敵の正体
「政光さん、その指定された場所って何処なんですか?」
「アマツキツネ」の面々が新月時の活動を制限されると知らない彩音は、5日後に指定された事の持つ意味を解らないまま、問題の場所を尋ねる。
「ああ、それも重要な問題だね、北緯37.101348東経139.999011か、細かいな。」
政光がスマホのマップアプリに指定の座標を入力する。
マップに表示されたのは暴力団の本拠地のある栃木県、その北部の山岳地帯、福島県との境に近い場所、「那須町」。そしてマップ上のピンをタップする。そこに表示された文字に政光は驚愕した。
「!?何!?『殺生石』!?『殺生石』の場所を指定してるのか!?」
奴らが指定してきた場所は。白面金毛九尾の狐『玉藻の前』が退治された後に変化したと言われている『殺生石』、そのものであった。
────────────────────
かつて鳥羽上皇が寵愛したと言われる絶世の美女「玉藻の前」、その正体は「白面金毛九尾の狐」であり、正体を見破られた後には那須野に逃れてかの地で婦女子を攫うなどの悪行を繰り返していた。
それが朝廷の知る所になると、上皇は三浦介義明、千葉介常胤、上総介広常を将軍に任命し討伐軍を編成、その軍勢を那須野へと派兵した。多くの猟犬で妖狐を追い立て将兵たちが戦いを挑むものの、妖狐の妖術に多くの兵を失い攻撃は失敗に終わる。
三浦介達は猟犬の尾を狐に見立て犬追い物を繰り返し訓練し、騎射の練度を上げて再び妖狐討伐を試みる。訓練の成果があり妖狐は徐々に追い詰められ、三浦介が放った二つの矢が脇腹と首筋を貫き、上総介の長刀が妖狐を斬りつけ、妖狐は息絶えその姿は岩に変化した。
その後妖狐が変じた大岩は、周囲に毒気を撒き散らし周囲の多くの生物の命を奪った為「殺生石」と名付けられ、周囲の村人達に恐れられる事となった。多くの高僧が鎮魂の為にこの地を訪れるも、その毒気に次々と倒れ長い間放置されて来た。
南北朝時代、高僧「玄翁和尚」が殺生石を破壊する事に成功し、破壊された殺生石は各地へと飛散しその内幾つかが「オサキ」へと変化したと言われている。
────────────────────
「『殺生石』ですって!?・・・まさか奴らが『オサキ』を狙うのは!?」
「『殺生石』の破片から生じた「オサキ」を取り込んで、『玉藻の前』の復活を目論んでいるのか?」
政光は『殺生石』を事を更にスマホで調べた。その結果、一つの事実に辿り着く。
「『殺生石』は4年前の2022年の3月5日に二つに割れている!丁度弥生君が『合歓木学園』に移る頃だ!この頃から奴らの捜索が本格化したんじゃないのか!」
割れた「殺生石」の断面には「狐耳の女性」の姿が現れていると見る者も居り、何かの凶兆ではないかと3月末に那須町観光協会により慰霊祭と平和祈願祭が行われた。
その頃には弥生の生活の場は県境を跨いだ『合歓木学園』へと移っていた。
「そして、3年前には清水家が『合歓木学園』のある市内に移転してきている。もしかしたら弥生君の次の受け入れ先として、「清水家」が用意された可能性もある。」
「さらに一年前に『アマツキツネ』が設立されたのは、奴らから弥生君を護る力として我々が集められたと言う事ですか!?」
つい先ほどまで相手の正体が全く判明していない状態だったが、『殺生石』の存在で一気に奴らの真の目的までが白日の下に晒された。さらに調べると正体不明の少女二人の名前「三浦 華陽」「上総 若藻」も「玉藻の前」に関連する事が解った。
古代の天竺の摩竭陀国の王子、斑足太子の妃『華陽夫人』が『玉藻の前』の前身であり正体が見破られた後に行方をくらまし、その後「周」の第十二代の王、幽王の后、『褒姒』として現れている。
「周」を滅ぼした後に姿を隠した『褒姒』は『若藻』という16歳の少女に化け、吉備真備の乗る遣唐使船に同乗し、日本へ渡って来たと伝えられる。
「三浦」「上総」の姓も「玉藻の前」の退治に貢献した3将軍の姓を名乗っているのであろう、そうであればもう一人『千葉』の姓を名乗る少女が居る可能性がある。
「奴らは『白面金毛九尾の狐』の復活を目論んでいます、「主上様」と同じく「九尾」の力を持ちながら、人々を攫い喰らうような妖狐の復活は認められません。」
『・・・しかし』と義経が続ける。
「妖狐は1000年修行する度に尾が一本増え、『九尾』となった後、更に1000年修行する事で『白』の色に変化すると言います。『白面金毛』なら『白狐』になる途中です。ならば格は『主上様』の方が上、主上様がお出ましになれば何も問題は・・・」
義経の意見に政光は異を唱えた。
「いや、最初から「主上様」のお力を当てにしては駄目だ。「主上様」は僕達で何とか出来ると信じて下さっているんだと思おう。僕たちは僕達で全力を尽くそう。」
「しかし相手は『九尾』です。既に「妖狐」ではなく天災に等しい存在ですよ?」
自分達でと言う政光に対し、義経は自分達でどうにか出来るような相手では無い事を訴える。しかし政光は落ち着き払い義経に伝える。
「『玉藻の前」は実際には『九尾』ではなく『二尾』なんだ、妖術を使う強大な『妖狐』として江戸時代頃に物語の中で『九尾の狐』と混同されたんだ。人間である「三浦」「千葉」「上総」の3将軍が討伐している、そう悲観するものではないさ。」
『それに復活させなければ問題は無い。』政光は自分達で出来る限りの準備をして、玉藻の前の復活を食い止めるよう努力しようと言う。例え復活したとしても三将軍の前例に倣った準備もするさ、その為の時間もある。と言ってのけた。
そう、新月までの時間はまだ5日間ある。準備の時間はあるのだ。
────────────────────
「しげぴー、言いつけてた準備、しっかり出来てるんだよね?」
若藻はソファに座ったままスマホを弄りながらしげぴーに視線も呉れず、問い質す。
「はい!言われた通りに2カ月前から準備をしてます!お嬢達の号令があればいつでも仕掛けられますです!」
しげぴーの言葉に「千葉 褒姒」は妖艶に満足そうに頷いた。
「じゃあ、早速明日から始めるわよ。ふふ、楽しみだわぁ。」
華陽と若藻は互いに視線を合わせて。妖しく蠢く褒姒の様子に満足そうに頷く。
新月まではまだ5日間ある、それはどちらの陣営に対しても平等なのだった。




