家庭訪問と将来の夢
義経が少女達の家庭訪問を終えるまで1週間の時間が流れた。
10人の少女の家庭を訪問し、問題の肉親の説得して回ったのだが、彼女らの境遇にに共通していたのは彼女らが所謂「搾取子」だと言う事だった。
同じ両親から生まれたのに、姉妹、姉弟、兄妹間で差を付けられたり、子連れで再婚した後、妹弟が生まれた途端に連れ子の少女が疎まれたりと、未熟な親が自らの不満や怒りの矛先を向ける子供、それが彼女らだった。
この場合、他の子供には「愛玩子」として、手厚い愛情を与えており、親自身の未熟さや心理的不安を解消して余裕を与えてやれば「搾取子」の問題が解消する事がある。
義経は問題の肉親を精神的に治療し、少女が特に大切な子供であると思い出させる事で彼らの反省を促し、更には虐待をしていた記憶まで改竄し『説得』したのだ。
この方法で家庭に帰った少女達は今までの愛情不足を取り戻す事が出来る。
しかし、この方法が使えない少女が3名残った。それぞれ「愛琉々(あるる)」16歳、「祥子」18歳、「陽葵」18歳。
彼女らの親は精神的に非常に未熟であり、まともに働かず、彼女らは幼少の頃から貧しい生活を強いられ、身体的精神的、あるいは性的虐待を受けた者まで居た。
彼女らの置かれた境遇を改善するには「親としての子への愛情の回復」「生活環境の改善」「勤労意欲の向上」「就労支援」「周囲の住人との関係改善」等、やらねばならない事が多岐に渡る。
しかし全てを解決できたとしても些細なトラブルでバランスが崩れ、全てが水泡に帰す可能性が非常に高い為、彼女らを元の家庭に戻す事は見送られた。
その為、3人の少女を養護施設に入所させる案も検討されたが、養護施設で育った弥生の手前、政光も義経もその方法は口に出さず他の方法を模索していた。
住居は政光の顔の広さで何とでもなる、部屋を借りて3人で共同生活させる手もある。生活基盤を整える為に自立して働こうにも、3人供に義務教育は終えたものの高校には行っておらず、中卒では働ける場所が限られてしまう。
「将来就きたい仕事とか何かやりたい事ってある?」
弥生が3人に尋ねると、3人ともお互いの顔を見て恐る恐ると言った感じで言う。
「あたしは高校に通ってみたいです。卒業出来たら後は何とかなるかなって。」
愛琉々は16歳、定時制高校や通信制高校に通うという方法もあるができれば普通の高校が良いだろう。来季から高校に通えば将来は大学にだって行けるし、そうなれば普通の生活が送れる可能性は高い、一年中学浪人したと思えば良い。
「私は特には何も・・・ただ普通の生活がしてみたいです。」
祥子の希望に彩音は心が痛んだ、彼女らにとって普通の生活が憧れなのだ。
彼女も高校には行きたかったようだが、18歳の年齢がネックと考えた様だ。
「あたしはお料理が少しできる位で勉強も運動も出来ません。」
陽葵が出来る料理というのも、他には何も出来ないが小学生の頃から親に強制され料理を作らされていた事実があるだけ、という消極的な事情からだった。
3人共に共通しているのは「普通の生活が送りたい。」ただ、それだけなのだった。
政光、義経、弥生に彩音、各々が頭を悩ませるが良い方法は浮かばない。
皆が黙って考えていたそんな時、五月が不思議そうに言った。
「身寄りのない女の子が働くなら、酒場とか食堂とかで良いんじゃない?」
メイが用心棒をしていた『ヴィルトカッツェ』では働く女の子全てが身寄りのない者ばかりで、弱い者同士がお互いを助け合い支え合って生きていた。五月の知識としては女の子の働き口はそれが全てであり、その程度しか思いもつかない。
「五月さん、飲食店で働くにも中卒だと働ける場所が限られるんですよ?」
困った様に言う義経の言葉に政光も乗る。
「そうだね、酒場は論外として個人経営の食堂とかじゃ将来が・・・食堂?」
『食堂』の言葉に政光は何かを思いついたようで、彼の表情が明るくなった。
「そうだ!義経君!食堂だよ!いずれやろうって言ってた『こども食堂』だ!」
「!?計画を前倒しして『こども食堂』をやろうって事ですか?」
「そうだよ!『こども食堂』を立ち上げてこの子らをスタッフとして雇うんだ!」
政光の考えはこうだ。子供達に無料で安全な食事と居場所を提供して地域で子供達を見守る施設「こども食堂」、いずれはやるつもりだったのだ、今やろう。
家庭環境に恵まれなかった彼女らだからこそ、近い環境の子供達に心から寄り添う事が出来るし、食事を提供する際に調理も実践して覚えられ、将来は調理師免許を取得して、飲食で働くなり、自分の店を持つ事さえ出来る。
その説明に少女達の目が輝く、高校にも通えず中卒では働く場所が限られ、普通の生活など夢のまた夢の様に思っていたのに、やる気さえあれば将来は自分の店を持つ事も可能だと言う。暗いトンネルの中を進んでいたら、すぐ目の前に明るい外の世界が見えた様な衝撃だった。
「わたし、お料理やってみたいです!パティシエとかなりたい!」
「私でも、将来おしゃれなカフェとかで働けたりするんですか?」
祥子と陽葵は先程まで悲観していた将来が一気に明るく見えて興奮すらしていた。
「ああ、やる気があればなんだって出来るんだ、将来を諦める事など無い!」
政光の肯定に祥子も陽葵も手を取り合って喜ぶ、政光は愛琉々に言う。
「愛琉々ちゃんも高校に通いながら手伝うって事でも出来るぞ、どうだい?」
愛琉々にも政光の提案は非常に魅力的に思え『是非手伝わせてください!』、気付けばそう答えていた。少女3人の未来が開けた瞬間だった。
早速、政光は翌日から「こども食堂」設立の手続きにかかり、祥子と陽葵もその手伝いを受け持つ事となった。来季から愛琉々が入学する近隣の高校の情報をパソコンで調べていた弥生が、ふと疑問に感じた事を口にした。
「そういえば彩音君、学校はどうしてるの?」
弥生に問われた彩音は少し困惑した後に、自分の置かれた状況に思い当たる。
「・・・そういえば、僕も高校は行ってない・・・な。」
今まで散々高校生を騙っていたので忘れていたが、弥生を探す為に入学予定だった高校を放り出して飛び出してきたのだった。これには政光も義経も絶句した。
「なんだ彩音君あたしたちと同じだったんだ!?」
「そうなんだ!何か妙に親近感があると思ったらそう言う事だったんだね!?」
祥子と陽葵が困惑する彩音の手を握って上下に振り回して大喜びする。
その様子を見た弥生が彩音に提案した。
「じゃあ、彩音君も来季から愛琉々ちゃんと一緒に高校に入学だね?」
『17歳の僕が今更?16歳の愛琉々と同級生?』と困惑する彩音だったが、
『まぁ、目的の姉さんは見つけたんだし、高校生活を送るのも悪くないかな。』
そう考えた彩音は一応渋々と言った風で弥生の提案に同意した。




