人質
政光と義経が事務所に戻った時、弥生は不審な来客があった事を告げた。
「不審な二人組?弥生君、どうしてそう思ったんだい?」
「見た目は綺麗な女の子達なんですが、考えてる事が解らないんです。」
義経は弥生の説明を聞きつつ、部屋に設置してある防犯カメラのデータを確認する。
不審な少女達の行動に傍目にはおかしい所は無い。華陽と名乗った少女は若藻と名乗った少女の治療を見守っており、若藻も弥生の治療にされるがままとなっていた。
特に別段、周囲を見回したり何かを探ると言った様子は伺えない。
「・・・確かにおかしいですね。この華陽と言う子はツレの方しか見ていない。」
義経が疑問に思った事を口にした。若藻の傷は爪で引っ掻いた程度のモノだ、心配して見守る必要があるものではない。普通なら治療の間、手持ち無沙汰となり、周囲を観察したりしてもおかしくないはずだが、それをしないと言う事は『相手に観察していると思われない様にしている』と言う事ではないか?義経はそう言った。
「つまり彼女らはこの事務所内を観察しに来たと言う事かな?」
「ええ、ここに目的の『オサキ』が居るのか、それの確認でしょう。」
弥生の「オサキ」は最近自重して事務所内から出る事はほぼなくなっていた。それどころか、不審な少女が訪れた際には完全にその姿を隠しているのだ。『オサキ』自身が彼女らを警戒しているという証左であろう。
「『オサキ』を確保するには主の弥生君ごと連れて行かなければならないが、すぐ傍に五月君が居てはそれも難しいだろう。今日の所は様子見と言ったところか。」
「奴らはこちらの情報を確実に集めているのに、こちらは彼女らの正体に予想すら立てられないでいる。本当に不味いですね。」
相手は着実に此方の情報を掴んでそれの対応を万全にしてから襲って来るつもりだろう。今日、あっさり引き下がったのも向こうの情報は知られていないという自信の表れに違いない。本当になにも手掛かりは無いのか?
「弥生君、彼女らなんて名乗ってたって言ったっけ?」
「えと、髪の長い子が『ミウラ ハルヒ』、もう一人が『カズサ ワカモ』です。」
政光の問いに弥生が応える。良くある苗字に珍しい名前の組み合わせの所為か、不思議とよく覚えている。政光はそれを聞き
「三浦、に上総・・・?まさか・・・?いや、考え過ぎか。」
政光は何か思いついたようだがすぐさまそれを否定した。そして取り出したスマホでどこかに連絡をする。3度のコールで相手が出た。
「政光です、お忙しい所済みません。実は調べて頂きたいことが・・・はい。」
少し会話をして通話を終了した、その後また別の所へ連絡し、何事かを依頼する。
「これで良し、近所の防犯カメラの映像を調べて貰うよう依頼した。明日には彼女らのこの街での行動がある程度解るかも知れない、こちらも情報収集だ。」
移動経路、交通手段が解れば彼女らが何処から来たのか割り出せるかも知れない。
車で移動したのなら車のナンバーから所有者とその所在地が解るだろう。少ない手掛かりだが、此処から情報を手繰り寄せていくしかない。
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不審な少女達が訪れてから3日後、事態は急展開を迎えた。
この3日の間に彼女らの移動手段が判明し、レンタカーのアルファードを借りた際に男が提示した免許証と、彼らの乗って来た白いリムジンが栃木県の暴力団組織のモノである事が判明したところだった。
その暴力団の調査を地元警察に依頼すると同時に、弥生と五月、彩音を事務所に待機させて、政光と義経が情報収集に栃木に向かう事になった。
その準備をしていた矢先、弥生のスマホに空外少年からメッセージが送られて来た。
「あれ?ソラ君から?珍しいな、いつもは電話なのに?」
弥生は空外からのメッセージを確認した途端、彼女の顔から血の気が引いた。
彩音は弥生の異変に気付き声を掛ける『姉さん、大丈夫?』。弥生は彩音の言葉に弾かれるように我に返り叫ぶ。
「所長!義経さん!大変です!ソラ君が攫われました!」
「なんだって!?」
政光は震える弥生の手からスマホを受け取り、そのメッセージを確認する。送信元は空外少年のスマホからで間違いないが、送信者は例の少女であろう事が解った。
『清水 空外をこちらで預かっている。5日後の夜22:00に以下の場所まで関係者5名全員で来られたし。北緯37.101348、東経139.999011』
「奴等、彩音君の存在まで調べているのか!?こっちの情報は丸裸って事か!?」
「不味いですね、全く相手の情報が解らないまま、おまけに暴力団まで相手にしなければいけない可能性まで出てきましたよ。」
その暴力団の情報さえ未だ調べられていないのだ。それどころか『オサキ』が目的なら、その主だけを呼び付ければ済む事なのに、関係者5名を全員呼び付ける目的は一体何なのか?相手にとって少なくとも五月は脅威にしかなり得ないはずだが?
「そこの女、隠れてないで入って来い!」
突然五月が事務所入り口に向け声を掛けた、メッセージに気を取られていた政光達が全く気が付いていなかったその訪問者が入り口に姿を現した。若藻がそこに居た。
「こんにちわー、メッセージ届いたよね?みんなで来てよね?」
ブレザーの制服を気崩したショートカットの少女はあっけらかんと言ってのけ、事務所内を見回し招待すべき5人全員が揃っている事を確認していた。
「うんうん、5人全員揃ってるね、みんな遅刻しちゃ駄目だから・・・ね!!」
若藻が言い終わる直前に事務所内に衝撃が走った。若藻は五月との間を一瞬で詰め、その右拳を五月に叩きこみ、それを受けた五月の左腕は鈍い音を上げた。
「!?」
五月が一瞬顔を顰めた、その腕は明らかに骨に異常を来していた。
「五月さん!?」
「へぇ、これに反応できるんだ?凄いねあんた?ホント5日後が楽しみだね。」
若藻はそう言うや踵を返し事務所の外へと飛び出していった。五月の左腕を心配して触って良い物か躊躇している弥生を五月は手で制す。『大丈夫、ほっとけば治る。』
「でも何で5日後なんでしょう?こっちに用があるなら即呼び付ければ済む話なのに、わざわざ対処する時間を与えるなんて?」
彩音の尤も当然な疑問だったが、未だ治らない五月の左腕がその「答え」だった。
人狼である五月の活力は月の満ち欠けに影響され、満月時では無尽蔵の活力と回復力が約束されるのだが、新月の時にはそれが大幅に制限されてしまう。
奴らの指定した5日後は、その新月の夜だった。




