近付くXデー
翌日の午後、各所を回って情報収集をして来た政光は、スマホで連絡を取り近所のファミレスへ義経と彩音の2人を呼び出した。
「アマツキツネ」事務所で連絡を受けた義経と彩音は各々少し時間を置き、事務作業中の弥生と愛流々に外出する旨を告げ、机で寝ている五月を横目に事務所を出て政光指定のファミレスへと向かった。
ランチタイムを過ぎ席の半数が埋まる程度の込み具合、3人は4人掛けの席に陣取り
『ドリンクバーで長居するって性に合わないんで、とりあえず何か注文して?』
事務所の近所の店舗に迷惑を掛けたくないのと、少しでも店にお金を落とそうとする政光にそう言われ、あまり食欲が湧かないと思いつつも彩音は単価のそこそこする、フルーツパフェを選び、義経と政光はフルーツあんみつを注文した。
「昨日、義経君から知らされた事も含め、裏付けを取って来たんだが。」
政光がそう告げ、座席に置いたバッグからファイルを取り出しテーブルに置いた。
ファイルは義経と彩音の分、2部用意されておりそれぞれ手に取り目を通す。
「ああ、時系列順でまとめてあるんですね、解りやすい。」
「姉さんが最初に養子に出された処から?こんな短時間で良く調べられましたね?」
「自分の足で歩いたんじゃ間に合わないからね、関係各所に然るべき人物に仲介して貰って同時に調べて貰ったんだ。」
そのファイルには弥生の人生における節目で何が起こったのかが記されていた。
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信楽家に生まれた女児には出生直後から金色の「管狐」がその身を護る様に纏わりついており、明らかに普通の「管狐」とは様子が違っていた。しかもその女児は生後2年経っても自分の「管狐」を知覚する事すら出来ず、彼女の「管狐」は勝手気ままに行動するのみで、信楽家ではその扱いに苦慮していた。
一方その頃生まれた男児は生まれながらにして「管狐」を10匹支配下に置き、生後2年も経つ頃には「管狐」を自在に操れるように成長しており、次期当主として育てられる事となる、それが彩音だった。
そして弥生が6歳、彩音が4歳の頃、当時の信楽家当主の夢枕に神の使いを名乗る者が立ち『弥生に憑くモノは「管狐」ではない別の強大な力を持つモノで、将来それと弥生を巡って邪悪な者たちとの争いが起こる』それ故、信楽家の為にも弥生の為にも邪悪な者から隠せ、とのお告げがありそれを実行に移したのだという。
『この頃から姉さんを狙う奴らが居たのか?信楽家の対応は仕方なかったのか?』
彩音はその事実に困惑するが、今は信楽家など考えている暇は無い。その後を追う。
弥生は遠縁であった「清水家」に引き取られる事となる。母親は生来身体が弱く子供は望めない体だった為、引き取った弥生を我が子のように愛情も持って育てていた。
そして弥生が清水家に来てから清水家に徐々に変化が表れていったという。
母親の体調が快方に向かい始め、数年後には同年代の女性よりも健康と言えるまでに体調は改善していた。母親に変化が現れる頃には父親の方も仕事面で転換を迎える。
不動産会社に勤務していた父親が関わった仕事で、たまたま格安で購入した土地が大手商業施設の出店で数倍の価格に跳ね上がったり、反対に相場以上の価格で売った土地が数か月後に暴落したりと、幸運が続き社内での評価も上昇し給与も倍増した。
しかし会社員の立場では限界もある為、取引相手や知人の勧めで不動産会社を興す事となり、弥生が12歳になる頃には相当な資産を形成するに至り、両親は弥生が福を齎してくれたのだと一層の愛情を注ぐ事となる。
そして母親の妊娠が発覚、我が子を諦めていた夫婦に幸せの絶頂が訪れた。
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「・・・ここまで行くと姉さんを匿う代価として、『オサキ』が上手く立ちまわって清水家に福を齎せたとしか思えないんですが?」
「うん、おそらくそうなんだろう。母親の妊娠も『オサキ』が体調を回復させた故のモノだろうし、その時期に母親の胎内で影響を受けたソラ君に今『オサキ』が憑いている理由も頷ける。」
彩音の考えを政光が肯定する。『オサキ』は自らの宿主である弥生の生活環境を整えているだけなのかもしれないが、それが結果的に清水家の幸運に繋がっている。
「そして母親の妊娠が発覚した頃、弥生君が中学校の3年間を過ごす事となる「若葉の里」に多額の寄付が送られ、建屋の改築が行われている。」
「それって『合歓木学園』の時と同じですよね?」
「そう、おそらくこの頃、何者かの手が清水家の周囲に及ぼうとしたのか、新たな匿い先として『若葉の里』が選ばれたんじゃないかと思う。」
弥生を清水家から引き離すに当たり、『オサキ』は清水家に『空外』という実子を残すアフターフォローまで行ったと言う事なのか?そして弥生と『オサキ』は新たな潜伏先へと移る事になった、
「この『若葉の里』も『合歓木学園』も、そして『アマツキツネ』も成立した過程がよく似ているんだ。弥生君を匿う為に準備が極秘裏に進められて、自然に弥生君が加わる形で彼女を保護するという点が。」
政光は全ての背後でお膳立てをしたのは、彼らの最高神『九尾の狐』の主上様なのは間違いがない事は確信しているが、その存在そのものは彩音には伏している。
「ただ違うのは、我々『アマツキツネ』は彼女をただ保護する役目では無くて、弥生君を狙う者から守り抜く力を持った者が集められていると言う事だ。」
問題は奴らがいつ襲って来るのかだが、これははっきり言って解らない。
しかし、ここにきて彩音という『管狐』使いが『アマツキツネ』に加わったという変化は、奴らが襲って来るXデーが近い事の現れかも知れない、政光はそう言った。
「奴らが襲って来るなら、それなりの覚悟はある。・・・しかし、奴らの情報が一切無いというのは圧倒的に不利だ、臨機応変にも限度がある・・・。」
「せめて相手が人間なのか、妖なのかだけでも解ればいいんですがね?『銃』と『お札』、どっちを用意すれな良いのかすら解らないというのは・・・」
彩音は、政光と義経の会話の内容に悲観的なモノを感じたが、彼らの表情には悲壮感は感じられなかった。彼らにはある程度の相手は対処できる力と自信が有るのだ。
それに今までの話の内容が正しいとすれば、弥生の次の潜伏先が示されていないと言う事は、その必要が無いと言う事なのだ。それは奴らを撃退できるという証なのだと信じたい。そう彩音は思った。
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栃木県、某市 「天声組」事務所内
「若藻お嬢!車の持ち主の住所が判明しました!」
「しげぴー!よくやった!あんたもやれば出来るじゃん!?」
しげぴーは予想に反して若藻に褒めたたえられ困惑しつつも、礼を言わなければ不味いと思いつき、慌てて若藻に対し褒めて貰った事に対し礼を言う。
「あ、有難うございます、若藻お嬢!次もお役に立てるよう精進します、」
「ホント、今日が命日にならずに済んでよかったねー?もう後が無いからね?」
若藻の言葉に顔面蒼白になったしげぴーに別の少女から声が掛かる。
「居所が解ったのなら今すぐ様子を見に行くわ、準備なさい。」
那須野に向かっていた華陽が戻ってきており、スマホを弄る手を止めソファから立ち上がり、しげぴーへ車の準備をするように命じた。




