「NPO法人アマツキツネ」 設立時
話は1年前に遡る。
信楽弥生はとある事情で中学生の頃から両親と離れ児童養護施設で過ごしていた。
周囲になじめず孤立する事が多く、一人で過ごす事が当たり前の日々を過ごした。
18歳となり児童養護施設を出所しなければならなくなった弥生は、高卒の資格で就職先を探さなければならないが、何故かそこまで悲壮さが湧いてこなかった。
不思議な事ではあるが、出所の日が近付くにつれて反対にこれで自由に成れるのだと気分が楽になる事に気付いた。もちろん何の根拠もないのだが、学生と違い社会人と成れば自己責任と引き換えではあるが自由が手に入る。
今までの集団生活ではなく、働いてお金を稼いで一人でアパートを借りて住む。
誰にも気を使わなくて良い、想像するだけでその生活は何よりも輝いて見える。
もちろん働く職場の人間関係も重要だが、今までの自分で何も選択できなかった学生の頃とは違う、自分で職を選ぶことが出来るのだ。
『私の勘はよく当たるんだ、自分を信じて職を探そう。』
そして出所の時が来て、友達と呼べる者の見送りもなく僅かな職員だけが見送る中、弥生は今まで世話になった事への礼を言い、養護施設を後にした。
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弥生は自由に街を歩く。今までは施設と学校を行き来するだけで街の一部しか知らなかった為、観る物が何もかも新鮮に見えた。養護施設では月に2千円のお小遣いが貰えたが、学校で使用する文房具や必需品に使うとほとんど残る事は無く、商業施設で買い物をする事など叶わぬ夢であった。
街を歩きながら様々な店を発見する、これからは自由に買い物も出来るのだ。
しかしそれにはまず働く場所を見つけなければならない、弥生は当てもなく歩いている風ではあったが、其の脚は確実にとある雑居ビルへと向かっていた。
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とある雑居ビルの前に出た。これと言って目立つ事の無いよくある風景の一部に溶け込むビルだったが、弥生はここが自分の働く場所だと確信した。
1階ではない・・・2階だ。弥生はエレベーターホールの扉に立ち、躊躇わず上階のボタンを押した。すぐに一階に降りてきたエレベーターに乗り2階のボタンを押す。
2階に停まったエレベーターから降り、共用廊下に踏み出すとそこで一人の和装の青年が事務所らしき物件の扉の前で張り紙をしている最中に出くわした。その和装の青年は飄々とした雰囲気で、こちらに気付くと警戒心を与えない人懐こい笑みで軽く会釈をしてくれた。その優し気な笑みを見て弥生は確信した。
『ここだ、私を呼んでいたのはここで間違いない。』
その笑みに誘われる様に弥生は和装の青年に向かって思い切って言った。
「あ、あの、求人を見て来たんですが・・・・え!?」
弥生は「ここ」が求人を出していたかどうかは知らなかった。自分が呼ばれた場所だから多分求人していると思ってそう言ったのだったが、弥生は青年が手に持ち、今まさに扉に張ろうとしていた張り紙がその「求人」のポスターなのに気付いた。
そして青年も少し驚いたような顔をしていた。
『あ、求人の張り紙張る前だったんだ!?怪しい奴だと思われた!?』
まさか勘が良すぎて掲示前の求人を感知してしまっていたとは。なんか自分が凄く不審な行動していると相手に警戒されたかもしれない。と弥生が混乱した時
「ああ、駅か掲示板に貼ってたポスターを見て来られたんですね?良かった1週間経つのに誰も反応も無くて困ってたとこなんですよ?」
ささ、中へどうぞ。と言われ弥生は安堵した、勧められるままに事務所内へ入る。
事務所の中にはもう一人の堂々たる体格のダンディな男の人と、ハーフ風な顔立ちの金髪の女性がいた。男の人は人懐こい笑みを浮かべて歓迎してくれいている風だ。金髪美女の方は弥生をまじまじと観察するかのように眺めている。けっして警戒していると言う訳ではなく、単純に物珍しそうに見られている様だ。
「やぁ、求人の面接かな?緊張しなくていいよ?今コーヒーを淹れよう。」
「ヨシツネの言ってたの、この子?」
「ささ、こちらにお座りくださいね。」
スーツ姿の男の人はコーヒーメーカーを準備してカップ等の用意を始めた。金髪美女は白いトレーニングウェアに身を包み事務員と言う風体ではない。対応してくれている青年は紺の着流し姿だ、服装は全く統一されていない、不思議な事業所だ。
勧められるまま応接テーブルに着いた弥生はトートバッグから履歴書を取り出す。
『・・・あ、そう言えば、ここってどんな業種なんだろう?』
弥生は今更ながらこの事業所がどんな業種なのか知らない事に思い至った。
何か資格とか居るんだろうか?自分は運転免許証を始めとして事務系の資格等も一切持ってはいない。職歴、資格等の空欄が多い履歴書を対面の青年に差し出す。
「えーと、信楽弥生さんですね。NPO法人 アマツキツネの 天城義経です。」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
弥生はそう返しながら『NPO法人』の名称に戸惑った。たまに聞くけど一体どんなものなんだろう?自分で務まるのだろうか?急に不安を感じる事となった。




