親子の再会
弥生と養父母の再会は感動の再会という訳には行かなかった。
養母は号泣し弥生を抱き締め、養父は弥生に向かって涙を流しながら叱責した。
『何故勝手に出て行ったのか!?』と、実の娘を心配するように本気で叱っていた。
彩音は彼らが心の底から弥生を心配していた事実を確認した。今の今まで「清水家」から追い出されたのだと思っていた事が全くの誤解だった事を思い知らされた。
義経が突然の再会に混乱する3人とそれを不思議そうに見つめる少年に声を掛ける。
「皆さん、立ち話も何ですから、取敢えず中に入ってお座りください。」
義経ににこやかに中のテーブルへと誘われ、我に返った夫妻と弥生は言われるままに、案内されるまま席へと着いた。
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3人×3人掛のテーブルに、清水夫妻が並んで座りその対面に義経と弥生、その隣に空外が座る。彩音と五月は隣のテーブルでその様子を観察し、愛琉々が嬉野茶を4人分入れてそれぞれの前に置き、空外少年ににこやかに尋ねる。
「そら君はオレンジジュースとコーラ、どっちがいい?」
「あたしオレンジジュース!」と勢いよく五月が手を上げ、空外少年も
「僕も同じのがいい。」と答えたのでオレンジジュースを二人分用意した。
少し落ち着きを取り戻した夫妻は、改めて弥生に今までどうしていたのかを尋ねる。
それに対する弥生の受け答えに、彩音は我が耳を疑うのだった。
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「小学6年生の頃、お義母さんが妊娠したから出て行かなきゃと思って・・・」
「ちょっと!弥生ちゃん!なんでそうなるの!?」
「私たちの間に子供が出来たからってお前は私たちの娘には変わりないんだぞ!?」
弥生の意外過ぎる答えに両親とも驚愕のあまり金切り声を上げた。
義母は生来体が弱く妊娠が難しいと診断された為、数年で不妊治療を諦め、遠い親類の弥生を養子として迎え、約6年間我が子と変わらぬ愛情を注いできていたのだ。
「お義母さん、弥生ちゃんを思い詰めさせるような事言ってたりした?」
「お前が私達と血がつながっていない事をそこまで悩んでいたのか?」
両親は自分達が娘を追い詰めるような言動をしていたのかと、弥生と暮らしていた時の事を思い出そうとする。しかし、幾ら考えてもそんな事はしていないはずだった。
「・・・あれ?私、何の不満も無かったし弟が出来るって喜んでたのに?」
両親に問い詰められた事で改めて当時を振り返った弥生は、何故自分が家を出ようとしたのか、その理由が幾ら考えても思いつかなかった。『え?どうして?』
清水家に迎えられた後は実の娘と変わらぬ愛情を注いでもらったはずだった。当初は体の弱かった義母もだんだん体調が良くなって、家庭は更に円満になり、サラリーマンだった義父も仕事が上手く行き出世もして、理想的な家庭だったはずなのだ。
そして弥生が6年生の頃、完全に健康体に戻っていた母が妊娠し『弟が出来るんだ』と喜んだ弥生は、『これで私が居なくても大丈夫だ。』との考えに至ったと言う。
「・・・なんでそうなるんだ弥生?お前が出て行かなきゃなんて考えるなんて。」
「まって弥生ちゃん?なんで弟が出来るって解ったの?当時は私達も性別なんてどっちでも良かったから、先生に教えて貰って無かったのよ?」
母の言葉に弥生は『・・・あれ?』と呟いた。そして当時の事を思い出そうとし
「・・・そうだ、お腹の中のそら君に『僕が居るから大丈夫だよ』って言われて・・・『うん、お義父さんとお義母さんの事お願いね。』って・・・・」
そうして家を出た、事を弥生は思い出した。
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「え?弥生さん、自主的に家を出た後はどうしたんですか?」
意外過ぎる弥生の告白に、義経が思わず割って入った。
「身の回りのモノだけ持って家を出たら、そこに優しそうなおじさんが居て・・・」
『弥生ちゃん、じゃあ行こうか。』って言われて付いて行って、そのまま養護施設に入ってそこから中学校に通う事になったのだと言う。
「あの失礼ですが、弥生さんが出て行った後、ご両親はどうされたんですか?」
義経に問われ、両親は改めて当時を振り返り弥生が居なくなった時の記憶を手繰り寄せる。しばらく考えていた両親だったが、共に困惑した表情になった。
「・・・あ、そうだ、弥生は元気でやってるかな?と想いつつもそんなに心配はしてなかった・・・のか?・・・娘が居なくなったのに?・・・何故?」
「そうよ・・・まるで自分達で娘を送り出したかのように、普通に思っていたわ。」
弥生も両親もお互いに当時の心境が異様だった事に思い至り、愕然としていた。
義父は髪の毛を掻きむしり『一体、何故?』と自問自答し、義母も『なんで娘が居ないのに心配しなかったの?』と両手で顔を覆い、自分を責める。
弥生は弥生で両手を口に当て中空を見つめて、自分の行動がいかに非常識だったのか、何故そんな事をしたのかと混乱しているように見えた。
『・・・これは、よろしくないですね。』
ここで義経が3人の『説得』に取り掛かった。
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義経が3人の話を聞いていて思ったのは、この騒動が誰かに仕組まれて引き起こされた物だと言う事だ。『娘が居なくなる』という、非常事態に当時の彼らの記憶と感情を操作し、さも円満に娘を送り出したと言う『偽りの記憶』を植え付けたのだ。
その彼らが再会する事で当時の異常さを思い知らされ、心の均衡が崩れかけているのに気付いた義経は、『偽りの記憶』を利用し、彼らの心の安寧を取り戻そうとする。
先程からの弥生の告白を無かったように記憶を誘導し、両親には円満に娘を全寮制の学校に送り出した『偽りの記憶』を、弥生には両親に祝福されて送り出された『偽りの記憶』を思い出させて、つい先ほどここで偶然の再会を果たしたという『事実』を植え付け、現状はお互いの近況報告をしている和やかな『場』を演出した。
一部始終を傍から見ていた彩音だけは、今、何が起こっているのかを理解した。
五月は空外と一緒におやつに用意していたドーナツを食べて、空外の空いたコップにオレンジジュースを注いで幼い少年の世話を焼いていた、
以前義経が、我が子を虐待していた親の記憶を改竄し、以前から仲睦まじかった親子だった様に思いこませ、問題の有った家庭環境を一変させた事を今ここで再び行ったのだ、と彩音は理解した。
弥生が自分で出て行った時のお互いの異常な対応を改めて思い知らされて、精神の均衡が崩れる前に義経がケアしたのだ。既に異常な記憶は双方に無く、お互いの近況に安心し笑顔で思い出話に花が咲く中の良い家族の姿がそこにはあった。
「そうだ、弥生ちゃん携帯の番号教えて、何かあったら連絡するからね、」
「あ、私にも教えてくれ。たまには娘の声が聞きたいからな。」
「私が電話掛けた方が早いから、お義母さんの番号教えて?」
久しぶりに再会した極普通の仲の良い親子のやり取りを前に、彩音の中では様々な疑問が沸き上がっていた。
『何故、弥生は出て行ったのか?』
『何故、両親はそれを疑問に思わなかったのか?』
『弥生の出奔後の手当てをしたのは誰なのか?』
『弥生を『誰』から匿おうとしているのか?』
政光は言っていた『アマツキツネ』も弥生の為に用意された物なのではないか、と。
それを思い出した彩音はある事に気付いた。
『僕の今までの行動も、何者かに導かれて操られた結果なのではないか?』
彩音は少し背筋が寒くなった気がした。




