保護
一行の乗ったマイクロバスは「若年女性支援施設 やすらぎ」に到着した。
既に時刻は深夜3時を回っていたが、この施設は未だに明かりが煌々とついている。
後部座席で寝ている五月と愛琉々、弥生の女性陣を車内に残したまま、彩音、義経、政光が施設前に降り立つ。
義経が扉のレバーハンドルを回そうとするも施錠されているのか開かない。
「あれ?鍵がかかってる?輩の分際で生意気にも用心深いんですね。」
「建付けが悪いだけじゃないかな?輩の事務所だし。ちょっと僕がやろう。」
義経に代わって政光がレバーハンドルを回すと、破砕音と共にレバーハンドルが扉から捩じ切れた。その光景に彩音は目を丸くしたが、義経も政光も平然としている。
支援施設の内部が明らかに騒がしくなり、人が動く気配がしてする。
「随分安普請だねぇ、弁償しろとか言われないよね?」
「弁償も何もこの施設、今夜で御終いですから気にしなくていいですよ?」
『そうだね、じゃあ』と言いながら政光が扉のラッチの部分を右掌で押す。
『ミシッ!』扉の枠を軋ませて扉が内側へ派手に倒れ込み、後ろに居た男二人を下敷きにしたが、政光は押した勢いでそのままドアの残骸の上に乗ってしまう。
「痛!!いてっ!!!う、上から・・降りろ!」
「なんだ手前ぇは!!?」
「お前!どこの組のモンだ!?」
「たった一人で殴り込みとはイカレてんのか!?」
施設内に居た十数人のガラの悪い男達が、いきなり扉を破壊して現れた政光に対し動揺しつつも相手が素手だと知り、強気になって各々が獲物を手にして叫ぶ。
そこへ彩音がひょっこり姿を現すと、入り口付近で小さく悲鳴が漏れた。受付の派手女が限界まで目を見開いて彩音を凝視していた。
「あ、おばさんまだ居たんだ?女の子連れて行くから準備してくれる?」
「は、はい!女の子を連れて行くんですね!?今すぐ準備します!」
彩音に指示された派手女は慌ててスマホを手にして何処かへ電話をかけ出した。
「おい!麗華!何でガキの言う事聞いてんだ!?やめろ!」
「武藤のアニキの言いつけ無視してんじゃねえ!おい!?」
派手女が男達の叱責を無視して電話をしている所へ義経が姿を現す。
「えーと、その武藤さん?今頃警察署で取り調べ受けてますよ?」
「誰だ手前ぇは!?」
「アニキがどうしたって!?おい!何とか言え!」
いきなり現れた義経の言葉の内容に男達は驚き問い詰める。
「どうした?って、銃刀法違反に凶器準備集合罪、全員現行犯逮捕されましたよ?」
「いや、全員まず病院行きじゃないかな?彩音君が相当痛めつけちゃったからね。」
「あんな奴等さっさと殺した方が世の中の為ですよ?病院なんて無駄です。」
仲間たちが全員逮捕されたと聞いて、この怪しい3人組を無事に帰す気など毛頭なくなった男達は隠し持っていた拳銃を取り出し、構える。それを見た義経は一歩前に出
「貴方達もすぐに後を追う事になりますから覚悟してください。」
義経がそう言った途端、男達の足元の床がいきなり黒い水面に変化した。
「!?な・・・なんだこりゃ!?」
「あ、足が動かねぇ!?」
「!?何か出て来るぞ!?」
水面からは幾本もの青白い腕が伸びてきて男達の足を絡めとる。そして黒い頭髪がへばり付く青白い頭が浮かび上がり、水死体の様な身体が男達に纏わりついた。
男達は恐怖に駆られ悲鳴を上げようにも、身体が全く言う事を聞かない。
「!?・・・・・!!」
「!?・・・は・・・!?」
「・・・・・!?」
男一人に数体の水死体の様な物体が絡みつき、そのまま水面下に引きずり込もうとするのに抗うも、叶わずにゆっくりと胸まで黒い大地に飲み込まれる。肩から、頭、両の腕まで青白い手に絡みつかれ残すは首から上だけとなる。
「助け・・・やめ・・・」
「!・・・頼む・・・嫌・・・・」
「!がっ・・・・」
遂に水面下に完全に漬かった男達の意識は急速に薄れて行った。
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「・・・なにしてるんだ?コイツ等?」
彩音は床で藻掻き苦しむ男達の様子を冷徹に見つめ、その異様な苦しみ方に困惑していた。義経が前に出て『覚悟しろ。』と行った後、即座に床に崩れ落ちた者たちは、口々に懺悔の言葉を吐き泣きながら床で苦しんでいるのだ。
義経が何かをやったのは間違いないが、彩音には何も見えない。「管狐」等なら気配だけでも感じるはずだがそれも一切ない。何か怪しい術でも使うのか?この人?
「あ・・・あの、女の子たちもうすぐここに来ます。」
出来事の一部始終を見ていた派手女が恐る恐ると言った様子で彩音に報告する。
いきなり扉を破壊して現れた馬鹿力親父と、全員を瞬時に崩れ落ちさせた優男、これまた妙な力を使う高校生(?)の中では比較的話しかけ易く、一応顔見知りな高校生風の少年の機嫌を損ねない様、遜るだけ遜って腫物を扱う様に様子を伺う。
やがて施設の前に着の身着のままの少女たち13人全員が集まった。
「あ、彩音くんだ。」
「ホントに彩音ちゃんが来てくれたんだ。」
「良かったー、彩音君が居たー。」
再度、救いの手を差し伸べた彩音の姿を確認した少女たちは安堵の表情になる。
「彩音君、これで女の子たちは全員揃ったのかな?」
彩音にそう確認した政光の姿を見て、少女達は一斉にその表情を強張らせた。
政光はにこやかな笑顔を浮かべてはいるが、少女らにとっての『正体不明の大柄な髭面の中年男』に対する反応としては無理もなかった。
「あれれ?もしかして僕もこの輩と同じように思われてる?」
困惑した政光が義経に意見を求めると、義経は苦笑いして彼女らに言う。
「まぁ、正体不明のおっさんですから無理もありませんよね?皆さん?」
義経がにこやかに少女達に同意を求めると、これまた彼女たちは彩音の後ろに隠れる様に移動してしまった。義経も彼女らにとっては正体不明のおっさんだった様だ。
「あらら、私も政光さんの同類と思われてるようですね。」
「僕とは同類だろ?君もインテリヤクザに見えなくもないからね。諦めよう?」
政光が義経に同意を求めている時に、入り口に弥生が姿を現した。
「皆、もう大丈夫だからね?さ、バスに乗って。彩音君、皆揃ってるの?」
「うん姉さん、これで全員揃ってるよ全員で13人。」
彩音の『姉さん』の言葉に少女達は、明らかに安堵の表情を見せた。安堵のあまり緊張の糸が切れる様にして、その場に座り込む少女もいた。彼女らはこの数日の緊張を強いられる生活に身も心も傷ついていてしまっていたのだった
彩音は見た。弥生の金色に輝く「管狐」が少女達に寄り添いその身体を労わる様に触れる事で彼女らが心身共に癒されていくのを。弥生は何も命令していない、なのに「管狐」達は自分達で判断してこの場における最適な行動をしているのだ。
『やっぱり姉さんの「管狐」は僕の、いや普通のモノと明らかに違うんだ。』
彩音の記憶にある、信楽家の連中の「管狐」とも明らかに違っているのだった。
そしてもう一つ気付いた事があった。この弥生の「管狐」は勿論少女達には全く見えてはいないのだが、政光と義経はその行動を目で追っていた。彼らはこの存在を認識しているのだ。
『一体この人達も何なんだろう?悪い人じゃないのは確かだけど・・・。』
弥生の周りの人達の正体が気になった彩音は、「管狐」をバスの中で爆睡している五月の様子を確認させに行かせた。そして彼女が爆睡しつつも周囲の状況は勿論、普段知覚できないはずの「管狐」の動向も感知している風なのが確認できた。
『ホントになんなんだろうな、この人達。』
行きは空席の目立ったマイクロバスだったが、帰りは座席のほとんどが埋まった。
そしてバスは、保護された少女達にとっての希望の明日へと向かって、出発した。




