カラオケパーティーと説得
夕刻、「NPO法人 天狗」一行と彩音、保護された少女13人は事務所近くのカラオケ店のファミリールームでカラオケパーティーに興じていた。
当初、事務所で少女達一人一人の家出の原因や、抱えた問題、家庭状況等をカウンセリングし、一人一人に合った対処法を探る予定であった。しかし、一人一人に聞いて行くとなると時間もかかり、待ち時間の間にマイナス思考になる少女も出て来るのではないか?との懸念が発生した。
なるべく深刻な雰囲気になるのは避けたい。少女達には明るい未来があるのだと前向きに考えて貰いたい、なにかいいアイデアを模索している時に五月が言った。
「酒場で飲み食いしながら歌ってれば嫌な事考えずに済むよ?」
五月の提案に皆は顔を見合わせ、その提案を検討し始めた。
五月は、以前居た世界で用心棒をしていた酒場『ヴィルトカッツェ』において、悩みを抱えて来店した客が、吟遊詩人と共に歌って飲んで騒いでいる内に、気分を一新して帰って行くのを何人も見ていた。その事実を言ったまでだ。
何しろ邪神の復活が数日後に迫り、世界の滅亡が目前に迫った時でさえ、救国の英雄と呼ばれる男の行動を称える歌を全員で歌って、立ち向かう勇気を奮い立たせた実績もあるのだ。世界の終わりに比べれば、個人の悩みなど大したことではない。
「なるほど、世の中には辛い事ばかりではなく、楽しい事がたくさんあるんだと再確認させて、僕たちがその力になるんだと説得すればいいか。」
政光はそう理解し、皆が同意した上でのカラオケパーティーなのだった。
15人収容のファミリールームで飲み食いしながら、明るい雰囲気でカラオケを楽しんで貰っている間に、少女を一人一人別室に呼んでカウンセリングする。
少女達は数人で一緒に歌い、彩音にデュエットを強請り、政光がマラカスを振って盛り上げ、ひたすら飲み食いする五月を周りから囃したてて騒ぐ。
弥生と義経が別室でカウンセリングする役で、最初は口が重かった少女も弥生のケアに依って、不思議と心が軽くなるのを実感し、『この人達に任せてみよう。』という気になってしまう。
少女がカラオケルームに戻る頃には、すっかり問題が解決した気になって明るくなって無邪気に歌い、その様子を見た他の少女も別室に呼ばれれば悩みが解決するのだ、と実感し自然に雰囲気が明るくなっていく。
結局この日は延長に延長を重ねて、ホテルに戻った時には日付が変わっていた。
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翌日、義経と彩音と2人の少女が、義経の運転する車で少女達の家に向かって高速道路を進んでいた。義経は運転手兼、親の「説得」役として必要不可欠、彩音は少女達の不安を和らげるために同行している。彩音は乗りかかった船から途中で降りてしまう様な性格では無かったからだ。
親から虐待を受けていた事もあり、家に向かうのは流石に不安そうな少女達だったが、これ以上に状況が悪化する事も考えにくく、義経が親の説得に絶対の自信があると力説する事で、不安より期待の方が徐々に大きくなっていた。
一人目の少女は「沙羅」、中学3年生。
昨日、政光が沙羅の両親へ『娘さんを保護している。』旨を電話を掛けた際、
父『うちは息子が一人いればいい、別に帰って来なくても良い』
母『家に戻ってきてもいいが、中学卒業後は働いて家に金を入れろ。』
弟『存在がうざい、居なくなって清々している。」
など散々な事を言われているのを彩音は横で聞いていて、憤りを感じた。
「こんな家庭に戻す意味なんて意味がない!他の方法を考えましょう!?」
「うん、確かにこのままじゃ帰すのは良くない。ただこの両親は弟は大事に育ててる様だ。沙羅ちゃんの何が気に入らないかは解らないが、両親の考え方を変えさえすれば弟以上に大事してくれるさ。」
「こんな奴らが考えを変えるなんて、有り得ませんよ!?」
政光は憤る彩音を宥める様に『まぁそこは義経君に任せておけば大丈夫さ。』と、義経を見ながら言い、義経は笑みを浮かべながら頷いた。
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閑静な住宅街の中に沙羅の家はあった、外見は4LDK程の割合新しい住宅だ。
割合裕福な家なのではないだろうか、そんな家庭の親が娘に『中学を卒業したら働いて家に金を入れろ。』等と言うとはまともじゃない、彩音は改めて思う。
義経はレトロな雰囲気の車を黒いレクサスの停まる車庫前に停め、一人で降りて玄関ドアの横のインターホンの呼び出しボタンを押した。沙羅は車の中で緊張した面持ちで座席に座っている。
義経と母親らしき声のやり取りが二言三言あったあと、通話が終了した。
しばらく待つと勢いよく玄関ドアが開き、中から両親と弟と思しき3人が飛び出して来て、「沙羅!どこだ!?」「沙羅ちゃん!何処に居るの!?」「お姉ちゃん!」と三様に必死に沙羅に呼びかけた。
「え?パパ!ママ!和也!?」
沙羅は自分を必死に探す肉親を見て思わず後部ドアを開けて、車外に降り立つ。
『沙羅!』娘の姿を見つけた父親は駆け寄りその身体を抱き締める。母は涙を流して娘の肩に両手を置いて心からの安堵を見せ、弟は姉の手を取りその頬に押し当てる。
「良かったですね、娘さんが無事に帰ってきて。」
義経が両親にそう言うと、両親は義経に今、気が付いたように慌てて姿勢を正す。
「娘を助けて頂いて、ありがとうございました。」
「本当になんとお礼を言えば良いのか・・・・。」
「お姉ちゃんを連れてきてくれてありがとうございました。」
3人が泣きながら義経に感謝を伝え、何度も頭を下げる。沙羅はそんな家族の様子に困惑しながらもその目に涙を浮かべていた。
「では、私たちは先を急ぎますのでこれで失礼したします。」
義経が両親にそう伝えると、両親は恩人に対し『是非お礼がしたい、』『家に上がって行って下さい。』そう訴えかけ説得を試みるが、義経は微笑んで
「せっかくの親子水入らずですから遠慮しておきます、それに私たちは次に行くところがありますのでこれで・・・。」
義経はそう言って車に乗り込みウインドウを開けた後に沙羅に向けて一言。
「これからはご両親を大事にしてくださいね。」
「・・・はい!ありがとうございました・・・義経さん!」
そう言って発進させた車の中から彩音はバックミラー越しに後ろを確認すると、沙羅とその家族は姿が見えなくなるまでこちらに頭を下げているのが見えた。
「・・・義経さん、何をやったんですか?」
「うん?もちろん『説得』ですよ?考え方を変えて貰っただけですよ。」
義経は前を向いたまま涼しい顔でそう答えた。彩音はその横顔を見、これ以上聞いても正直なところは教えてくれないだろうなと思いつつ、後部座席に座るもう一人の少女の様子を伺った。
先程までは不安そうにしていたはずの少女は、たった今「沙羅」の家の前のやり取りを目の当たりにして、不安そうにしていた表情がかなり明るくなったように見えた。
『義経さんが何をしたにせよ、人の為になった事は間違いない。』
義経の運転するレトロな角ばったフォルムの5ドアクロスオーバーSUVは、ナビの指示する次の少女の家を目指してバイパスを走って行った。




