暁 五月(アカツキ メイ)
ひとしきり腹の膨れた『飯綱』達は満足して部屋に戻ってきた。
未だ人の姿を取っているのは、ミアがデザートを用意するといったからだ。
何かを食べる為、物を運ぶ為、相手を攻撃する為などには実体化しなければならない。他人には見えない透明の存在の時は、マサキから遠く離れた場所まで飛んで彼の「目」と「耳」となり情報収集する事が主な役目である。
扉が開き、ミアと女給がトレーに小皿に盛られたデザートを持ってきた。
「はい、アイスクリーム。今の時期、氷が貴重だから味わって食べてね。」
ミアの言葉にメイは勿論、桜、椿、桃までが貴重なデザートをゆっくりと味わう。
このデザートも、マサキが「氷」を利用してこちらの世界で作ったものだ。
マサキがこちらの世界に来る前、「氷」は病人の熱を下げる為の貴重な医療品扱いで庶民には手の届かない程の高級品だった。それをマサキの斡旋で北の帝国から安価で仕入れる手筈を整えた為、以前に比べて庶民でも手の届く価格に納まりつつある。
メイはアイスクリームを味わいつつ、ふと浮かんだ疑問をマサキにぶつけた。
「マサキ様、もしかしたらコレも異世界にあるんでしょうか?」
「ああ、アイスクリームか?もちろんコレも俺が足りない材料で悪戦苦闘してなんとか再現しようと作ったから、向こうのモノはもっと美味いぞ?」
もっと美味いの言葉にメイは驚愕し、桜、椿、桃の猫耳がぴくりと動いた。
「味の種類も多いし、子供の小遣いで買える位安い。メイ、食べ過ぎるなよ?」
笑いながらマサキが言った言葉にメイは少しずつ少しずつ食べて半分になったアイスクリームをまじまじと見つめた。『これが子供の小遣いで買える?』、甘いモノに目がないメイにとってアイスクリームは一度でいいから腹一杯食べてみたい憧れのデザートだったが、それがもうすぐ叶う事になろうとは・・・。
気付けば、桜、椿、桃が『自分達も連れていけ。』と目でメイに訴えていた。
『それは無理だ、諦めろ。』マサキに言われて彼女らは頬を膨らませ不満を表す。
彼女らの訴えを無視して、話題を変える様にマサキがメイに言う。
「あ、それと向こうで使うファミリーネームだが『暁』を名乗れ。」
その瞬間に今まで無口だったアキラが盛大にむせて咳き込んだ、余程驚いた様だ。
「し、し、失礼し・・・しました。そのお名前をメイに名乗らせるなど・・・。」
「いや、これは紅月様本人からの指示でな、アキラ、お前も「暁」を名乗れ。」
『!!!??』
その言葉にアキラは目を見開いて驚愕し、やがて両手で顔面を覆い肩を震わせ、声を押し殺して泣き出した様だった。『・・・なんと・・・勿体無い・・・。』辛うじてそれだけが口に出来た言葉で、アキラはしばらく肩を震わせていた。
「まぁ、お前たちは紅月様と長い間一緒に行動してきたからな、紅月様にとっては既に親族の様なものらしい、『アキラ・暁』に『暁 五月』だ、そう名乗れ。」
こうして人狼メイの異世界での姓名は『暁 五月』となった。




