歩数分で着く距離だ。今来た方向に歩いて戻ってもすぐの道沿いに民家や商店が並ぶ、もっと山奥を想像して居た為困惑する一行。
綺麗に整備された温泉街と観光地、こんな所での戦いになると言うのか?
困惑しつつも一行は車から降りる。岩の転がる場所では義経は流石にいつもの和装と言う訳には行かず、ロンTにフィッシュベスト、カーゴパンツにトレッキングブーツの恰好だ。他の面々も似たような装いだが、義経だけ違和感が桁違いだった。
「五月君、悪いけどこれ1個持ってくれるかい?」
「んー、いいよー。」
政光と五月は刀袋を肩から下げミネラルウォーターのケースを1個ずつ持つ。義経は手に弓を下げ、肩に矢筒と刀袋を背負っている。弥生と彩音も刀袋を所持していた。
2人には手ぶらよりは心強かろうと護身用として持たせている。
全員フックでぶら下げる形のCOB型の小型LEDライトを用意していたが、五月、政光、義経は元々夜目が効くし、彩音と弥生も「管狐」を通じて周囲が見える為、逆に眩しすぎる所為でLEDライトは点灯させずじまいとなっていた。。
小川に掛かる橋を渡り整備された木道を進む、周囲は荒れ地に岩が転がる風景となり温泉由来の硫黄の匂いが立ち込めている。五月たちにとっては少々匂いがきつい。
盲蛇石と呼ばれる大岩の横を過ぎ、赤い頭巾を被った地蔵が並ぶ千体地蔵の影を左に見て進む。さらに奥には教伝地蔵と呼ばれる大きな地蔵が一行を迎える様に佇む。少し先の休憩所を過ぎると道の終点が近付く。
山肌が削れ岩石が転がる場所、そこに「殺生石」があった、




