勝利条件
「アマツキツネ」事務所、室内には幹事の政光を覗く面子が揃っていた。
理事である義経、弥生、五月に、彩音と愛琉々の5人だ。
政光は「アマツキツネ」が弥生を護るために設立された説を裏付ける為、情報収取に出ていた。弥生が既定の18歳を迎え、施設を出なければならなくなった為、次なる秘匿先としてこのNPO法人が設立されただけとは考え難かったからだ。
弥生を匿う為だけなら自分達「人外の者」を集める必要はない。特に五月の様な荒事専門の者が召喚されるなど、穏やかな生活を想定しているとは思えない。
その手掛かりとして、弥生が高校に入学すると同時期に児童養護施設を変わった事実、それを詳しく調べる為、直接二つの施設の職員を訪ねるために出ているのだ。
何しろ中学生の頃過ごした「若葉の里」は隣県にあり、何故わざわざ越県してまで施設を移る必要があったのか、なにかの理由があるのか?
施設を変わった原因として、弥生の進学したかった高校が『合歓木学園』から通う必要があり、その為に施設を変わったのではないかと考え、弥生に確認したところ
『通った高校は施設から通える範囲に在ったからそこを選んだ。』との事だった。
つまり、高校進学が原因ではなく『合歓木学園』に転入する必要が先にあり、高校進学はその副産物でしかなかったのだ。政光はそこに何か理由があると見ていた。
────────────────────
義経の目には最近弥生の「オサキ」が活動を自粛しているように見えていた。
いや、確実に以前より行動範囲も狭くなり、活動時間も短くなっていた。もっと言えば用の無い限り常に弥生の傍に居り、何者からかは解らないが自身と「弥生」の存在が見つからない様に隠れているとしか考えられない。
『やはり、Xデーは近いんでしょうね。』
義経はそう考えていた。ただ、自分達を招集した主上様からは何の指示もなく、追加要員も用意されていない。それを考えると、この事態は自分達だけでクリア出来る物なのかとも思える。しかし、その勝利条件は?何を持って成功とするのか?
『敵性勢力の撃滅』・・・これが出来れば無問題だが、果たして出来るのか?
『主上様が降臨されるまでの時間稼ぎ』、主上様が降臨されるのは余程の事だが?
一番可能性が高いのは現在絶賛成長中の『オサキ』の覚醒、これかも知れない。
何しろ「九尾の狐」由来の「オサキ」が3匹も居るのだ、覚醒すればもう敵性勢力も手出しなど出来はすまい。しかし敵性勢力も覚醒前に何としても「オサキ」をどうにかしたいのは確実だ。「オサキ」と共に成長している弥生が覚醒して「オサキ」を自在に操れるようになれば全ての問題は解決するだろう。
あとは「オサキ」の覚醒と、敵性勢力との衝突、どちらが早いかの問題だけだ。
────────────────────
当の弥生はパソコンを使って愛琉々に簡単な仕事の仕方を教えていた。
愛琉々も真剣に取り組むし、元々自頭は良い為、仕事の内容はすぐに覚えてしまう。
しかし、最近は愛琉々がする仕事はそう多くはない。彩音が「アマツキツネ」のホームページとその内容を見直して、依頼者からの相談や問い合わせをメールとチャットを使って出来るように改良した為、電話応対自体が激減してしまっていたからだ。
仕事が少ないのに世間一般よりも高額のバイト代が出る事に愛琉々は恐縮していたが、その辺りは弥生がしっかりフォローしていた。愛琉々に対して今まで相談を受けた企業などの履歴を見せて『この企業はこういう業務をしている。』『この業種はこういった一面がある。』と教える事で、彼女の将来就きたい職業を探すと言うケアまでを引き受けていた。
これにより愛琉々は今まで自分には無縁だと思っていた仕事や業種にに興味が湧き、自分の将来が決して悲観したものではないと言う事を実感し、以前よりも表情が豊かになり口数も多くなり、傍から見ても見違えるような明るさを取り戻していた。
「弥生さん、すいませんあたしの為に色々教えて頂いて、お仕事でもないのに。」
「空いた時間は有効に使って良いのよ、ほら五月さんなんて寝ちゃってるし。」
弥生に言われた方を愛琉々が見ると五月が机に突っ伏して寝ている所だった。
五月はモデルの仕事の他は荒事専門と割り切っており、仕事の無い時には寝ているか何かを食べているかだった。今は腹が満たされている為の睡眠をとっていた。
その五月がピクリと何かに反応し顔を上げると同時に、義経も顔を上げ入口の方を見た。彩音も釣られて入口の方を見、そこで意外な物を発見した。
小さな金色の「管狐」がちょろりと顔を出し、室内を確認したかと思えばすぐに引っ込んだ。彩音は驚愕し思わず義経を見、彼と視線が合う。
『!?「管狐」!?いや、金色だ『オサキ』の子供!?』
五月が立ち上がり、入り口の扉を開けると、そこには小学校低学年位の男児が居た。
少年は室内を見、そこに弥生の姿を見つけるといきなり叫んだ。
「お姉ちゃん!僕だよソラだよ!」
お姉ちゃんと呼ばれた弥生と目が合うと、少年の背中に小さな金色の「管狐」の姿が隠れたが、弥生にそれは見えていない。が、弥生はその少年に思い当たった。
「君、あの時、車で誘拐されてた子だよね?」
数か月前に誘拐されかけた少年を発見し、弥生と五月でカーチェイスをしてその身柄を確保したあの時の少年が「アマツキツネ」を訪ねてきたのだった。
「お姉ちゃん!」
ソラと名乗った少年が再びお姉ちゃんと呼び、その直後に表で少年を探す声がした。
「空外!?一体どこに行く気なんだ!?」
「ちょっと待って空外ちゃん!?」
空外少年を追って両親らしき二人連れが扉の向こうに姿を現し、弥生と目が合った。
「!?」
少年の両親と弥生がお互いを認識し、一瞬固まったあとに3人が同時に叫んだ。
「弥生ちゃん!?弥生ちゃんなの!?」
「弥生!弥生じゃないか!どうしてここに!?」
「お義父さん!?お義母さん!?」
その3人の様子に驚愕した義経と彩音はお互いに顔を見合わせ、愛琉々は何事かと困惑し、五月は欠伸をしながら少年の姿と「金の管狐」を見ていた。
突然の訪問者は、弥生の養父と養母の「清水夫妻」、それと義弟の「空外」だった。




