新居と最初のカレーライス
「こども食堂」を設立する事が決定した後、政光は祥子と陽葵を「NPO法人 天狗」のスタッフとして雇用し、こども食堂専属の職務を与える事とした。
住居も弥生と五月がルームシェアしているマンションの3階に空き部屋があった為、そこに3人で一緒に住む事となった。必要な家具、家電類を揃える中で、祥子と陽葵は、料理を覚えて店を持つという目標の為、調理器具も買い揃えた。
家電や家具の搬入も終えると、何もなかった部屋が見違える程の変化を見せた。
4LDKの造りなので一人一室が割り当てられ、リビングダイニングは共用スペースとなり、キッチンには真新しい調理器具が並ぶ。
「こんな綺麗な自分の部屋が持てるなんて夢みたい。」
「所長さんに何から何まで用意して貰っちゃって・・・良いのかな?」
「逆よ逆、此処までして貰ってるんだから、しっかり働かないと駄目よ!」
自分達の部屋が出来て勤労意欲が湧き出てきた3人は、記念すべき新生活の一番最初の共同作業として、夕食に「カレーライス」を作る事にした。
それぞれで役割を決め、米を研ぎ、材料を切り、付け合わせのグリーンサラダを作り、材料を炒めて水を入れ煮る、アクを取ってルウを入れ煮込む。
最初はわいわい賑やかに調理をしていたが、完成が近づくにつれて口数が少なくなっていく。説明書の通りに作ったのだ、間違いはないはず、大丈夫・・・だよね。
皿にご飯を取りルウを掛ける、サラダを器に盛りつけ、テーブルに着く。
「じゃあ・・・」「行きますか・・・。」「頂きます・・・。」3人同時にスプーンを口に運び、自分達で作った最初の料理を噛みしめて味わう。
しばらく無言だった彼女らは、気付けばその目から涙が溢れていた。
「・・・美味しい・・・。」
「うん・・・よく出来たよね・・・。」
「こんなに美味しいカレーライス・・・初めて・・・。」
そう言えばカレーライスって最後にいつ食べたっけ?家じゃ随分小さな頃にしか食べた事が無い事を思い出した。ああ、給食で食べたのが最後だったかな?あの頃は、家ではご飯が食べられなくて給食だけが楽しみだったな・・・。
盛りつけられたサラダも食べる。葉物野菜を数種類切って混ぜただけのシンプルなものだが好みのドレッシングで美味しく食べられる。
給食の無い夏休みに、近所の八百屋の店先で『ご自由にお取りください。』の表示のある、キャベツの外側の葉っぱを貰って空腹を紛らわせた事が思い出された。
空腹のあまり、学校で飼っていたハムスターの餌のヒマワリの種の食べてみたら美味しかったので、こっそりポケットに入れて食べていた事もあったな。
自分達で作ったカレーライスを最初に口にした時、その美味しさと共に辛かった過去が思い出された。その過去を振り払う様に二口目を口にすると、これからは毎日普通にご飯が食べられる事が実感でき、3口目で自分達を辛い生活から助け出してくれた人たちの顔が浮かんだ。
「これからはいつも暖かいご飯が食べられるんだね。」
「いつでも暖かいお風呂にも入れるよ。」
「暖かいお布団だってあるんだね。」
つい先日までは貧困にあえぐ自分達を利用して食い物にしようとする大人しか周りには居なかった。でも、今は自分達に救いの手を差し伸べてくれる大人の人達が居る事を知った。
・・・・もう少し大人の人を信じてみよう、3人はそう思いカレーを平らげ、それぞれがお代わりをした。
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「ふーん、みんなでカレーを作ったのか、失敗もし難いし良い選択だね。」
『僕も今日の夜食はカレーにしようかな?』彩音は月明かりの下、愛琉々達の住まう新居のマンションを眺めながらそう呟いた。
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「カレーかぁ、僕もなんだかカレーが食べたくなったなぁ。」
「引っ越し祝いにお蕎麦でもと思いましたが、今日はやめてカレーにしますか?」
「NPO法人 天狗」の事務所にて、政光と義経は金の「管狐」からの知らせによって、少女らの新生活が幸先よく始まったのを確認して安堵していた。
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「愛琉々ちゃん達、カレー作ってるっぽいですね、今日はカレーにします?」
「カレーは香辛料が強すぎてあんまり好きじゃないんだよねー。」
『ええ?そうなんですか?』と五月にも苦手な食べ物があった事に驚く弥生に対し、嗅覚が鋭敏過ぎて上階のカレーの匂いを感じている五月は
「あたしカレーより焼肉食べたい、焼肉。」
「・・・多分みんな今日はカレーを食べてると思いますよ?まぁいいですけど?」
弥生はそう言うと五月のリクエストを叶えるべく、近所の焼肉店へ予約の電話を入れた。幸い客の入りは半分程度で待たずに食べる事が出来る様だ。
「あ、はい、いつもの量をお願いします。え?20人前しか用意できない?あ、それで結構です。足りない時はなんとかしますから、はいよろしくお願いします。」
電話を終えて玄関ドアを閉めた弥生は傍らに居るはずの五月の姿が無い事に気付いた。まさかと思って下を見ると歩道からこちらへ手招きしている五月が居た。
「ちょっと五月さん、私降りれないって、そこで待っててくださいよ!」
弥生は慌ててエレベーターへ向かって駆けた。




