合歓木(ネムノキ)学園
彩音は弥生から聞いた、彼女が入所していたと言う施設『合歓木学園』へ向かった。
場所は「アマツキツネ」の有る市の外れの方にあり、朝8:00頃から施設の建屋と職員、入所する子供らの様子を少し離れた場所から「管狐」を使って調べていた。
住宅街の中にあり、割と新しい築年数の大きめの事務所と、こじんまりした集合住宅位の規模の2棟の建屋で十数人の職員と、十数名の子供が入所する施設の様だ。
彩音は「管狐」を使って施設内を見て回る。子供達の暮らす棟と思われる建屋に入り口から入ると、玄関の前の扉の向こうは大きめのダイニング兼ホールがあった。
そこから廊下を進むと6畳ほどの個室が6部屋並んでおり、うち3部屋は二段ベッドと机が二つある小学生の使う部屋の様で、残りの3部屋は個室となっていた。
階段を上がった二階には同じく6畳の部屋が並び、こちらは中高生用の個室の様だ。
児童養護施設のイメージとして一つの部屋に何人か押し込まれて生活するイメージを持っていた彩音は、小奇麗な個室の存在に意外な感じを受けた。
『確かにここは姉さんの言う通り、生活するのに悪い所じゃないな。』
弥生はこういう施設で3年間を過ごしたのかと、思っていたよりは普通の生活だったようで彩音は安堵した。虐待するような親と一緒に暮らすよりは遥かに良い。
丁度、小学校3~4年位の子供達が3人一緒に登校する所が見え、彼らを門まで送り出した優しそうな女性職員が『行ってらっしゃい』と手を振る所が確認出来た。
『職員の人も優しそうだな。こども食堂の例の2人もここなら安心だな。』
こども食堂に戻ったら祥子と陽葵にそう伝え安心させよう、彩音はそう思った。
入所する子供達は、今登校した小学生で最後のようで部屋に残った者は居なかった。
皆ちゃんと学校に通っているらしく、不登校などの問題を抱えた者も居らず、施設の環境は悪くない様だ。
彩音は弥生がここでどういう生活を送っていたのかが気になり、思い切って此処の職員に話を聞いてみたいと考え、門の所で小学生を見送る職員に声を掛けた。
「おはようございます、ここの職員の方ですか?」
「はい、おはようございます。ええ、ここの職員ですが何か御用でしょうか?」
彩音がにこやかに声を掛けた所為か、大して警戒もされずに職員は受け答えしてくれた。女性は30代半ばの優しそうな人で面倒見の良さそうな感じを受ける。
「あの、僕は『信楽 彩音』と言います。」
「え?『信楽』・・・もしかして弥生ちゃんのご家族ですか?」
「はい、ここで3年程にお世話になっていた弥生の従弟になります。」
弥生の従弟と聞いた途端に女性の表情は明るくなって、明らかに彩音を歓迎してくれている風に見えた。『あらあら、弥生ちゃんの。従弟さんなんですね。』と、嬉しそうに聞き返され『弥生ちゃんのお話を聞かせてくれませんか?中へどうぞ』と門の中へと案内された。
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事務所の方に案内された彩音は来客用の部屋に通され、先程の女性職員とここの施設長だと言う年配の白髪交じりの穏やかそうな夫人と、対面でソファに座っていた。
テーブルには来客用のお茶が用意され、歓迎されているのが解る。
「弥生ちゃんは元気でお過ごしなんですね?」
「ええ、今は人助けをするNPO法人で元気に働いています。」
あらあら、と嬉しそうに施設長と職員は顔を見合わせてしきりに頷く。
「弥生ちゃんは大人しくて手のかからない子だったけど、ここに居た時から『人の役に立つ仕事をしたい。』って言ってたから、その通りの生活を送っているのね。」
「施設長、良かったですね、弥生ちゃんが元気で過ごせてて。」
ええ、ええ、良かった。と本当に嬉しそうに言う二人を目の前にして、弥生は少なくともこの施設では不幸では無かった事に彩音は安心した。
「本当に、弥生ちゃんの保護者の方には感謝しておりますの、経営不振だったこの施設に多額のご寄付をして頂いて、子供達も離れ離れにならずに済みましたから。」
『え?多額の寄付?それって姉さんの貰われて行った清水家からの?』
施設長の言葉に彩音は困惑した。彩音は今の今まで弥生は清水家から追い出されたのだと思っていたからだ、それが、施設に多額の寄付をする?そんなに経済的に余裕があるのなら、なぜ施設なんかに入れる必要があるんだ?
この施設は経営不振に陥っていた時に、弥生の入所の際にその保護者から老朽化した建屋を再建できる程の多額の寄付を貰い、施設を建て替え入所していた子供達も他の施設に移動させずに済んだ事を今でも感謝しているのだと言う。
「そこまでして頂いているのに、保護者の方からは『弥生を決して特別扱いしないでくれ。出来れば自主的に任せて放っておいてくれ。』って言われて、寄付の事も全部秘密にして他の子と一緒にして特別扱いできなかったんですよ。」
施設長が言うには、毎月の費用も上限の12万円が入金され続け施設の運営的に非常に助かっているのに、弥生に与える毎月の小遣いも他の子供と同じ月2000円しか与えない様に言われて、ずっと心苦しく思っていたと彩音に告げた。
『一体、清水家って何を考えて姉さんを施設に預けた上に、これ程の金銭的な援助も続けていたんだ?それも決して特別扱いしない様に?一体何故?』
彩音は弥生が養護施設でどんな生活を送っていたのかと、ちょっとした興味本位で此処へ来たのに意外過ぎる真実を明かされ、困惑が収まらなくなった。
その後は弥生がどんな仕事をしているとかの近況を報告して、情報の収集は終えたと判断した彩音は、名残惜しそうな施設長と職員に見送られながら『合歓木学園』を後にした。
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「アマツキツネ」の事務所へ向かい歩道を歩きながら、彩音は弥生が施設に入れられた理由を考えるが、与えられた情報だけでは全くその理由が思い当たらない。
『・・・清水家から出さなければならない何らかの理由が出来た?一体何が?』
施設での話を思い返しても、養父が弥生を放逐したと言った雰囲気ではない。それどころか手厚すぎる程の手当を続けていたと言う。
『これ以上は何か他の情報が無いと解らないか・・・。』
そう考えていた所に彩音の持つスマホの着信音が鳴った。左手首のスマートウォッチのディスプレイに政光から着信アリの表示を見、彩音はスマホを確認した。
『興味深い事実が判明した、事務所で話そう。』
政光らしい簡潔なメッセージが届いていた、彩音が必要とする新しい情報か?
思わず事務所へと戻る彩音の足は速くなった。




