清水 空外(そら)
翌日の午後、NPO法人「アマツキツネ」の在る地方都市の駅前に一台の白いリムジンが停まっていた。運転手の男が1人、助手席にしげぴーと呼ばれる顔色とガラの悪い男が1人、後部座席には絶世の美女と呼べるうら若き乙女が3人乗っている。
「流石にこの車じゃ目立って仕方ないわね、茂樹、他のを用意して。」
長い黒髪の華陽がしげぴーへ命じ、しげぴーは即答する。
「はい!華陽お嬢!早速車を用意します、しばしお待ちを!」
慌ててドアを開けたしげぴーへ、若藻が呼び止め念を押す。
「あたし狭っ苦しいのヤだからね?広い奴にしてよね?」
「はい!若藻お嬢!デカイ車を用意してきます!」
そう言い残し、しげぴーは駅前のレンタカーの営業所目指してダッシュする。
その姿を見送りつつ若藻はため息混じりに華陽に言う。
「はぁ、昔と違ってなんか気の利かない奴等ばっかりだねぇ。」
「時代が違うのよ。昔は組織の上層部を操れば下々は言うがままだったけど、今は警察?とか軍の上を操っても組織自体は操れなかったからね。」
彼女らはこの時代の警察や自衛隊の上層部を篭絡したが、個人は言うがままに操られても組織全体は個人の命令で動くものでは無かった。彼女らの活動していた時代はそうでは無かったと言う事だ。華陽の言葉に褒姒が応える。
「そうね、今は上を操って下まで命令が行き届くのはこんな輩の集団しかないみたいね。昔は国一つが簡単に動いたのに、面倒な時代になったものね。」
しばらく待つ間もなく、しげぴーがリムジンの横にレンタカーのアルファードを横付けした。通りの往来を妨げる形になり後ろの車からクラクションを鳴らされたが、自分の命が掛かっているしげぴーは後続車に盛大にガンを飛ばして黙らせる。
「どうぞ、お嬢、コイツに御移り下さい。」
「へぇ、結構広いじゃん、やるね、しげぴー。」
「褒姒、あなたはここに残りなさい、貴女は色気を出し過ぎるからね。」
若藻と華陽がアルファードの後部シートへ移り、しげぴーが運転席へ座った。
しげぴーはアルファードのステアリングを握り、目的地へと走らせた。
向かった先は赤いクラウンクロスオーバーの所有者として登録された人物の住所のマンションだった。ナビに案内され辿り着いたマンションの駐車場には問題の赤いクラウンは停まってはいなかった。
「その車、無いじゃん?どうすんのしげぴー?死ぬの?」
「さ、流石にこの時間じゃ仕事に行ってるんじゃないかと・・・・。」
「まぁ、いいわ、この街に目標が居るのが解ってるのなら慌てる必要はないわ。」
華陽の言葉にあからさまに安堵の表情を見せたしげぴーは『少し、この街の中を走って。』という華陽の命に従い、大通りを中心にアルファードを走らせる。
華陽はパワーウィンドウを操作し、街の空気感を確かめる。この街は他の街より悪意と呼べる気配が明らかに少ない事が解った。運転している輩の本拠地などは悪意の瘴気が渦巻いているかのようなのに、やはりここに『御先』が居る為だろう。
この悪意の少なさからすると、現在この街で「御先」が活動しているのは明白だ。
そんな事を考えていた華陽の視界に小さな『御先』の気配が映った。
「茂樹、停めなさい。」
「はい!華陽お嬢!」
華陽の命令にしげぴーはすぐにアルファードを路肩に寄せハザードを点滅させる。
「若藻、降りるわよ。」
「どうしたの華陽姉ぇ?」
「目標じゃないけど、『御先』を見つけたわ、関係者よ間違いない。」
アルファードから降りた華陽と若藻はさりげなく前方を歩く少年を目で追う。
その少年は「アマツキツネ」の弥生を訪ねる途中の『清水 空外』だった。
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7年前に生まれた空外少年には、姉である弥生の記憶は無かった。彼が生まれる前に弥生は家を出ていたのだからそれは当然である。
3年前に不動産業で成功した父親が更なる業績拡大のために、県外からこの街に移住後、今年になりこちらの小学校に通い始めたばかり頃、彼は輩に誘拐された。
誘拐された彼を助けたのが弥生と五月で、弥生の「オサキ」が彼のケアをする為に彼の身体に接触した際、彼の体の中にあった「オサキ」の因子が目覚める事となった。
その時に発生した少年の「オサキ」が自我を持ち始めた頃に彼の中に突然、昔確かに居た「姉」の記憶が蘇る事となった。
その記憶は当初漠然としたものだったが、つい先日両親と車で出かけ「アマツキツネ」近くで信号待ちで停車していた時、彼の「オサキ」が懐かしい仲間の気配に気付き彼を「姉」の元へ導いたのだった。
『パパ、ママ、僕にお姉ちゃん居るよね?』
『ソラ君、突然どうしたの?』
『一体何を言ってるんだ、ソラ?お前に姉なんて・・・あ。』
両親の心の中に閉ざされていた記憶が僅かに現れた時、彼は自らドアを開けて信号を渡り、「アマツキツネ」の事務所を目指したのだった。慌てた両親は路肩に車を停めてその後を追い、今まで忘れていたソラの「姉」、弥生と再会したのだった。
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それからというもの、空外少年は学校の帰りに「アマツキツネ」へと立ち寄っては弥生の邪魔にならない様に事務所で過ごし、時には五月が遊びに連れ出したり、おやつを貰ったりする事が日課となっていた。
その少年を、その少年の「御先」を、華陽が発見したのだった。




