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特定非営利活動法人 アマツキツネ 「ルナティックハウンド」  作者: 涼城 鈴那
九十九神(ツクモガミ)

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8/15

アマツキツネの4人


街の中心から離れた4階建ての雑居ビルの2階に「特定非営利活動法人 アマツキツネ」の事務所はあった。


現在は午後2時前、事務所内には二人の女性しかいなかった。

一人はハーフの様な顔立ちの金髪美女、グラビアモデルの様な体形をラフなスウェットに包んでいる「アカツキ 五月メイ」が彼女の名だ。タウン情報誌の肉料理の特集を見ながら、ガラス瓶に大量に入ったキャンディーを噛み砕いている。


もう一人は小動物の様な小柄な少女とも見える女性「信楽しんぎょう 弥生やよい」。弥生は目の前のパソコンで周辺のマップ情報を調べていた。


「焼き鳥の『風林火山』って美味しそうだねー。」

「五月さん、焼き鳥は肉が小さいって文句言ってたじゃないですかぁ?」

五月さんの食べるペースじゃ焼くの絶対間に合わないですよ?と意見が出る。


「焼肉の『肉丸』ってのもいいかなー?」

「だから、バイキングだと営業妨害で出禁になるから駄目ですって。」

前もって予約できるお店じゃないと、お肉足りなくなるんですよ。前も30人分で予約して4人で行ったらひと騒動したでしょう?と平穏な会話が続く。


しばらくして弥生がパソコンの画面から目を離し、明後日の方向を見つめた。


「あ、所長と義経さん帰ってきたようですね。」

「んー?そうなんだー。」

弥生は立ち上がって隣室に備え付けの給湯室に向かい、薬缶に水を入れ湯を沸かす用意をした、その間も五月は変わらずタウン情報誌から目を離さずキャンディを噛み砕くのに忙しい。

エレベーターの駆動音がしたあと、間もなく扉が開き、二人の男が姿を現した。


「ただいま帰りましたよー。お変わりありませんか?」

一人は20台半ばと思われる痩せぎすの和装の青年で、伸びた黒髪は6:4程に自然に分けられ切れ長の左目は出ているが右目は髪に隠れている。彼を見た誰もがおそらく狐のイメージを抱くのではないだろうか。名は「天城あまぎ 義経よしつね


「弥生くんが留守番してくれてるから、心配はしていないけどね。」

もう一人は40代の白髪交じりのアップバングの髪型の精悍な中年男性。ピンストライプのブラウンスーツに包まれた堂々たる筋肉質な体は180㎝を超える。柔和な表情には大型の闘犬を思わせる雰囲気の「大館おおだて 政光まさみつ」、所長。


「出張お疲れさまでした。今、お茶入れますね。」

弥生が隣室から顔を出して二人を出迎え、お茶の用意に引っ込もうとした時、


「あー弥生さん、お土産に嬉野茶買ってきましたから、これにしましょう。」

「わぁ、ありがとうございます。義経さん、出張は佐賀でしたね。」


義経と呼ばれた青年は紙袋から茶の包みを取り出し弥生に手渡し、他の土産もテーブルに並べる。松露饅頭、小城羊羹、佐賀錦、博多通りもんが並べられた。

それを見た五月はタウン情報誌を放り出し、テーブルに移動してそれぞれのお菓子を物色する。


「五月さんも嬉野茶飲みますか?」弥生が五月に一応尋ねた。

「あたし、苦いの嫌い。でも砂糖をいっぱい入れてくれたら飲もうかな」と五月。

「五月さん、緑茶に砂糖なんて暴挙、絶対駄目ですよ!」義経が窘める。

「はは、コーヒーを入れよう、それなら幾ら入れても良いだろう?」と政光。


義経と政光の荷物の片づけが終わる頃には、お茶とコーヒーの用意が完了した。


────────────────────


「NPO法人 アマツキツネ」の職員の4名が久々に勢揃いしたところで、午後のティータイムが始まった。


早速4つのお菓子を食べ比べた五月は、「博多通りもん」を指さし訴える。

「これが一番好き、もっと食べたい。」


その言葉に義経と政光はお互いに顔を見合わせ、政光は苦笑し義経は得意そうに笑みを浮かべる。義経は背後の紙袋から更に「博多通りもん」を出した、5箱も。


「そう言うと思ってちゃんと買ってきましたよ五月さん?」

「やはり洋風が好みかぁ、僕は佐賀錦も気に入ると思ったんだけどなぁ。」

この二人は五月がどれが気に入るか賭けでもしていたのかもしれない。


「わたしは佐賀錦大好きですよ、上品で甘過ぎないし。」

「嬉野茶と合わせるなら小城羊羹の甘さが一番だと思いますよ?」

「僕は松露饅頭だなぁ、餡子と周りのカステラのバランスが丁度いい。」


それぞれが甘味とコーヒー、お茶を楽しんでいる所へ弥生が尋ねる。


「そう言えばわざわざ佐賀まで行っての人探しはどうだったんですか。」

「うん、僕の昔からの知人の紹介だから行ったんだけど結構大変だったよ。」

「ええ、まさか人探しが『化け猫騒動』になるなんて、ねぇ?」

義経がため息をつきながらそう言うと『化け猫』の言葉に弥生が反応する。


「それって本当に『化け猫』が出たんですか!?」

弥生は湯呑を落としかける程の反応を見せたが、五月は全く無視して「通りもん」を貪り続けている。その様子を見ながら義経は続ける。


「私は妖怪退治なんて専門外ですからね?今回は何とか成りましたけど、根本的な解決には程遠いからまた近いうちに肥前まで行く事になるかもしれませんね。」


義経は口に残った小城羊羹の甘さを嬉野茶で洗い流しながらそう言った。

『まぁ、お呼びがかからなければそれに越したことはありませんがね。』

そう言って義経は『化け猫騒動』の話を終わらせた、あまり良い思い出では無かったのかもしれない。


「まぁ、当分出張は無いだろうし僕達も居るから、不在の間に対応できなかった依頼なんか片付けると良いんじゃないかな?」

政光が弥生にそう水を向けると、弥生は少し考え反応する。


「あ、五月さん、服屋さんからモデルの依頼がまた来てるんですけど?」

「えー?あれ面倒なんだよねー、何度も着替えたり自由に動けなかったり。」

五月は砂糖をたっぷり入れたコーヒー風味の砂糖水を飲みながら応える。


「服屋さん、有名店の洋菓子を好きなだけ用意するって言ってましたけど?」

「好きなだけ?なら行く。」

そう言って立ち上がった五月は残った10個程の「博多通りもん」をポケットに詰め込み、さっさと扉に向かっていった。慌てて弥生が引き留める。


「あ、服屋さんに連絡しますからちょっと待って、五月さん!」

弥生は愛用のトートバッグを手にすると急いで必要な物を詰め込む。


「じゃあ、所長、義経さん、ちょっと行ってきますのでよろしくです!」

入り口で二人に頭を下げた弥生は急いで五月を追い掛けた。政光と義経はそれを笑顔で見送る。


「・・・弥生君も一寸昔とは見違えるようになったよね。」

「そうですね、雰囲気も変わったし彼女の能力も一段と磨きが掛かってますし。」

義経が茶を啜りその香りを確かめながら感慨深そうに語る。


「主上に集められた私たち3名に対して、自らアマツキツネの門を叩いた彼女。」

「一体、何処までが主上の思し召しなんだろうね?」

「主上もこの先どうなるのか興味深く観察されて居られるのかも知れませんよ?」


そう言って二人は『主上』の意思をを慮って天を仰いだ。



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