神の眷属
「『オサキ』・・・?『管狐』の他にも『飯綱』もよく聞くけど、どう違うんだい?」
政光の当然の疑問に、義経が少し困った様な表情で口を開く。
「あくまで『おそらく』ですよ?色々調べてようやく解ったんですが・・・。」
「管狐」。「飯綱」、「オサキ」は元は同一で、地方によって呼び名が違うとされる事もあるが、その性質や取得方法は各々でかなり違っている。
「管狐」を授かる方法は、修験者が大和国の金峯山や大峯等で山伏の位を得る際に、山から授かる事となる。使役者の思うままに行動するとされ、主の意思に応じて他家から品物を調達するため、管狐を使う者は裕福になるといわれる。徐々に数を増やして75匹にもなるとされる。まさに彩音の使う「管狐」の事である。
「飯綱」の場合、使役者が身を清めて単独で山へ赴き、妊娠した母狐を訪ねて生まれる子を自分の養子とすると約束し、出産まで母狐の世話をすることで、呼べばいつでも来る子狐を得ることが出来ると言う。こちらも主から使役されるままに行動する。
「オサキ」の名称は、尾が裂けているから「尾裂き」とも、神の先鋒「先触れ」を意味する「御先」だからとも、神の眷属を意味する「ミサキ」から変化したものとも言われている。そして「オサキ」は主の意思と関係なく行動するものとされる。
主の意思と関係なく勝手に行動する所は、弥生に憑く「狐」そのものだ。
「勝手に行動する所なんて、確かに弥生君のモノっぽいね、それにしても神の眷属とか、先触れとか『管狐』とは格が違うような扱いだね?」
「そうなんですよね、それと『オサキ』の名の由来はまだあって、『九尾の狐』の尾から生まれた『尾先』から来ていると言う説もあります。」
義経の説明に政光の目が見開かれた。
「主上様の『尾」から!?その説が正しければまさに『神の眷属』だが・・・。」
しばしば同一視される『管狐』、『飯綱』、『オサキ』ではあるが、その違いが伝承される地域に依るものだけだとも思えない事に政光は困惑する。
「『管狐』も『飯綱』も、山や母狐から授かったりする『使い魔』みたいなモノなんですが、『オサキ』は『九尾の狐』の体毛から生まれたとか、『殺生石』の破片から生まれたとも言われているんです。」
「『殺生石』って『九尾の狐』とされる『玉藻の前』が退治された際に変化したもの
だよね?どっちにしても『九尾の狐』由来なのか・・・。」
政光は弥生に憑いているモノが彼らの主上『九尾の狐』の体の一部から派生したものと知り、思わず腕を組んで考え込む。それを見て義経が口を開く。
「そう仮定すると色々と繋がって来るんですよね、主上様から指示された、この「アマツキツネ」の設立の意味とか裏事情とかが・・・。」
「『アマツキツネ』設立の裏事情?設立は『困窮する善良なる人々の救済の為』って理由で、その為に我々に白羽の矢が当たったって事だったろう?」
政光は主上からの指示で人の姿を借りて人里へ降りて、そこで自分同様の指示を受けた義経共々『困窮する善良なる人々の救済』の為の施設の設立に奔走してきたのだ。
「NPO法人設置に当たって、最低必要な人員は「役員」4人と「社員」10名以上ですが、「社員」は各方面の専門家や、有力者が主上のお告げに従って自主的に参加してくださいましたが、問題は「役員」の方です。」
「『役員』か、最初は僕が「幹事」で君が「理事」で二人しか居なかったよね。」
「NPO法人 天狗」の設立に走り回り「社員」も20名近く集まり、事務所の場所も決定して各種備品の手配も済み、後は届を提出する為に残りの「理事」2人をどうするか考えていた矢先、事務所にふらりと「人狼」五月が現れ、さらに数日後「管狐」の憑いた弥生が事務所のドアを叩いた事で人的な問題も解決し、設立へ進んだ。
「五月さんも弥生さんも主上様に導かれて集合したんだと思ってましたが、少々違っていたんじゃないかと思えてきたんですよね。」
「違っていたってどういう事?」
「つまり『アマツキツネ』自体が主上様由来の「オサキ」を持つ弥生さんを保護する為、彼女の居場所として設立されたんじゃないかって事です。」
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月下の歩道の上を彩音は弥生と共に「アマツキツネ」への帰路についていた。
「彩音くん、受験勉強はちゃんとやってる?」
弥生に問われ彩音は一瞬返答に詰まった、彩音にとっては受験勉強程無駄な物はないと思っているからだ。なにしろ試験の解答など「管狐」が集めてくれる。どんな問題でも満点が取れる、反対に怪しまれない様わざと間違える必要があるくらいだ。
「・・・まぁ、ぼちぼちやってるよ。無駄に周りより2年長く生きてないよ?」
周りの受験生より2年のアドバンテージがあるから問題ない、そういうニュアンスで答えた。弥生に心が読まれなくて良かったと、心の中で思った。
「ふーん、そっか。彩音くんは将来何かやりたい事ってあるの?」
「・・・とくに無いけど『アマツキツネ』の活動内容には関心があるな。」
これは彩音の本心だった。今まで散々汚い大人の世界を見てきただけに、『困窮する善良なる人々の救済の為』の活動に携わっている大人達が居た事は、彩音の大人に対する偏見を改めさせる契機ともなり、興味が出るのも当然と言えた。
「でしょ?私もね、『世の中の人の為になる』仕事がしたいって思っていたから、偶然『アマツキツネ』にお世話になれて凄く嬉しいの、まさに天職って感じ。」
心から嬉しそうな弥生の姿に、彩音は『多分、偶然じゃなくて姉さんに憑いている金色の『管狐』が姉さんの希望する職場を探して案内したんだろうな』と思った。
今も金色の「管狐」は勝手に動き回り、周囲の警戒、情報収集に動いてるのが解る。
彩音の「管狐」の警戒範囲に五月の姿があった。前方50m程先で彼女はフライドチキンの店で大量のチキンを購入したようだった。両手の袋にバーレルやボックスが複数詰め込まれている。『事務所の皆への差し入れというか夜食かな?』その量から彩音はそう思った。丁度店から出たところの五月と二人が合流する。
「五月さん、こんばんわ。」
「あら、五月さん夜食買いに来たの?」
「んー、そうだったけど有る分だけしか買えなかったから足りないのよねー」
この数で足りない?「アマツキツネ」の4人と、もしかして僕の分も入ってるとしても多すぎじゃないかな?彩音はそう思いつつ大量のチキンを確認した。
「ドーナツも買っていくかな、アヤネ、これ持ってろ。」
五月はそう言って彩音に袋を渡してさっさと少し先のドーナツショップへ向かう。
『重っ!?』彩音が両手の荷物の重さに驚いていると、五月は振り向き、言う。
「それ全部あたしのだから勝手に食うなよ?」
『!?これ全部一人で食べるの!?』
驚愕する彩音と弥生を残して五月はさっさと店に入って行った。
彩音は困惑した表情で弥生を見、弥生は苦笑いでそれに答えた。




