南門崩壊
『速く確実にコイツ等を倒さなければならない!』
メイは飛び込んだ先にあったオークの顔面に目掛けて右の拳を叩きこむ。
オークは一撃で絶命するが一体を倒す時間が短縮できたか微妙だった。
背後から片手剣を振り下ろしてきたオークに振り返り、振り下ろされた剣を掌底で叩き折って無力化した上でその胸元に手刀を抉り刺す。
『まだまだ速さが足りない!東門を助けに行かないと!』
一匹一匹を早く確実に倒す為、弱点を突き一撃で絶命させる必要がある。
出来るだけ正確に急所を突くため、相手の動きを見極めなければならない。
相手は動いている、急所も動く。無暗矢鱈に急所以外を攻撃して2撃必要になるのは避けたい。場合によっては攻撃タイミングをずらして確実に急所に当てる。
更に時間を短縮する方法を試みる。一度の腕の振りで二匹の頸動脈を切断する事が出来れば単純に時間は半分になる。更に体の流れを利用して、切り返さずにそのまま体を反転させ、体重を十分載せた蹴りで相手の肋骨を砕く。流れを利用する
動きを見極める、今までは自らの再生能力を頼りに相手の攻撃を敢えて受け、力で相手を捻じ伏せてきたが、一々受けていては此方の動きが停まる。ならば受けずに避けて流し、勢いを殺さず次の攻撃につなぐ。
力の流し方、勢いを利用した攻撃のお陰で、同じ手数でより多くの魔物を倒せる事が出来るようになる。メイは格下との戦いで如何に無駄無く効率よく確実に倒せるのかを考えつつ動いて回る事で、確実に自分が強くなっていくのを実感していた。
『力任せに戦うのではなく、効率よく身体を使う事で殲滅速度は速くなる!』
メイは効率よく戦う事を考える事で、今までアキラと戦うのに自分が何も考えず、ただ力を振るっているだけだった事に気付く。奴との戦いも相手をよく見て最適の行動を取る事でもっと食らいつく事が出来たはずだった。
魔物達の殲滅速度を確実に上げながらメイは思う。
『今の私なら、アキラとの戦いももっといい勝負が出来るのではないか?』
幸いにも今夜は満月、活力も体の奥から勝手に沸き上がり疲れなども全く感じない。
メイは戦いの中で効率の良い体の使い方を試し、様々な相手の体格と間合いに瞬時に対応できるかを常に考えて行動した結果、明らかに昨日までとは全く違う強さの自分を手に入れた事を実感していた。
城壁を登らんとするゴブリンも冒険者達の奮闘で城門を登り切る者は居なかった。
「なんとか、ゴブリンの方もカタが付いたな・・・。」
「ああ、それにしても姐さん、えげつない強さだな。」
「全く、あの増援粗方一人で潰しちまってるじゃねぇか。」
北門の増援もほぼカタがつきそうになった途端に、虚空の黒い穴から二度目の増援が湧いて出てきた。今回もまた最初の増援よりも多く、強化された魔物が送り込まれてきたようだ。
城壁を登る為の更に数多くのゴブリンたち、メイの動きに付いて行く事は無理だと悟ったのかプレートメイルで強化されたオーク達、そして魔導士達は味方への被害を考慮したのか全く居らず、代わりにオークより大型のオーガまでが投入されていた。
「おい!これじゃあ、キリが無いぞ!一体いつまで湧いてくるんだ!?」
「王都の邪神が封印されるまで続くんじゃないだろうな!?」
「おい!東門の方はまだ増援が来ないみたいだぞ!?」
冒険者の声に釣られ東門の方を見ると、一度目の増援がまだ相当数残っているせいか、二度目の増援は投入されていない様だった。最初に崩壊するかと思われていた東門がかなり粘る事が出来ているのは、邪神側は各門の戦況に応じた戦力を逐次投入する腹なのか?そして南門に目をやった冒険者が気づいて叫ぶ。
「おい!南門に!ありゃ何だ!!?」
最も戦力が高く一番安泰と思われていたアキラの護る南門に、黒い穴から投入された増援は北門から見ても目視できる程の、城壁よりも大きな魔物だった。
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南門側の草原に落下してきた巨大な魔物は、人面で虎の様な体躯の四つ足の魔物で尾や足は様々な生物を合わせたような形状の合成獣だった。その前方に随伴して来るオークやオーガと言った魔物は通常と違い黒い身体をしていた。
南門を護る人狼「アキラ」は空から落下してくる魔物達を見ても動揺しなかった。
精悍な青年の姿を取るアキラは銀髪を風に揺らしながら、おそらく強化されているであろう増援のオークやオーガと言った魔物と後方に陣取る巨大魔獣を見比べる。
新手の出現にどの程度の強さかとアキラは増援の黒い魔物に襲い掛かる。当たり所が良ければ一撃で倒せるが、大きめの個体は二撃が必要か?
一度目の増援よりは多少強くはなっている様だが、所詮は人狼の敵ではない。しかし、後方に陣取る巨大な魔物はどうだ?魔法攻撃が得意そうな風ではないな、身体がデカいだけならやり様はある。
「この魔獣さえ撃退すれば、あとは雑魚ばかりだ!」
増援の黒い魔物は門を護る冒険者達に任せても構わないだろうと判断し、アキラは手前の魔物は無視して、巨大魔獣へと一気に飛び渾身の蹴りを胴に喰らわせた
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北門の増援の新たな魔物を自分の力をさらに高める為の実践の相手とし、更に効率の良い戦い方を模索していたメイの耳に冒険者達の悲痛な叫び声が届いた。
「ああ!?南門があのデカイ奴に破壊された!?」
「拙い!あのデカブツ、城門を破壊する為に送られて来たんだ!」
「南門が突破されるぞ!」
南門が崩壊すれば、ここでいくらメイが魔物の侵攻を防いでいても、南側から魔物の群れが雪崩れ込む事になり、イグニスの街は壊滅する。最高神から下された命を遂行できなければ、己の存在理由など塵芥より無意味なものに成り下がってしまう。
あのアキラですら守り切れない相手が送り込まれたのか?それに対しこちらにはそれ程の強敵が送られていない、アキラとの差はまだ埋まらない、そう言う事か。
「お前達!ゴブリンの警戒に10人だけ残して南門に行け!」
ここは何とかする!メイは叫び冒険者達を崩壊する南門へと向かわせた。
それまで均衡を保っていたイグニスの街の攻防が、遂に綻びを迎えた。




